マガジンのカバー画像

卓上遊技再演演義 GFSセッション記録1998-2002

82
20年以上前に著者がサークルで遊んでいたTRPGのセッションのリプレイ小説シリーズです。 第6期「ヤン編」がこのほど同人誌として改定再版することになりましたので、記念にその前史に…
運営しているクリエイター

2021年6月の記事一覧

23.「あんたドジだからね」

 洞窟から出た一行は休養もそこそこにすぐに飛空船に飛び乗り、再びリンクスを探して旅に出た。といっても今度はジークを追いかけるのではなく、リンクスをさらったゾア…つまり隷属の鎖の魔神を追う事になるわけである。相手は人間じゃなくて魔神なのだから…取り付く島がないように見えるのだが、実際のところはそれほど絶望的なわけではない。相手の行きそうなところはたかだか知れている …というか、彼らに想像つきそうなところは一個所しかないのである。  隷属の鎖の陰の支配者マヌエルの居城…上方世界側

24.「おまえたち…なぜここに」

 リキュアの勘は大当たりだった。    宿屋から出たタルトは、早速大神殿の近くの物陰に隠れるとリキュアに自分の考えを言ったからである。リキュアはやっぱり、という表情をわずかに示したが、それ以上の反対はしない。代わりに彼女はどうやってこの「奴隷調教所」に忍び込み… そして脱出するのかという問題を切り出した。   「何とか…なると思う。」 「根拠、有りそうね…」 「実は、俺…一度この地下、行ったことがあるんだ。」 「本当!?」    タルトの言葉はさすがのリキュアも驚きだった。リ

25.「一つ奥の手があるんだ」

 ジークはじっと…刺すような瞳でタルトとリキュアを見た。タルトはリキュアとどうしたものかと顔を見合わせてうろたえる。  座っていたジークは立ち上がると彼らの傍らに来て、床に(タルト達が食欲がないせいで)残っていた食料をわしづかみにするとがつがつと食べはじめた。そのあまりに見事な食べっぷりにリキュアとタルトはあきれたようにジークを見る。  タルトは恐る恐るジークに話し掛けてみた。   「ジーク…なぜここにいるんだ?」 「リンクスをとりもどす。」    ジークはタルトの方を振り向

26.「おまえだけがリンクスを」

 タルトはジークの不思議そうな…丸っこい、意外とかわいらしい目にうなずくと、静かに目を閉じた。あの時…つまりさっきリキュアにも話したことだが …ドランをこの大神殿から助け出したときと同じ事…つまりあの指輪から知った力を使うのである。「移動と変化のルーン力」 …    タルトの心の中にある何かを捜し求めた。その力…光としてしかまだ知覚できないのだが…がいったい何なのか、まだタルトははっきりとは判らない。ただ、いつのまにか彼自身の第2の天性として根づいている力だった。しかし、本当

27.「ずっと前に…根を上げるかと」

「ふっふっふ、やっぱり来たのか、ジーク…」    ゾア…鎖の魔神は腕組みをしながらタルト達を見回した。身の丈が3m近いその魔神は…スキンヘッドで、頭に独特のヘッドギアが特徴的な大男の姿だった。革らしき大きな分厚いベルトを腰や肩から渡しているので筋肉がひときわ盛り上がってみえる。…自信たっぷりに組んでいるその腕は、黒光りして黒檀のようである。  タルトは思わず頭を抱えたことは、どうして隷属の鎖の連中、特にスレイブマスターの「男」はどうしようもないマッチョな奴等が多いのだろうとい

28.「私の名はスカール」

 あの「石」といっても、それはただの石ではない。白い…半透明な乳白色の石で、不思議な光を放っている。明らかに…強大な魔法力がその石には込められていることがよくわかる。  石を取り出したタルトにリキュアはびっくりしたように言った。   「タルト…それは?!」 「…彼女にもらったのさ。」 「彼女?…まさか…」 「そ、そのまさか。」    リキュアにもその石をタルトにくれた「彼女」が誰であるのかはっきりと判った。そう…ジャコビー、帝国最強の神将…そして、タルトが追い求めている大切な

29.「ジークに…よろしく」

 ジーク…いや、魔道士スカールは驚くタルト達に静かにうなずいた。その表情はさっきのジークの荒々しい、しかし見慣れるとかわいらしいところもある表情とはまったく違う。そう…大魔道士にふさわしい穏やかな…そして堂々としたものだった。  スカールという名に…タルトは聞き覚えがあった。そう、さっき思い出したばかりといってもいい。ジャコビーがワイズマンの正体を彼に話してくれたときのことである。 「ワイズマン、つまりあの大水晶はね…もともと昔、あなたたちの賢者アスラームが『スカール』とい

