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The Match 2022: 那須川天心VS武尊 / もう地上波なんていらない?(アメリカの場合) Part 1
もう20年ぐらい前の話です。
オクタゴンの中で雄叫びをあげるマーク・コールマン選手の姿。
そして黒の背景に白文字で「UFC on NBC」
いま考えると、まさにイルージョンだった、ともいえることが起きたんです。
短期間でしたけど、NBCでUFCがオンエアされるかも?というCMが流れ、当時、アメリカの格闘技ファンの間では大きな議論が沸き起こりました。
まさかMMAが3大ネットワークで流れることはないだろ?(当時はまだFOXがそんなに大きくなかったんです)
テレビをつければ子供もすぐに観れる地上波で、MMAが流れることはない。
だって映画やドラマのヌードシーンはもちろん、お尻が少しでも写るシーンだってカットされるし、Fワードのような言葉は全部吹き替えられるのが地上波放送だよ。
プロ・スポーツ・マーケットという観点で見ても、他のスポーツの人気が強すぎる。
それにNFLとMLBは歴史も長い。
4チームで発足されたAPFP(アメリカン・プロ・フットボール・アソシエーション)をNFLの始まりと考えるのなら、1920年から、ということになる。
野球に至っては、ナショナルリーグが発足された1871年なのか、1855年に創設された全米プロ野球協会が運営したリーグなのか、どこまで遡って語ればいいのかわからないぐらい長い間、アメリカでは愛されているプロ・スポーツだ。
NBAだって、80年、90年代と20年に渡りその人気を支えてきたマジック(・ジョンソン)、ラリー(・バード)、マイケル(・ジョーダン)が引退したあとでも、コービー(・ブライアント)やシャキール(・オニール)のような新スターの参入で、その人気はうなぎ上り。
NHLだって「アイスホッケーの神様」ウェイン・グレツキーが引退しても人気が衰えないからこそ、1979年にWHAが解散してからスタートした拡張路線が20年以上も続いて、つい最近もコロンバス・ブルージャケッツとミネソタ・ワイルドが加わったばかりじゃないか。
これでNHLのトータル・チーム数は30だよ。
地上波放送は、枠の数が限られているんだから。
チームの数も試合の数もシンプルに多すぎる。
あれだけヨーロッパや南米で人気のあるサッカーだって参入できないのが現実。
そんな意見が多数を占めていました。
これ、あながち的外れな意見ではないんですけど、ここでは書けない理由が一番のネックとなり、UFCをNBCで、というディールは結局まとまらず。
あまり多くの人たちが気づかないまま、この話は自然消滅しました。
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あれから約10年後、UFCはFOXで念願の地上波放送に進出したんですけど、残念なことにMMA団体として初、ではなかったんです。
エリートXC(Elite Extreme Combat)という団体が、UFCより約2年ほど早く、2008年にCBSでオンエア。
でもエリートXCは、その翌年には経営困難に陥り消滅。
UFCも地上波放送のFOXで流れたのは結局9回だけ。
2018年に両社の契約は終了。2019年からUFCはケーブル局のESPNと契約し、現在に至っているんですね。
けどNFLのスーパーボウル、MLBのワールドシリーズ、そして今まさに真っ只中のNBAファイナルズも、まだアメリカでは地上波放送がメインです。
NHLだけが、去年からABC、ESPNとTNTとの複雑な契約を締結し、スタンリーカップに関しては偶数の年はABCがをオンエアし、TNTが他のプレーオフ全試合をオンエア。
奇数の年はその逆ということになりましたけど、地上波放送はまだ続いています。
アメリカには、他に巨額な利益を弾き出す大学スポーツというのがありますけど、バスケとフットボールは、NCAA(全米大学)選手権の決勝となると、やはりこれも地上波でのオンエアとなります。
でも若い世代の多くは、テレビではなくコンピューターや携帯などの端末で映画やドラマ、スポーツ中継を観ているというのも紛れもない事実です。
テレビなんか、生まれてこの方、買ったことない、という人もたくさんいます。
現在アメリカでオンエアされているHBO制作の人気ドラマ「SUCCESSION」でも、こんなシーンがありました。
多数のテレビ局を一気に買収することを目論む主人公の息子が、ヘッジファンドのマネージャーである親友に、父親のやろうとしていることは時代に逆行しているのではないか?と相談すると、こう言われるんです。
「え!?テレビ?テレビって、ジムの天井の隅っこにある、あの四角い箱のこと?」
もう地上波なんていらない。
果たして、本当にそうなのか?
あくまでもアメリカというマーケットを例に、ということになりますけど、これについて、わたしの思っていることを書きたいと思います。
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アメリカの地上波は詐欺!?
