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悪夢日記 五 『犬神』

 どこか大都市。四つ辻の一筋を歩いており、私の歩くその先には薄暗く小さなトンネルがある。

 周りには大きく現代的なビルが幾つもあるのに、そのトンネルは寂しく苔むして、家電販売店やゲームセンターの音、人の騒ぐ声が混雑する中、静かに静かにトンネルは闇へ引きこむ口を開けていた。

 四つ辻のちょうど真ん中に、汚らしい服を着た、痩せた壮年の男が地面をスコップで掘っていた。

 ここではじめて道路がコンクリートではなく、土だということに気がつく。おかしな街だ。

 それなりに大きな通りの、行きかう人も多いところで穴を掘っているので、当然ながら通行の邪魔になっている。歩行者たちは嫌そうに大袈裟な素振りでその男を避けて通っていた。

 私は妙に気になり、わざとその男の近くを歩いてみることにした。

 男は必死に穴を掘っている。気づかれないよう後ろを通り、背中越しに穴を盗み見ると、犬の頭がその穴の中、もう少しで掘り出されようとしていた。

「興味あるか、そうだろう。犬神を掘り返すなんて聞いたことないだろう。可哀想になあ」

 半分ほど腐敗して崩れている犬の頭をみて、言葉を失っている私に気づいた男が、振り返らずに、恐ろしいことを言った。

 犬神を掘り返す。

 良くないものを見てしまった、と、怖くなり、私は急いでトンネルの向こうにある待ち合わせ先のお店まで駆け足で逃げた。

 振り返ることなど、決してしなかった。

 結局、待ち合わせをしていた知らない誰かと会い、デパートで買い物をした。そのあいだ、犬の鳴き声がずっと聞こえていた気がする。




 ——夢であった。待ち合わせをしていたあの人は誰だったのだろう。


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