いすゞ自動車から見るROE万能説の誤り
現代の企業経営者にとって、ROEは全く無視できない指標になっています。
2014年に取りまとめられた「伊藤レポート」において、企業が目指すべき会計指標として「ROE 8%」が示されました。以降、「ROE 8%」は多くの企業経営者にとって達成すべき基準の一つになりました。
また、アメリカの議決権行使助言会社ISSは、過去5年間の平均ROEが5%未満の企業の経営トップ(社長や会長)の取締役選任議案には「反対を推奨する」と明言しています。つまり、ROE 5%未満は経営に問題があるのだから、そんな社長には経営を任しておけないよ、というわけです。
そんなROEは必ずしも万能ではない、ということをいすゞ自動車の事例からお伝えします。
いすゞ自動車のROEの推移
上記は、いすゞ自動車の1997年~2006年のROEの推移を示したグラフです。これを見ると、2つの点に目が行きます。まず、ROEが▲300%超~80%まで非常に乱高下している点。そして、2004年にROEが80%超と極めて高い水準に達した点です。これは、同時期に決算を迎えた上場企業で1位の数値でした。
なぜ、いすゞ自動車は短期間でROEが急回復したのでしょうか。
いすゞ自動車の純資産額の推移
いすゞ自動車のROEが急回復した理由は、純資産の急激な縮小にありました。同社は、2000年3月期から4期連続で純損失を計上し、その金額は累計3,580億円にも達しました。
その結果、同社の純資産額は約1,700億円から264億円へと、大きく減少することになります。3年間で80%以上も減ってしまったわけです。
ROEの計算式は、当期純利益/純資産です。前者に関して言えば、いすゞ自動車は様々なリストラ策を講じたことにより、約550億円の当期純利益を計上しました。一方、後者の純資産は一時的に小さくなったままです。
このようなからくりによって、いすゞ自動車のROEは2004年に急激に上昇したのです。
ROEは万能ではない
いすゞ自動車の事例から分かるように、ROEは決して万能ではありません。短期的に純資産額が大きく変動することによって、ROEが大きくブレる可能性があるからです。
ROEは短期的には大きく変動する可能性がある。これがまさに、ISSが「過去5年間のROEが平均して5%を下回った場合」に、経営トップに改善を迫るべきとした理由です。
当初は5年連続でROEが5%未満の企業を対象とする方針だった。1期でも5%以上になると基準を満たしてしまうため、「資産売却などによる一時的な収益回復は、資本効率の改善につながらない」などの意見を踏まえて修正した。- 日本経済新聞 より
企業の実態を把握するためには、ROEに限らず、他の会計指標においてもそれぞれの性質を理解した上で活用していくことが求められます。
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