まずアメリカにおけるケーブルTVの存在についてご説明したいと思います。
なぜケーブルTVがここまでアメリカでは普及しているのか?
これ、一言でご説明できます。
それはですね、地上波が詐欺だからです。
普通、テレビを買ってきて、コンセントにつなげて電源つければ、少なくとも地上波はちゃんと観れますよね。
日本なら、TBSとか日テレとかフジテレビでもテレビ朝日でもNHKでも、普通に観れますよね。
アメリカは、そこから違うんですよ。
テレビと一緒についてくるアンテナをつけて、それをどれだけ透き通るような青空に、パーフェクトな角度で向けても、しっかりと受信しない。
画面が綺麗に写らないんですよ。
NBCもCBSもABCも。
わたしは、1980年6月に家族でアメリカのハワイに移住したんですけど、当時からそうでした。
ちょうどビョン・ボルグとジョン・マッケンローがウィンブルドンの決勝で初めて当たったんで、観ようと思ってテレビをつけたら、写りが悪くて悪くて、ボールが全く認識できず。
ボルグとマッケンローが走って、ラケットを振り回しているとこしか観れなかったんです。
アンテナの角度を調整したり、テレビを叩いたりしたんですけど、全く効果なし。
ボールが認識できない状態で観るテニスの試合って、フラストレーションが溜まるんですよ。
これさ、テレビ自体が壊れてるっしょ!?
はっきり言って、キレました。
けど、何をどうしたらいいのか見当すらつかず。
困り果てて、お隣に住んでいるおばちゃんに聞いたら、説明してくれたんです。
「ケーブルを引かないと」
その時に初めて、ケーブルTVという存在を知りました。
この近所のおばちゃんによると、アメリカは国土が広い。電波塔の数にも限りがある。電波が全ての家庭に行き着かない。だからケーブルを引く。これ、当たり前。
そしたら全部のチャンネルが綺麗に見れるし、ESPNとか他のチャンネルもたくさんついてくるから、お得なのよ。
その時、わたしは12歳でしたけど、心の中でこうツッコミを入れてました。
国土が広いとかいうけど、ここ、ハワイだから。
でも仕方ない。まだ引っ越してきたばかりだから友達なんて皆無。そんなわたしにとって、テレビがちゃんと観れないというのはあり得ないことだったんで、両親を説得し、このケーブルTVというのを引いてみたんです。
見たことないボタンがたくさんついてるリモコン。
それを初めて手にし、テレビをつけた時は、たまげましたね。
ピシッと綺麗に写るからではないです。
そのチャンネル数の多さに驚愕したんです。
今考えてみると、この時、初めてチャンネルを「検索」するとか「チャンネル・サーフィイング」というのを経験したんですよね。
ざ〜っと観ても300以上もチャンネルがあったんです。
スゲェ。
テレビ好きの12歳からしたら、最高のおもちゃを手にしたようなものでした。
ワオ。24時間ずーっと映画ばっかり流しているチャンネルがあるじゃん!
初めは楽しかったんですけど、すぐに考えが変わりました。
テレビ買って、さらにまたケーブルTVにお金かけないといけないなんて、詐欺じゃね?
ならテレビを人に売りつける時に、これだけでは綺麗な画面でテレビ観れないですよと、ちゃんとセールマンは案内せいや。
ESPNとかたくさんチャンネルがついてくるからお得とか言うけど、厳密にはそれも有料だからね。
何百もあるんだから、1チャンネル0.03セントぐらいだからお得じゃない、と隣のおばちゃんは言ってたけど、それでもエキストラの出費はエキストラ。これは変わらないから。
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しかもこの時、もう一つ、初めて知ったことがあります。
PPVです。
このケーブルTVというものに加入すると、PPVというものを買えるようになる。
当時から、ケーブル局で流れているプロレスは、なぜか全て小さなスタジオで収録された無観客試合ばかり。正直、しょぼい内容のものが多かったんですね。
しかも試合の前か後に、プロレスラーがカメラに向かってギャァギャァと捲し立てている尺の方が、数倍も長ったんです。
でもそのすぐ後に流れるCMでは、ボブ・バックランドとかアイアン・シークとかアンドレ・ザ・ジャイアントとか人気選手が出てるんですよ。
おいおい、なら早く彼らの試合流せや。と、待てど暮らせも一向に流れないんです。
そこで、初めて気づいたんです。
あ、ケーブル局で流れる試合は、PPV大会に向けての宣伝マッチとPRトークなのね。
だからやけにレスラーたちは、話している時間とか、乱闘してる方が多いんだ。
全てはPPV大会に向けて盛り上げるためのTVマッチということなんですね。
え!?ということは、プロレスのビッグマッチを観るためには、また更に金を払わないといけないということなのか?
