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春助
2024年5月8日 21:02
波のような音がきこえる。目の前が真っ白になって、全く人々の表情が見えない。遠く連なる光。ライトはものすごい光で私を照らしている。途端に緊張が解けて、その時いつも、光はこんなに眩しかったっけ、と思う。その時間が、本当に好きであった。無機質なリズムが赤く点滅している。夕闇に浮かぶビル群のたくさんの光を背景に、左右から電車のライトが次々に近づいてくる。東海道線はいつもとんでもなく人が詰
2024年4月9日 22:56
たとえば、猫が空を飛んでいるような。私はぼけっとして草むらに寝そべって、雲の流れを見ている。意外と雲は早く流れているな、と思いながらミサイルの通知を無視する。それで死んでもいいし、もしくは生きていてもよいのだ。暑くもなく、寒くもなくて、風は体温よりわずかに低いので、このまま眠ってしまいたくなる。しかし、猫が空を飛んでいるから、そろそろイワシが降るな、というような。たとえば、宗教とか音
2024年2月18日 19:56
午前8時に目が醒める前、浅い夢を見た。寒くて布団から出たくないはずだったのに、そうではなかったからだ。突然やってきた麗らかな陽だまりに、思い出したのだ。春の匂いはとても穏やかで、凍えていた木やビルが弛緩してゆくのを感じた。季節の隙間は、世界のふたが外れる一瞬の綻びである。これから世界に春のふたがされたら、私はまた何も思い出さなくなる。だから今夢を見たのだ。砂時計。ペテルギウスはも
2023年6月23日 10:33
東京はいずれ海になる。ペトリコールは破滅の匂いがして、この季節は私にある種の安心をもたらす。白濁した夜に、生温い風を受けながら屋上で煙を吐く。ざあざあ。やっと終わるかもしれない。このまま雨が街を侵食し、灰色のビルは風化してゆくかもしれない。あの赤い点滅は今一体何を示すのだろうか。生命の浪費が生む、地上の星。光が滲み出して、私は妙に浮かれている。ジーン・ケリーなら、きっと雨に唄うだ
2023年6月29日 19:17
午後3時、室外機。静寂の昼下がりは、まるで丑三つ時のようである。蝉は羽化していないのか、ひとつも鳴いていない。積乱雲は雪の壁のように街を包囲し、田んぼに映る反対の世界に挟まれたそこには、誰もいない。静かである。ただ聞こえるのは、見知らぬ家の室外機から発せられる低周波音だけだ。飛行機は音を立てずに、ゆっくりと空に筆跡を残している。私は宗教を信じない。しかし、このひとりの世界を見る