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悪夢日記 二 『幽霊』

 灰色、水しぶき、反射する空、傘を差さないで歩いている。

 ゆっくり、ゆっくり歩いていた。体が重いわけではない、そうしたかったから。憂鬱な気持ちでもないの。

 後ろで激しい衝撃音がした。



 目の前で交通事故が起こった。車がガードレールを歪ませ、あたりには機械片が多く落ちている。血が散っている。

 とても空気が重い。はじめて交通事故、人が死ぬところを見てしまった。声が出なかった。あたりには他にも通行人がいたが、誰も何もできず、ただ呆然と立ち尽くしているようだ。雨が降っている。

 少し先の曲がり角を行く人が目に入った。傘を差さずに歩いており、黒いワンピースは蛇のように濡れ輝いている。足が不自由なようで、引きずるようにしていた。


 見てしまった。気づいてしまった。彼女の跡を血が辿っている。雨と混ざった赤色は、徐々に道路に広がって、はっきりとした血の川になっていった。

 不思議なこと、足が彼女のもとに向かっていた。そして、ふらふらと道の角まできている。ここを曲がれば彼女を追うことになる。

 幽霊を知りたいという明確な意志があった。この道を曲がってやる。




 ——夢であった。





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