もうさ、これって地上波とケーブルTV局が仲良く手を握り、我々消費者を騙しているというか、結局金使わないと地上波すらちゃんと観れない。
それだけじゃなくて、新たにお金を使いたくなるPPV番組や最新映画のメニューがずら〜っと揃っている。そんなスキームになっているんじゃないか!?
これ、1980年の話です。
そしてこの年に、ケーブルTVを引くと、くっついてくるチャンネルの一つとしてスタートしたのがミュージック・テレビジョン。
略して、MTV、でした。
そのMTVで一番初めに流れたPVが、ザ・バグルズの「ラジオスターの悲劇」
音楽を聴くプラットフォームも、ラジオからテレビの時代になる。
ラジオのDJたちは淘汰され、いずれ消滅するのか?
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どの国でもどの時代でも同じ?
インターネットの普及により、消費者たちの生活も一変し、その中で消滅していった企業やブランドは山ほどあります。
そういった会社の共通点の一つは、ネット時代への対応に遅れた、つまり「ネット出遅れ」だというのは明白だと思うんですね。
そしてその新しい環境で新たな隙間産業を開拓したところが生き延びている。
アメリカのメディア会社を見るとそれが顕著に現れていると思うんです。
ラジオ局に関して言えば、いち早くネットに対応し、ポッドキャストなどにも力を入れ、特定のオーディエンスを獲得して行ったところは、しっかりと生き残っています。
CBSとの連携でニュースに力を入れたワシントン州のWTOP。全米レベルで人気のあるホスト(DJ)の番組、エンターテイメント・ニュースと、従来のラジオでは定番のトップ40の音楽だけに特化したカリフォルニア州ロサンゼルスのKBIG。クラシックとジャズの専門局だったのが、コンテンポラリーものをラインナップに加えるだけでなく、感謝祭の一週間前からクリスマス音楽をガンガン流すなどして、シーズンごとの音楽を流す局として新しいリスナーを獲得したニューヨークのWLTW。24時間スポーツの生中継とスポーツ関連の番組しかやらない同州のWINS。
プロ・スポーツ・チームと連携しているスポーツ専門24時間ラジオ局もあります。シカゴのWBBMなどは地元のNFLチームのシカゴ・ベアーズのフラッグシップ局になりながらも、親会社の持つWNBCのルートで、ニューヨーク・メッツ関連のニュースや番組などでリスナーを獲得しています。
この辺りのラジオ局は2021年の(売上げではなく)収益も、約53から95億円ぐらい弾きだしているので、順調と言えると思うんです。
紙媒体だと、NYタイムズ紙のように、早くからネット版を充実させサブスクリプション獲得に力を入れた所は更に巨大化しましたけど、そういった新しい動きの対応に遅れ、その為のインフラ整備などが重荷の一つとなり、破綻してしまったマクラッチー社のようなところもあります。
マイアミ・ヘラルド、カンザスシティースター、サクラメント・ビーなど30もの新聞紙を持っていても、時代の流れに乗り遅れると、一気に傾いてしまうこともあるんですよね。
逆に新しい時代に敏感に素早く対応し、飛躍的に拡大したところもあります。
ビデオやDVDのレンタルサービス会社だったネットフリックスなんか、その最たる例だと思うんです。
80年代にビデオ・DVDレンタル・マーケットを独占してたブロックバスターなんて、唯一のライバルだったネットフリックスを1000万ドル程度で買収する機会もあったのに、その時の繁栄に胡座をかき、最後はネット対応への投資ができなくなった時点で勝負あり。
そちらの方に早くから力を入れたネットフリックスに無残に敗れ去り、潰れました。
日本でも今や「ネット出遅れ」と揶揄されているの東京スポーツなどは、昨年は社員350人のうち100人近い社員のリストラを余儀なくされています。
でもこういったビジネス戦争の根底にある流れの構図のようなものは、どの国でもどの時代でも同じだと思うんですね。
堅城を誇ると思われているブランドや会社でも、新しい技術がもたらす改革、流れの対応に遅れると、痛い思いをする。
そうなると、ネット時代への対応だけでなく、もうアメリカでは半世紀近く続いているケーブルTVの存在なども含め考えた時に「アメリカの地上波TV」と「日本の地上波TV」を、同じ位置付け・感覚で語れるのか?
