見出し画像

尊敬と信頼を目指して。正反対の二人が「対話」で築いてきた夫婦関係

価値観が合わない夫婦。
一緒に暮らしていくことが辛い……と、感じている方もいるのではないだろうか。

出会ったときは仲良くしていたけれど、ライフステージが変わり、環境が変わり、お互いを知るほどに「この人とは合わない」と感じる場面が出てくる。

しかし、沖縄で介護事業を営むリンクスの経営者である與那城将さんと、取締役兼経理部長としてともに会社を切り盛りする與那城みゆきさんは、お互いのことを価値観がまったく合わない、「正反対」と感じながらも対話を重ねることで、夫婦の危機も会社の危機も乗り越えてきたという。

リンクスが1億4000万円もの債務超過を脱したときに取り組んだ、会計の明瞭化と透明化。この取り組みも、夫婦での対話のなかで、みゆきさんが提案したものだ。

今回は、ふたりが行ってきた対話を軸としつつ、会社と夫婦それぞれの危機を乗り越えた経緯について話を伺った。


みゆきさんのまっすぐさが導いた経理の透明化

――みゆきさんが、リンクスで働くこととなったきっかけを教えてください。

與那城みゆきさん(以下、みゆきさん):将さんとの結婚が決まった時から、いつかはリンクスの事業に携わることになるだろうと覚悟は持っていました。ある時、義両親から「将を手伝ってあげてくれないか」と話をもらったことがきっかけです。「自分が事業に携わるべきタイミングがきたんだな」と働くことを決心して、リンクスの経理として勤務しはじめました。

最初はリンクスの前身であるインリンクの経理の方に教えてもらいながら、仕事を学んでいきました。経理に携わるのははじめてだったので、自分でも調べつつ実践を通じて業務を覚えていきました。

――リンクスは将さんのご両親が創業された会社で、会社の経営に家族で携わっていらっしゃいます。「会計において公私混同しないことを徹底すること」「職員に対してお金の流れをオープンにする」ことを提案されたのは、どのような意図があったのでしょうか。

みゆきさん:リンクスの経理を引き継いだ時、実際のお金と財務上の数字がきちんと合っていない状態で渡されたのが、理由のひとつです。自分の業務が正しいのかもわからず、不安を抱えていました。この不安を自分としてもなくしたいし、いつか経理を引き継ぐことになる誰かを不安にさせないためにも、きちんと数字を合わせたい、クリアにしたいと感じるようになりました。

さらに、当時読んだある本に「公私混同をしている会社は危険だ」と書かれていたこともあり、当時、どんぶり勘定で行われていた経費計上を脱却するべきだと感じ、将さんに提案しました。

ーーみゆきさんの提案を受けて、将さんはどう感じましたか。

與那城将さん(以下、将さん):みゆきらしいな、と思いました。彼女は筋が通っていて嘘をつかない性格なんです。仕事でもそれは変わらないんだなと感じました。とにかく何事にもまっすぐなんです。それゆえに生きづらい部分もあると思うんですが、僕も会社も、彼女のまっすぐさに助けられましたね。

――「まっすぐゆえに生きづらい」とは、どういうことでしょうか。

 みゆきさん:「言ったことをやらない」とか、「言っていることとやっていることが違う」ことに納得できないんです。やらないなら言わないほうがいいと思うし、もしできなかったとしても、その理由をきちんと説明してほしいです。幼少期に、親が言っていることとやっていることが違っていたり、約束を守らなかったりと、理不尽な目に遭うことも多かったので、こう思うようになったのかもしれません。

将さん:やると言ったことを、できていなかったら「嘘つき」だと言われます(笑)確かにそうなんですが、言ったことをやらないこと=「嘘つき」と、ストレートに言われたことがこれまでなかったので、すごく面白いなと思いました。

本質をストレートにぶつけてくるので、それを受け止めきれない人には、彼女は敬遠されてしまうんです。かといって、自分を偽ることもしません。
みゆきさん: 母親がなんでもはっきり言う人だったので、幼い頃から思ったことを相手に伝えることが当たり前の環境で育ったんです。Netflixでアメリカのドラマを観るのが好きなのですが、彼らは思ったことをストレートにぶつけ合っていて気持ちがいいですね。私にとっては、理想的なコミュニケーションなんです。でも、日本では思ったことをストレートに伝えることは、良しとはされない風潮があります。

小学生時代、仲良し3人組で過ごすことが多かったのですが、ひとりの子がいない時に、その子の文句や悪口を私に言うんです。それを聞いて、本音で話す人は多くないんだなと感じていました。それに、もうひとりの子の前では、私の悪口を言っているのだろうなと思ったんです。たくさんの友達はいりません。本音で話せる数人の友達がいればいいと思っています。

