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使える財務指標#3 マツキヨとコスモス薬品で学ぶ「販管費率」の使い方

使える財務指標シリーズ第三弾は「売上高販管費率」を取り上げます。一般的には省略して「販管費率」とも呼ばれますので、ここでは販管費率と表記していきます。「脱・丸暗記」をキーワードに財務指標を使えるようにするのが目標です。

なぜ「脱・丸暗記」か?

企業を分析するとき、どの財務指標を使うのが適切なのかは、なかなか悩ましく、簡単には答えが出ません。けれど、適切なモノサシを選ぶことができなければ、企業の実態を理解することはできません。

世の中には数多の財務指標が溢れかえっています。資格試験や社内の研修でこれらを勉強した経験がある人は多いと思います。けれど、多くの場合丸暗記になってしまっています。私もそうでした。

丸暗記型ではなく、使える財務指標をまとめていきたいと考えています。

販管費率の計算式

(売上高)販管費率とは、読んで字の如く売上高と販管費の大きさを比べたものです。計算式は「販管費 / 売上高 x 100」です。各社の損益計算書を使えば簡単に計算することができます。

計算式はわかりました。けれど、そもそも販管費とは一体どういうものなのでしょうか。そして、どうすれば販管費率という指標を使えるようになるのでしょうか。

そもそも販管費とは何か?

企業のコストは大きく二つに分けられます。売上と直接的に対応する「売上原価」と、それ以外の「販管費(販売費及び一般管理費)」の2つです。

つまり、販管費はコストのうち売上と直接結びつかないものを指します。具体的には、研究開発費や広告宣伝費、セールスパーソンの人件費などが該当します。ここで重要なのは、研究開発や広告宣伝をしたからといって必ず売上が生まれるわけではないということです。ですから、これらは売上原価には含めず、販管費として処理するわけです。

そして、販管費の中身には業界特性や経営戦略が色濃く反映されています。今回は、化粧品業界を例に説明します。

なぜ資生堂はトップ女優6人を同時にCMに起用したのか?

コスメ業界は、ブランドイメージが商品価値を左右する業界です。ですから、たくさんのお金をかけてテレビCMなどの広告宣伝活動を行います。マーケットリーダーの資生堂もその一つです。

かつて資生堂はTSUBAKIのCMに「女優6人衆」を起用しました。仲間由紀恵さんや広末涼子さん、竹内結子さんなど錚々たる顔ぶれです。トップ女優を6人も揃えるには多額の費用が必要になるはずです。けれど、コスメ業界の特性を踏まえると、これは必要な投資だと資生堂は判断したわけです。

このように、販管費の使い方を見ることによって、業界の特性やトレンド、企業の経営戦略などを立体的に把握することができるわけです。

かつてフランスの哲学者デカルトは「困難は分割せよ」と言いました。企業分析も同じです。分解することで、企業の特徴や問題点が浮かび上がってきます。

販管費率をどうやって使うのか?

販管費率は、粗利率とセットで論じることが必要です。なぜなら、両者はリンクしている可能性が高いからです。

例えば、製薬業界は新薬開発のために多額の研究開発投資が必要という特性があります。実際に、製薬企業は売上高の約15%を研究開発費に投じています。なぜなら新薬開発の成功率が極めて低いからです。新薬開発が成功する確率は12,888件に1件とのデータがあります。確率にすると0.008%です。

そして開発に成功した新薬は、特許に守られ、高い薬価で販売されることになります。ですから、医薬品業界の粗利率は極めて高くなります。

このように、研究開発やマーケティングに多くの費用(販管費)を使うことが商品の差別化やブランド力向上につながります。その結果、高い価格で販売することが可能になり、粗利率が高くなります。販管費率と粗利率はリンクしているわけです。

ですから、販管費率は粗利率とセットで分析することが必要なのです。

マツキヨとコスモス薬品を販管費率で分析

販管費率と粗利率をセットで分析することで、企業の業界におけるポジションを理解することができます。前回のnoteではアパレル業界のユニクロとしまむらを比較しました。今回はドラッグストア業界を取り上げます。

下記のグラフは、ドラッグストア業界の上場企業各社の粗利率と販管費率を示したグラフです。2019年度の決算数値をもとにしています。グラフの両端に位置するマツキヨHDとコスモス薬品を取り上げて解説します。

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マツキヨHDとコスモス薬品の販管費率は、9.0ポイントも異なります。両社とも6,000億円規模の売上高がありますから、金額ベースでは500億円~600億円の違いがあるということです。

なぜ同じ業界に属するマツキヨHDとコスモス薬品の販管費率がこんなにも違うのでしょうか。それは、両社が異なる経営戦略を採っているからです。

マツキヨHDは売上高の7割を医薬品と化粧品が占めています。都市型の立地に強みを持ち、化粧品のカウンセリング販売にも力を入れています。ですから店舗の賃借料や人件費が増加し、販管費率が高くなります。

一方のコスモス薬品は、売上の6割を食品が占めています。食品は医薬品や化粧品と異なり、商品単価も安く粗利率が低くなる傾向にあります。そこをコスモス薬品は、販管費率を低く抑えることでカバーしているわけです。

※ コスモス薬品がどうやってローコストオペレーションを実現しているかは下記のnoteをご参照ください。

まとめ

今回は(売上高)販管費率について取り上げました。販管費率と粗利率をセットで分析することによって、業界の特性や企業の経営戦略を深掘りすることができます。今回は以上です。

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