石井柊伍

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石井柊伍

music, words, acoustic/electric guitar, composition Twitter: @shugo_ishii Instagram: @shugo_ishii

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最近の記事

悪夢日記 九 『エアコンから漏れる』

築何十年かの古い賃貸に住んでいた。 家賃等が安いことを理由にその物件に決めた。平家で家具つき、あまり稼ぎが多くない身としては、多少の怪しさはあれど、好物件である。 夏が過ぎて、そして秋に入って、少しの暑さが戻る春の日。迷ったけれど、このままでは部屋の中が暑いな、と冷房を入れた。涼しさが部屋に満たされる。これで読書に集中できる。 しばらくして、どこからか水が滴る音がすることが気になった。すぐに冷房からだろうな、と察しがついた。近くまで寄って冷房を見上げてみたが、やはり、ど

    • 自由連想 #3 『幽霊の作り方』

      一、扉の前に立つ 二、できる限りの想像力を使い、その扉の向こうに幽霊がいることを思い浮かべる。どのような姿なのか、大きさ、色、匂い、その視線の先。鮮明なほど良い 三、扉を開ける。そこには何もいないはずである 四、扉を閉め、もう一度、扉の裏側に幽霊がいることを考える 五、扉を開ける。そこには何もいないはずである しかし、頭の中では確かに扉の反対側に幽霊がいたのだ。 幽霊の不在を確認してしまうから消えてしまう。常に見えないところに幽霊はいるのだ。 扉の向こう、カーテ

      • 悪夢日記 八 『美しい頭蓋骨』

         女の人と田舎道を歩いていた。横に並ぶのではなく彼女は前を行き、私の手を引いていた。  およそ175センチの私の身長よりも背が高く、肩を越すくらいの艶やかな黒髪、袖のない服から伸びる白く細い腕、香る甘さが刺激した。  舗装されていない道の上、私たちは話もせず歩いていた。日は高く、青い空と白く千切られた雲、遠くに見える山々は静かに、鳥はさえずり、木々は風に揺れている。穏やかなこの時間に幸せを見つけた。  遠くに見えていた古びた小屋、いや小屋と呼ぶには大きいけれど、厩舎くら

        • 悪夢日記 七 『夜の団地と踊る男』

           深夜、ある団地に行くと、全身黒い服の男が、子供たちが遊ぶための広場で不思議な踊りをしている、という噂があった。それが人なのか幽霊なのかはわからない、けれど、静かに踊っているらしい。  自宅から歩いていける団地であったので、噂の真相を確かめることにした。  午前二時頃。何棟も立ち並ぶ団地が私を見つめている。昼間の眩しい白い壁が、月と街灯によって薄灰色に塗られている。  一棟、二棟、三棟目、大通りから団地に続く脇道へと抜け、四棟目、そこには砂利が敷かれた遊具も何もないただ

        悪夢日記 九 『エアコンから漏れる』

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        • (超)短編小説
          2本
        • 悪夢日記
          11本
        • 自由連想
          4本

        記事

          悪夢日記 六 『呪い』

          バスツアーに参加していた。 私は霊的能力、祓う力を持っていた。ツアーの最後に高尚な神社に行くというので、楽しみにしていた。 バスは森の奥地に入っていく。道幅は細くなっていくばかり。神聖さは隠される。そういったところだろうか。それならば、バスツアーなんておかしい話だけれど。 神社に着いた。赤く塗られていない木の鳥居が構えられており、小さな社が奥に見えた。全体的に空間が灰色に感じる。鳥居の前で一礼、中央を歩かないように参道を進む。どうも雰囲気が妖しい。水の流れていない手水舎

          悪夢日記 六 『呪い』

          超短編小説 『紫陽花を数えて』

           こんな噂が学校で流行っている。「紫陽花で花占いをすると、それがたとえ嫌いで終わったとしても恋が叶う」  馬鹿じゃないの。紫陽花はいくつ花びらがあると思っているの。それに紫陽花の、あの花っぽいところは花びらじゃありません。萼です。習ったでしょ。    中学校二年生になってこういう話題が増えた。あの子は誰が好き、だとか、あの先輩が格好良いだとか。少数派ではあるが、何人かはつき合っている人がいるみたいだった。  十四歳にもなると明らかに「女の人」としての体になって、振る舞

          超短編小説 『紫陽花を数えて』

          超短編小説 『底のない美しい花瓶』

          「ねえ、今夜、空いてない?」 「いいよ、ご飯食べようか」 「……じゃあ、北口ね。私、少しだけすることあるから、先、待っていて」    私は大学構内、学部棟の廊下ですれ違ったあなたに声をかけた。あなたは少しも不思議そうな顔をせずに、私の心を覗き込んで、ただ頷いた。胸元の白いシャツが窓から差す光を反射して眩しかった。窓の向こうには、西に少しだけ傾いた太陽と、綺麗な青空。その雲のない青さは、今年も終わることと、冬が始まったことを告げていた。  夜の少し手前、先に帰っていたあなたを

