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悪夢日記 九 『エアコンから漏れる』

築何十年かの古い賃貸に住んでいた。

家賃等が安いことを理由にその物件に決めた。平家で家具つき、あまり稼ぎが多くない身としては、多少の怪しさはあれど、好物件である。

夏が過ぎて、そして秋に入って、少しの暑さが戻る春の日。迷ったけれど、このままでは部屋の中が暑いな、と冷房を入れた。涼しさが部屋に満たされる。これで読書に集中できる。

しばらくして、どこからか水が滴る音がすることが気になった。すぐに冷房からだろうな、と察しがついた。近くまで寄って冷房を見上げてみたが、やはり、どこからか風が吹き込んで、機械内部に結露ができ、それが滴る音のようだ。

少し経てば直るだろうと、放っておいた。

ぽつり、ぽつり。
ぴちゃん、ぴちゃん。
ぽとり、ぽとり。
ぐちゃ、ぐちゃ。
どちゃ、どちゃ。

もっと早くに気に掛ければよかったけれど、この時期に水音がするのはいつものことだし、それに合わせて、私の面倒くさがりと小説のおもしろさが、まあいいか、という気持ちにさせた。

うるさいなあ、と横を見る。

血が滴り落ちていた。細長い肉がエアコンの送風口から垂れ下がり、風に揺れて壁に張りついたり、離れたり。肉塊は床に小さな山を作って、周りには血の湖が広がっている。真っ赤な床と壁。エアコンは血と肉を落としながら稼働している。

びたん、びたん。
ぼとり、ぼとり。




——夢であった。


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