ここまで書いたんで、お分かりになると思いますが、マーケットも、これまでの経緯・歴史も違いすぎるので、その答えは、明らかにノーなんです。
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ライセンス・フィーだけではない地上波の利点
でもさ、今の時代、PPVの方が地上波からの放映権料より良いっしょ?
アメリカの場合だと、それはケース・バイ・ケースですし、本当のところは、PPVマーケットが今も急激に成長しているか?というと、そんなことはないんです。
まず初めに、簡単に比較できるので、アメリカの地上波やケーブル局が、プロ・スポーツの試合をオンエア、そして配信するためのライツ、その権利に対して支払っているお金の話をしたいと思います。
様々な言い方がありますけど、とりあえずここでは「ラインセンス・フィー」という言葉を使わせて頂きます。放映権料と同じだと思って頂いて構いません。
現行の契約だと、ESPNがUFCに支払っているライセンス・フィーは、日本円で年間約390億円と言われています。
一部の人たちによると、今の日本の地上波の皆さんは「お金がない、お金がない」が口癖らしいですけど、そんな感覚の脳みそでは、到底理解できない金額かもしれません。
でも地上波の4大メジャーは、これを遥かに凌ぐんです。
2021年に、NBC、CBS、そしてFOXの3局と11年契約に合意したNFLが、この契約で得るライセンス・フィーは、毎年約1兆3000億円です。
毎年、ですよ、これ。
11年の間に受け取る総額ではなく、毎年NFLに支払われる額です。
32チームに平等に振り分けたとしても(実際はそこまで簡単ではないんですが)、毎年各チームが受け取れる額が、406億円ぐらいという計算になります。
更に、地上波で流れることで得る収益は他にも多々あります。
それをここで一つ一つ説明してもキリがないんで、一番デカイのにだけ触れます。
それは、地上波で流れることでつく協賛企業です。
有名なスーパーボウルのCM枠の値段を見てもお分かりになると思うんです。
今年は30秒枠の値段が約9億円でした。
2020年にCBSがスーパーボウルをオンエアした時は、30秒枠が約7.5億円。(これにプラス、ネット配信の方でもCMを流したいのなら、追加で約4000万円、広告主は支払わないといけない契約だったそうです)
ネット配信がこれだけマーケットのパイを占めている時代でも、スーパーボウルのような人気スポーツイベントのCM枠の値段は、毎年順調に上がり続けているんです。
そんな巨大なマーケットに、UFCが参入したくない、なんていう訳ないんですよね。
だからこそ、昔はNBCと交渉のテーブルについたんですし、9大会だけに終わりましたけど、FOXと契約し、なんとか地上波放送まで漕ぎ着けたのも、この地上波がもたらすマーケットが喉から手が出るほど欲しいから。
本音は、地上波にもうまく絡みたい。
そうに違いない、と、わたしは思っているんです。
地上波で流れることで発生する巨大な利益を考えても、企業なら当然のことですし。
本当は喰い込みたいけど、なかなか参入できない場所。
それが格闘技側から視る、アメリカのプロ・スポーツにおける地上波なんです。
この状況がそのまま続いていくかどうかは、わかりません。
でもNBCもCBSもABCもFOXも、何もしないで指を咥えていただけ、なんてことではないんです。
それぞれネットでのプラットフォームもしっかり確立していますし、特に2020年7月にNBCUniversalがローンチした配信サービスPEACOCKなんて、物凄い勢いでマーケットを席巻してます。ComcastやViacomなど巨大コングロマリット傘下の4大ネットワークが、配信会社に大きく水をあけられる、なんていう状況でないことは確かです。
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地上波で育ったKSW
けどそれって、アメリカの話だけでしょ?と言う方もいらっしゃるかもしれないですけど、MMAに関して言えば、それも違うんですよね。
一番わかりやすい例がポーランドのKSW (Konfrontacja Sztuk Walki)。
RIZINで活躍中のクレベル・コイケ選手が2018年まで参戦していた団体です。
あそこはもう10 年以上も前から、ポーランド国内では全盛期のPRIDEのような人気を誇っているんですけど、その大きな理由は地上波放送なんです。
2004年にワルシャワ・マリオット・ホテルの中にあるスポーツ・バーで開催されたKSWの旗揚げ大会。観客動員数は僅か300人ほどでしたけど、第2回大会から状況が一気に好転した理由はただ1つ。
ポーランドの3大地上波の一つ、Polsatでのオンエアがスタートしたからなんです。
もちろん、それだけが理由でKSWが大成功したという訳ではありません。
KSW経営陣の慎重なビジネス戦略も、その要因の一つです。
Polsatがついたからといって、変に急かすことなく、そこからも大会は年2回のペースを数年間キープ。
4人または8人トーナメントを開催していくことで、元UFCライト・ヘビー級チャンピオンのヤン・ブラホビッチ選手や、現在でもKSWで活躍しているルーカス・ユルコフスキ選手やミカエル・マテラ選手など、先々団体の要となった選手たちを育成。
2007年、既に国内ではかなりの人気選手だった(のちに戦極/SRCにも参戦した)マメッド・ハリドヴ選手を獲得をしたのを機に、2008年から大会を年に4に増やしたんです。
それでも2009年だけは、ハリドヴ選手が戦極/SRCで2度試合しているので、KSWも2回しか大会を開催しなかったという所も、どれだけKSW経営陣が堅実なのかを物語っていると思います。
生粋のポーランド人ファイターたちが、MMAの世界でもトップを獲れるのでは?
