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【受賞者インタビュー】アイデアも技術も「挑戦」から広がった! Unityユースクリエイターカップ2022『ObotShooter』

全国の高校生や高専生、小・中学生が、自分自身で制作したゲームを発表する大会があるのをご存知だろうか?
その名は「Unityユースクリエイターカップ」!

昨年12/11に本選が行われた本大会では、集英社ゲームクリエイターズCAMPも協賛しており、スポンサー企業賞として「集英社ゲームクリエイターズCAMP賞」の授与を行った。

受賞者は、なんと中学3年生の矢木 彰人さん
応募作品の「ObotShooter」は準優勝にも輝き、堂々たる二冠を達成した。

二冠を達成した応募作品「ObotShooter」

今回はそんな矢木さんに、応募作品についてや、ゲーム制作を始められた経緯などをみっちり伺った。
そこには、さまざまなものから知識を吸収して、真摯に制作へと取り組む、すでに成熟したひとりのクリエイターの姿があった。
これからゲーム制作を始めようという若人のみならず、長年作り続けてきたベテランの方も必見の内容となっている。


「マインドストーム」から始まったプログラミング道

――この度は受賞おめでとうございます! 現在は中学生ということを審査後に知って驚いたのですが、パソコンやUnityなどの使い方はどのように勉強されたのでしょうか?

矢木
小学生のころに習い事として、レゴでロボットを作ってプログラミングができる「マインドストーム」というのを1年くらいやっていたのが始まりだったと思います。
元々はサッカーを習っていたのですが、僕があまり行きたがらなかったので、もっとやりたいと思えるような習い事がないかと、母が探してくれました。

その後に中学受験をすることになるのですが、それが終わったときにお祝いとして自分のパソコンを買ってもらいました。
ただ家では「漫画・アニメ・ゲーム」というような娯楽にはあまり触れられないことになっていたので、「じゃあまた、プログラミングでもやってみようか」と思い、始めました。

最初は「Scratch(子供の教育向けプログラミングツール)」を使っていたのですが、「マインドストーム」でプログラミングがどういうものかはわかっていたので、ほとんど躓くこともなく使えました。
それで結構ゲームを作っていたのですが、じきに限界を感じてUnityを使い始めたという感じですね。

――なるほど……。では自由にゲームを買ってくれる親御さんだったら、今の矢木さんは生まれていなかったかもしれませんね(笑)。

矢木
そうですね。良くも悪くも……(笑)。

――でもそこで、ゲームを「作る」ということには反対されなかったんですね。

矢木
そうですね。プログラミングの「学習」ということで、勉強の一環として捉えられていたみたいです。

――なるほど。では「ゲームを作るぞ」ということで、Unityについても独学で覚えられたんですかね?

矢木
そうですね。ただ「Scratch」が簡単にできたので、Unityも「なんとなくで使えるだろう」と思って始めたんですが、ぜんぜん簡単にはいかず……。本を買ったりWebで調べたりして、独学で学びましたね。

――すごいですね……。ちなみに今回の「ObotShooter」の開発では、ビジュアルスクリプティング(視覚的にブロックを組み合わせてプログラミングできる機能)などを使われたんですか?

矢木
いえ、スクリプトはC#で書いています。僕がUnityを覚えたときは、まだビジュアルスクリプティングがUnityの標準機能としてはなかったので。

――確かに、比較的最近に入った機能ですからね。ではC#も併せて独学で覚えていったということですね。

矢木
そうですね。

――今回の制作は主に夏休みを利用されたと思うのですが、中学生でしたら宿題やら部活やら、他にもやることがたくさんあったのではないかと思います。どのように時間を確保されたのでしょう?

矢木
実は夏休み前に、後先考えずいろんなことを安請け合いしてしまって……。
今回のUnityユースクリエイターカップのあとに学校の文化祭があるのですが、そこでVRゲームを作って発表することになっていたり、クラスでは劇のリーダーもやることになっていたり……。
もちろん夏休みの宿題もあるので、かなり追い詰められていましたね。

――えぇ!? めちゃくちゃ仕事が山積みだったんですね。その中でよくここまで作れましたね。

矢木
自分でも、なんでできたのかわからないです(笑)。

実は夏休み後も、本選のプレゼン資料提出と期末試験が被っていて。なので期末試験の勉強は全部学校の授業中にやってしまって、それ以外のことを家でやるための時間を確保していましたね。

――なるほど。そうやって時間のやりくりをされていたんですね。

本選で行われたプレゼンの様子

「フニャフニャ」のロボットは
Youtubeの解説動画と「母の感想」から生まれた

――本作でまず目につくのが、ロボットの「フニャフニャ」とした独特の挙動ですが、こういうゲームを作ろうと思った理由やキッカケは何かあったのでしょうか?