自分にないものを持つ相手から学んだこと

――おふたりは、「対話によって夫婦関係を築いてきた」と伺っています。夫婦の対話を通じて、学んだことを教えてください。

みゆきさん:将さんとの対話から学んだことのひとつは、「建前」の使い方です(笑)あえて言う必要のないことを言葉にしなくて良いのだと。また、その場を成立させるためだけの会話もあることを教えてもらいました。

それまでは、誰に対しても100%の気持ちでぶつかるものだと思っていました。でも、その必要はないのだと、言われてはじめて気づいたんです。100%で向き合うことが理想ではあるけど、「思ったことを率直に相手に伝えない」という選択肢も持てるようになりました。

あと、「根拠を持って話す力」も鍛えられました。結婚した頃の将さんは、すごく理詰めをしてくると言いますか、何を話しても「その根拠は何?」と返してくる人だったんです(笑)

「ただ話を聞いて欲しいだけなのに……、めんどくさい!」と思ったし、「この人は根拠がないと話しちゃいけないんだ」って、将さんと話すのが嫌になった時期もありました。

将さん:僕と話そうとしない妻に対して、「逃げんな!」って言ってましたね(笑)

みゆきさん:そう(笑)それで私が自分なりに「こういう根拠があるからこう感じてこうしたんだ」って組み立てた上で、話を挑むようになったんです。まだまだ言語化は得意ではないんですが、将さんと話す際に、根拠を持って話すことを意識するようになったおかげで、他の人と話す時にも根拠を持って論理的に話せるようになってきたかなと感じています。

私たちは同じ会社で一緒に仕事をしていて、仕事の会話はロジカルであるべきですが、夫婦の会話は必ずしもそうではないと思うんです。私は夫婦としての会話をしているつもりでも、将さんは仕事の会話だと思っていることがあって、すれ違いを感じることがあります。

そういうスタンスのズレを感じた時は、「私は仕事の会話のつもりではなかった」と伝えているし、夫婦の会話と仕事の会話は切り分けるようにしています。このように、思ったことをその場ですぐ伝え合うことで、お互いに相手を理解できるようになってきたのではないかと思います。

――理詰めされても諦めずに挑んでいくみゆきさん、すごいですね。将さんはどんなことを学びましたか。

将さん:出会ったばかりの頃に、「こんなに相手に忖度することなくズバズバ言える人がいるのか」と衝撃を受けました。僕は相手に気を遣ってしまうタイプなので、自分にはない彼女の率直な物言いに魅力を感じていたのだと思います。これまでハッとするようなことをたくさん言われすぎて、何を言われたかは覚えていないのですが(笑)「相手が何を感じているかなんてわからないじゃん」という言葉が今でも印象に残っています。

みゆきさん:私の言葉に対して、相手が喜ぶか、傷つくか、怒るかって、私にはわかりません。だから、相手の気持ちを考えながら話すことはできないと、話をしたんです。

将さん:僕はそれまでずっと、相手がどう感じるかを考えながら話をしてきたので、彼女の話を聞いたときは、「何じゃそれ」と思いました(笑)

でも、彼女の言葉の意味をよく考えてみたら、「本質を突いた言葉だな」と思えてきたんです。「自分が伝えたことを相手がどう受け取ったのか、どう感じたのかは相手にしかわからない」。だからこそ、「お互いにどう感じたのかを相手に伝えることが大事だ」と今は考えるようになりました。

最初は価値観や考え方がまるっきり違ったところから、僕も彼女を理解して変わってきたし、彼女自身も「建前」というものがあることを理解して、お互いに変わってきたんだと思います。今も考え方が違うところはたくさんあるけれど、「違うままでいいんじゃない」と、お互いを認め合う関係性を築けているのかなと思います。

関係性と同時に、理想の夫婦像も一緒に作ってきた

――価値観が合わない相手とともに居続けるのは大変なこともあるし、投げ出してしまう人もいると思います。おふたりが互いに歩みより、一緒にいることができるのはなぜでしょうか。

将さん:「自分自身が変わること」を成長だと思えているからですかね。自分で変えられるのは自分だけです。自身の成長を言葉にして伝えることができて、受け止めてくれる相手がいるから、お互いに成長していくことができるのだと思います。

みゆきさん:一番は『承認』だと思います。「どんな自分でも受け入れてもらえることがわかっている」から、安心できるし居心地がいいんです。この安心感があるからこそ価値観が違ったとしても、やってこれたのだと思いますね。