そんな幻想を抱かせてくれたハリドヴ選手やブラホビッチ選手、マテラ選手らの存在により、スポーツ・ファンを獲得したKSWの人気が爆発したのが2009年。ワールド・ストロンゲストマン・コンテスト3連覇のマリウス・プッツナウスキー選手の参戦。
これが起爆剤でした。
自身のバンドを結成し音楽活動もしているプッツナウスキー選手は、ポーランドのお茶の間では知られた存在。どちらかというとスポーツ選手と言うよりは、それなりに名の通ったタレント。
そんなプッツナウスキー選手とKSWとPolsatという地上波は、最高のマッチングだったんです。
そこからはとんとん拍子で、KSWはポーランド国内で多くのファンを獲得。びっくりするような視聴世帯数を弾き出していきました。(2010年の時点で、大会ごとの平均視聴世帯数は600万世帯とも一部では報道されていました)
そんなファン・ベースがあるからこそ、5万7776人という大観衆を動員し、スタジアム大会を開催することもできた訳ですし(これは2002年に国立競技場で開催されたDynamite!に続きMMA史上では歴代第2位)、ぶっちゃけ、先週現役を引退したヨアナ・イェンジェイチック選手がUFCでベルトを獲得し何度か防衛して、ポーランドの地上波にバンバン出るようになるまでは、国内ではKSWの方がUFCより遥かに知名度が高かったんです。
余談ですが、プッツナウスキー選手のKSWでの2戦目の相手は、日本の川口雄介選手でした。そして同大会でハリドヴ選手と対戦したのが桜井隆多選手です。
この試合の翌日、ブラリと街に出た川口選手と桜井選手は、一瞬にして多くのファンに取り込まれたそうです。
ポーランドでは、それぐらいの波及力があるのがPolsatという地上波で、それにうまく競技とエンタメという両要素を乗せ、多くの国民のハートを掴んだMMAコンテンツ。
それがKSWなんです。
そして、ここで追記すべき点が二つほどあります。
KSWは、スタジアムで興行を打てるぐらいになっても、年4回というペースを変えなかったという点と、PPVには一切手を出さなかったということです。
常に確実に入ってくる収入源を優先し、それが最終的にKSWというブランドの盤石性を際立てる結果になったと言えるかもしれません。
そんなKSWが、去年の11月に、ヨーロッパの多くのMMAファンを驚かす記者会見を開きました。
17年続いたPolsatとは再契約せずに、オンライン配信会社のViaplayとの契約を締結。2022年からは大会数も年4から一気に12に増やすとアナウンスしたんです。
人口が日本の3分の1ぐらいのポーランドだけでなく、一気に近隣国にも進出。今年から、KSWは、スウェーデン、ノルウェイ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、エストニア、ラヴィトア、リトアニア、オランダとトータルで10カ国で視聴可能になったんです。
それだけでなく、あの慎重なKSWの経営陣が、8大会も増やすだけメリットがある、と判断した。
ということは、それだけのペースで大会を開催しても、今までにない大きな利益が確実に見込めるライセンス・フィーを、KSWはVisplayから得ていると考えて間違いないと思うんです。
それでも今年も大会自体はポーランド国内オンリー。石橋を叩いても渡らない式ともいえるKSWの経営スタイルにはブレがないという証拠ですし、これはKSWの選手増強にも、そしてこの地域の選手全体のレベルアップにも繋がっていくはずです。
このあたりの国々から、またイェンジェイチック選手やブラホビッチ選手のような新しいスター選手が出てくる可能性が高い。
そう、わたしは思っています。
(続く)
The Match 2022: 那須川天心VS武尊 / もう地上波はいらない?(アメリカの場合)Part 2「米PPVマーケットが衰退した理由は、DVD、ネトフリ、メイウェザー?」>>>
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