矢木
Youtubeの動画でラグドールの使い方を見たのがキッカケでしたね。
それを見ながらいろいろといじっている中で、試しにラグドールに銃を持たせてみたらすごく面白い動きになったので、「これはゲームに使えそう」と思いました。

普通の動きや、やられたときの崩れ落ち方も面白いですし。あとは銃を撃ったときの反動ですね。
FPSなどでは反動を作ることで、ただエイムを合わせて撃ちまくっても当たらないようにしていると思うんですが、このゲームの場合、ただ手に反動の力を与えてやれば、個別のアニメーションなどを作らなくても反動の動きが作れるので。

フニャフニャしたロボットのアクロバティックな動きが特徴的

――確かに。では動画を見ながらいろいろと試していくうちに「これはゲームになる」というアイデアが見つかっていったんですね。
ちなみに、主人公をロボットにした理由はなんだったのでしょうか? 一般的にはロボットって「硬い」イメージじゃないですか。どうして「フニャフニャ」としたロボットが生まれたのかなと気になりまして。

矢木
元々は人というか、棒人間みたいな感じだったんですよ。
それで家族にプレイしてもらったんですが、そのときに母が「人が銃で撃たれて倒れるのが、すごく悲しい」と言い出して。
「そんなものかぁ?」と思いつつロボットにしてみたら「これならまだ良い」と。

――なるほど(笑)。でも確かに、多くのゲームではやられた敵はパッと消えたりするので気になりませんが、ぐたっとした状態で人間の死体が残ってしまうと、人によっては嫌かもしれませんね。
その点ロボットだと、残酷さというよりは物悲しさを感じさせるというか。そういった部分も「ObotShooter」の良い味になっている気がします。

「学んで試す」ことで広がった発想と技術力

――本作はアクションも面白いですが、グラフィックの雰囲気も魅力的だと思いました。タンクに入った謎の液体や溶鉱炉が怪しく光っていたり、スポットライトを用いたライティングもしっかり演出されているなと。
こういった部分はどのように作られたのでしょうか?

矢木
作り初めの頃は、ライティングなどはまったく考えていなかったのですが、Youtubeで2Dライティングの動画を見て「これいいなぁ」と。
新しい機能を紹介している動画を見ると、すぐ試してみたくなりますね。
それでスポットライトを入れてみたり。あとポストプロセッシングも今回初めて知ったのですが、お手軽に高級感が出せるので入れてみました。

あと色の使い方にも気をつけるようにしています。
「色を多く使いすぎると、どこを見ていいかわからなくなる」という話をYoutubeで見て、「70%くらいがベースカラーで、あとはアクセントカラーを少し……」みたいな話もどこかで見たので、それらを元に画面がうるさくならないように調整しました。

溶鉱炉の光が危険な雰囲気を醸し出すステージ

――本作では「役立つものは青系、危険なものは赤系」みたいな、役割に応じた色分けもされていて、遊びやすいようにデザインされていますね。
色彩などデザイン的な知識も、動画などから学んで取り入れているんですね。

矢木
そうですね。最初はよくわからないことでも、とりあえずやってみるというのが大事な気がしていて。

ただ……新しいことを学んでいると、どんどんいろんなことを試したくなって、そのうち今作っているものとは別なゲームが作りたくなってしまうんですよね(笑)。 

「制作者が楽しめなかったら、そのゲームは終わり」
ギリギリまで調整して決めた難易度

――本作を作る中で、特に苦労したポイントは何かありますか?

矢木
やはり操作性の調整ですね。
「フニャフニャ」なキャラクターを操作するゲームだと「ヒューマン フォール フラット」などがあり、ああいうパズル的な、ゆっくり何度も試せるゲームであれば、多少動きに不自由があっても問題ないのですが、本作のようなアクションゲームでは、ちゃんと動けないとすぐやられてしまうので。
アクションゲームとして成立させるため、ボタンを押してすぐにレスポンスが返ってくるようには調整しましたね。

――ラグドールって普通はあまり制御して使わないですから、調整は大変そうですね(笑)。
しかも本作のように2Dプラットフォーマーがベースで、スティックにより銃の向きを自由に変えられるようなシステムはあまり見ないですからね。
審査コメントにも書かせていただきましたが、上手い人のプレイを見るのもすごい楽しそうですよね。RTA(リアルタイムアタック)とか。