          超短編小説 『底のない美しい花瓶』

          悪夢日記 番外 『過去』

          楽しい夢ばかりをみる 醒めなければいい 夢であった。悪夢だ。

          悪夢日記 番外 『過去』

          悪夢日記 五 『犬神』

           どこか大都市。四つ辻の一筋を歩いており、私の歩くその先には薄暗く小さなトンネルがある。  周りには大きく現代的なビルが幾つもあるのに、そのトンネルは寂しく苔むして、家電販売店やゲームセンターの音、人の騒ぐ声が混雑する中、静かに静かにトンネルは闇へ引きこむ口を開けていた。  四つ辻のちょうど真ん中に、汚らしい服を着た、痩せた壮年の男が地面をスコップで掘っていた。  ここではじめて道路がコンクリートではなく、土だということに気がつく。おかしな街だ。  それなりに大きな通

          悪夢日記 五 『犬神』

          自由連想 #2 『美しさ』

          「命は美しい。  だけれど、そこに付随する生活がどうしようもなく汚い。  たとえば花を見たとき。心清らに、ただ、綺麗だと思う。赤も、青も、薄桃色、紫、橙、光色、どのような色であっても、そこにあるだけで存在を肯定される。  しかし、それは人が花の生活を知らないからだ。見ることができない故、花は美しいと思いこむのだ。土の中に必死で根を伸ばし栄養をとること、隣り合った植物との競争、虫に傷つけられたこと、そんなものを知ってしまったらたちまち醜くみえてしまうのだろう。見てしまった

          自由連想 #2 『美しさ』

          悪夢日記 四 『静かの庭、雪』

           どこか日本家屋の縁側に座っていた。  見つめる先には雪が降っており、これまた日本庭園、といった風の庭は静かに白んでいた。  大きな岩も、次第に苔むしたところが見えなくなり、ただ一面の白になった。何もなかった。  この世界には音がなかった。なにひとつ聞こえなかった。  動いているものは雪だけであった。私は呼吸をしていなかった。  苦しい。空気が重い。空気ではない、重力、強い重力が働いているのだ。しかし私はそのような状態でも、あぐらをかいたまま庭を見ていた。指ひとつ動

          悪夢日記 四 『静かの庭、雪』

          悪夢日記 三 『交通事故』

           異様に混んでいるコンビニを出た。半袖を着ているので夏であるようだ。蒸し暑い。コンビニの目の前には片道三車線の大きい交差点があり、車やトラックが行き過ぎていた。  赤信号の横断歩道の上、ひとりの女子高生がいた。落し物でもしたのか、あたりを必死に見まわし、しゃがみこみ、また何かを探す仕草で、その横断歩道に交差する車線では交通渋滞が起きていた。周りの人たちは始めこそ、危ないから早くこっちに来なさい、だなんて心配していたけれど、そのうち馬鹿な女子高生だ、と興味を薄れさせていった。

          悪夢日記 三 『交通事故』

          悪夢日記 二 『幽霊』

           灰色、水しぶき、反射する空、傘を差さないで歩いている。  ゆっくり、ゆっくり歩いていた。体が重いわけではない、そうしたかったから。憂鬱な気持ちでもないの。  後ろで激しい衝撃音がした。  目の前で交通事故が起こった。車がガードレールを歪ませ、あたりには機械片が多く落ちている。血が散っている。  とても空気が重い。はじめて交通事故、人が死ぬところを見てしまった。声が出なかった。あたりには他にも通行人がいたが、誰も何もできず、ただ呆然と立ち尽くしているようだ。雨が降って

          悪夢日記 二 『幽霊』

          悪夢日記 一 『西洋の巫女』

           西洋の巫女になっていた。齢は若く、十七、八くらいだろうか。  私の家系は代々、神官をしているのだが、衰退の一途を辿り、きっと私が最後の代になるのだろう、と悟っていた。  とても俗世界に興味があった。こっそりと教会、神殿、お城なのか、とにかく西洋の造りをした建物を抜け出して、街へ行き、そこで暮らす人を眺めるというのが好きなのだ。  ある日、お告げがきた。いや、呪いの言葉が聞こえてきた。  神託をうける荘厳な聖堂の広間、中央には像が置かれている。その像が何を模しているの

          悪夢日記 一 『西洋の巫女』

          悪夢日記 序

           生きている人です。名前は一冬としています。  自由連想では取り留めもなく、思いついたままを言葉にして、小説のようにみせているのですが、新たに「悪夢を書き留める」という試みをしようと思います。なんとなく。  一部、噂として「夢日記を書くと狂心に取り憑かれる」と言われているようですが、まあ、そうなったら仕方ないですね。  もし、私が自由連想や悪夢日記を更新しなくなったときには、あいつは月になったのだ、とでも思ってください。

          悪夢日記 序

          自由連想 #1 『空』

            空を知らない少年がいた。私は彼に空を教えてあげたかった。  海というものがあるでしょう。広くて、青くて、深い、この世のすべての命がもしかしたらそこから始まったかもしれない、と思わせるくらい優しい海。その海が上にあるんだ。 「上?」  うん、上。 「地面の続きにある海が、それが上にあるの?」  そう、見上げるとそこに海がある。高いところにあるものを取ろうとするとき、背の高いお父さんの顔を見るとき、悲しくて悲しくて喘いだとき、そんなふうになにかを望むみたいに、上を見

          自由連想 #1 『空』