30.「海の最高神官に」

 一行のところに…「平然と」戻ったタルトとリキュアの淡々とした報告を聞いて、仰天したのはクレイたちの方だった。大体絶対に逃げられないと噂の地下の奴隷調教所に挑んで、スレイブマスター・ジークと仲間になって、堂々と外に出てきたというだけで十分驚くべきことだった。元々剣闘士奴隷だったクレイなどは、もう全身から冷や汗がでそうになるほどである。  一番最初にこの…ほとんど恐慌状態というべき状態から脱出したのはナギだった。   「それじゃ…タルト、君を助けてくれた…ジークの体に宿っている

31.「ジークよりたちが悪い奴じゃねぇかよ」

 帝都に帰ったクレイたちは早速…あの苦手極まる「海の最高神官」殿のところに向かった。何度かお話しているとおり、帝国を支える三神官の一人であるはずのクレイだったが…困ったことに後の二人とはすこぶる相性が悪い。いや、後の二人…天空の最高神官と海の最高神官の間もギクシャクしているところを見ると、要するに3人3様で牽制しあっているのである。  が…ともかく今回の場合は、海の最高神官ははじめから非常にクレイの作戦行動に理解を示していた。単なる狼藉物ジークを追撃する…というのにしてはあま

32.「あの弓が? … あっ!」

 最高神官マヌエルは … この「時間の扉」の前でクレイたちが立ちふさがっていることに別段驚いたような様子はなかった。そんなことは先刻承知の上、という表情である。もちろん … 内心のほどは(このたちの悪い大神官のことだから)わからなかったが、少なくとも表情には何も出さない。  クレイはマヌエルに対して止まるように言った。これは当然の措置だろう。帝国に友好的な神が守る、この時間の扉に対して踏み込もうとすることは、帝国に敵対する行動と取られても仕方が無い。   「おお、これは帝国の

33.「ジークとは俺が戦う」

「そりゃまあ、マヌエル殿と戦えといわれても困りますな。」    マヌエルと戦闘せずに済んだということで、一番ほっとしたのはヴィドらしかった。これは当然といえば当然である。隷属の鎖教団とも取り引きが有り、かつ地上側の最高神官ルードヴィヒの計らいでパーティーに参加したヴィドである。とてもじゃないがその隷属の鎖の大神官と戦う気にはなれないのは無理もない。  ヴィドだけではなく、烈もそうだった。   「悪いですが拙者もそう思います。マヌエルと戦うことはほとんど意味がない。そもそも相手

34.「俺は…おまえに合流する!」

 ナギとジークの果たし合いは…やはりジーク優勢だった。ジークはただ格闘だけを仕込まれた野獣といってもいい男だったのに対して、ナギはいくら格闘がうまいといっても呪術士である。もともとの地力が違った。力を込めると周囲で見ていても息が止まってしまいそうなほどの腕力のジーク相手である。ナギが苦戦するのは当然だった。  苦戦するナギをクレイは祈るような気持ちで見つめていた。はじめから勝てるとは思っていない。同じ剣闘士だったクレイですら勝てなかったのである。そう …これはナギという青年が

35.「それでいいんだ、クレイ…」

 さて、タルトの想いはともかく、他の連中は、それはそれで決して冗談をいえる状態ではなかった。何せ、今までかなりの部分パーティーを引っ張ってきたところのあるナギの爆弾発言である。裏切りと取られても仕方がない。  元々ジークという男に関しては、パーティーの中でも敵意と好意が異常なほど入り交じり、評価が分かれていた。悲劇の勇者として同情する声、リンクスをめちゃめちゃにしたという点で非難する声…とにかく強敵なのだが…それだけに人となりには評価が分かれるのである。  そもそもこの争い

36.「どうせならみんなで」

 クレイの突撃宣言で状況は動いた…というべきだった。少なくとも何人かはクレイの後についてマヌエルの方へと突っ込みはじめたからである。もちろん上方世界の、それも飛行呪文をかけての空中戦であるから、見かけはかなりの距離であるが、意外なほどマヌエルのいるところまでの到達時間は短い。  クレイ、ナギ、そしてタルトの三人は、純粋に憎むことができる相手であるマヌエルに突っ込むことで、ようやくやる気が出てきたようだった。実際のところ、ジークと遣り合うのは気が進まないどころか、内輪もめ感がつ