矢木
自分でRTAをしたときの最速は2分半でしたよ(笑)。

――マジですか! 審査のときに見せてもらえば良かった!
私も審査のときにクリアしましたが、最初のボスがかなり難しくて(笑)。もうひたすらに攻撃しまくってゴリ押しでなんとか倒しました。

矢木
敵キャラの調整も苦労しましたね。
初心者向けにしてしまうと上手い人には物足りなくなってしまいますし、上級者向けにすれば初心者には厳しいという。
でも難易度を「EASY」「NORMAL」「HARD」とか作っても、絶対に「HARD」でやりたくなる人が多いと思うんですよ。「EASY」でクリアしても達成感が薄いというか。
そういう悩みはどのゲームにもあるとは思うんですが、このゲームはそれがかなり顕著で。

ゲームを一番プレイしているのは制作者ですし、そうして上手くなった状態で調整するから難しくなりがちで。
そんな状態で他の人にプレイしてもらっても「むずっ!?」って全然プレイできないんですね。
そういったもどかしさがありました。

なので敵のHPを下げたりといった調整は結構していて。最初のボスも、実は4回くらい弱体化しているんですね。
でも「これ以上弱くしたら、自分が楽しめなくなっちゃう」と思って、あれ以上は弱くできませんでした。

――私も過去にアクションゲームの仕事で「難易度選択を入れたい」と相談したときに、先輩から「自分で面白いと思う難易度にしろ!」と怒られたことを思い出しました(笑)。
自分の意思は持ちつつ、人の意見も聞きつつ調整するというのは、かなりプロっぽいというか、しっかり作られていることを改めて感じますね。

矢木
やっぱり「このゲーム面白い!」と言ってもらえるとすごい嬉しいし、いろんな人にやってもらいたくなりますからね。

――プロの現場ですと、たくさんのテストプレイからデータを収集して調整するようなこともありますが、やはり最後は「自分が面白いと感じるか」が大事になってきますからね。

矢木
制作者が面白いと思えなければ、そのゲームは終わりだと思うので。
大人数で作るならともかく、ひとりで全部作るなら、なおさらそうかなと思います。

筆者が苦労した最初のボス「COMBAT ROBOT」

「ゲームだけ作っていても、良いものは作れない」
今後の目標と展望

――では最後に、今後の目標などをお聞かせいただければと思います。
今後もゲームを作っていくのか、他のことにもチャレンジされるのかなど。

矢木
ゲームはもちろん作り続けますが、実はホームページも作ってみたくて、Webデザインの勉強もしています。

あと最初の方でお話しましたが、文化祭で発表するためのVRゲームを作っていて。それはなんとか完成したんですが、めちゃくちゃ大変でした。
普通のゲーム開発では見ないようなエラーもたくさん出てきて、何のエラーなのかもわからないという。
でもそういった苦労の中で、ある意味では無理やり学ばされたことが自分の技術になっていて。

こういう新しい挑戦の中で学んだことも、ゲーム作りに活かせるというか。
むしろゲーム作りって多分、ゲームだけずっと作っていても良いものは作れないと思うんですよね。
なので、いろんなことに触れて、いろんなものを吸収して、ゲームを作りたいなと思っています。

――本当に、おっしゃる通りだと思います。

矢木
学校の勉強もまったく楽しくはなかったんですけど、三角関数とかゲーム作りで使ったりするじゃないですか。
今までは何のためにあるのかわからなかったものも、「これ使えるじゃん!」ってわかったら面白くなるので。
そういう感じで勉強が楽しくなるのも、良かったなと思います。

――いやぁ、良いですね……! お母さんも大喜びではないでしょうか(笑)。今日は、我々まで勉強になるような良い言葉が、たくさん聞けたと思います。ありがとうございました!

矢木
ありがとうございました!


まだ中学生ということもあり、大の大人に囲まれて幾分緊張した様子で始まった本インタビューだったが、終わってみれば、我々も大いに学びになるような言葉の数々に、幾度も唸らされることとなった。

さまざまなことから学び、それを自身の制作に活かしていく姿勢や、人の意見も傾聴しつつ自分の意思を見失わなずに制作へ打ち込む様子は、もはや成熟したクリエイターとしての貫禄を感じた。

受賞作の「ObotShooter」はUnityユースクリエイターカップのページからダウンロード可能なほか、本選の様子もYoutubeのアーカイブから視聴可能なので、ぜひ併せてチェックしてみてほしい。


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