将さん:僕らも最初からこうだったわけではなくて、お互いを否定する言葉をぶつけ合ったこともあったし、別れてしまう寸前までいったこともありました。そこで思いっきりぶつかり合って、踏ん張って、お互いに自分を顧みながら少しずつ変わることができたからこそ、今があるのかなと思います。

ぶつかりあうことを避けて、しんどい時期を一緒に過ごしてこなかったら、上辺だけの関係になっていたかもしれません。「夫婦で対話することを諦めて一緒にいる」みたいな……。

一歩踏み出して相手に自分の気持ちを伝えて、さらにそこからもう一歩、「僕の言葉を相手はこう受けとったかな、こう感じたのではないか」と、自分の思いを言葉にして伝えることが大切です。価値観が違う他人どうしが一緒に暮らしていくためには、この一歩、二歩が、大事だと思っています。

みゆきさん:将さんが言うように、お互いにぶつかってきたからこそ、今がありますね。あとは、「互いを尊敬して信頼している夫婦」という理想の夫婦像を共通認識として持っていることも大きいと思います。

言い争いになろうとした時にも、「この話を続けていったとして、私たちは理想としている夫婦像に近づけるんだっけ」と、ふたりで冷静になることができるんです。

――「夫婦の理想像」は結婚した当初から持っていたのでしょうか。

みゆきさん:結婚当初は違ってました。将さんのご両親は、今でもこちらが照れてしまうくらい愛情表現豊かでラブラブなんです。私の両親は離婚していて、その後、母が再婚するまでは母子家庭で育ったので、愛情深い夫婦というのがあまり想像できなかったんです。

結婚したばかりの頃に将さんから「両親みたいな夫婦になりたい」と言われたとき、「無理だよ」と即答したことを覚えています。でも、義両親と同居させていただいた際に、ラブラブのおふたりを見ていて、なんとなく「こんな夫婦になりたいな」をイメージすることができるようになってきたんです。

将さん:うちの両親はみゆきが言うように、今もラブラブです(笑)でも、お互いに言いたいことが言えているかというと、母が父に遠慮しているように感じることもあり、「対話」という面では、僕らの方ができていると感じることもあります。

なにが正解ということではなく、それぞれの夫婦のカタチがあるのだなと感じています。紆余曲折ありながら対話を重ねてきて、「尊敬」と「信頼」を築き上げていくことが、僕にとっての「夫婦の理想像」になりました。

――最後に、互いを「尊敬」し「信頼」し合える夫婦でいるために、大切なことを教えてください。

将さん:「尊重」するのは比較的簡単だけど、「尊敬」って難しいですよね。妻にとって「尊敬」に値するのは、僕がやるといったことをちゃんとやって、それが継続できていることだと思うんです。だから、僕は有言実行するようにしています。それが積み重なることで「信頼」にもつながっていくのだと思います。

一方でやると言ったけれど、できていないことや継続できないこともあります。その時に、状況をきちんと伝えておくことで、「嘘つき」と信頼を損ねることがないようにしています。妻に「嘘つき」だと思われたくないですからね(笑)

こうした地道な積み重ねが、「尊敬」と「信頼」を作っていくのではないでしょうか。

これは、夫婦での対話だけではなく、子どもとの信頼関係構築にも通じるものがあると思っています。友人や仕事でも同じことが言えるかもしれません。

みゆきさん:これを言ったら私が傷つくかもしれない……ということも言ってくれることが愛情だと思っているので、言い続けてくれる人は信頼できるし、自分も信頼されていると感じます。逆に言われなくなったら、愛情がなくなって信頼されてないのかなと感じますね。

将さん:「好き」とか「愛してる」とか、言葉にして伝える愛情表現のカタチもありますが、耳の痛いことも言えるくらいに本気でぶつかりあったり、相手を否定せず認めたりすることの方が、「尊敬」と「信頼」を築くという点では大事ではないかと思っています。これが、僕たちの愛情表現のかたちですね。


【あとがき:サオリス・ユーフラテス】

おふたりから話を伺えたことで、人生インタビューで将さんが語っていた「尊敬」や「信頼」を夫婦の間でどのように築いてきたのかを、より具体的に知ることができた。

夫婦でぶつかった時に、相手と向き合うことを諦めず、お互いが一歩、二歩と踏み出してみることで、相手との関係性が深くなる。

夫婦とはいえ、他人。

自分とは異なる価値観を持つ他人と一緒に暮らしていくのだから、一筋縄にはいかない。

なにかの縁があって夫婦となったのだから、一度、深く向き合うことに挑戦してみる価値はあるのかもしれない。夫婦仲をこじらせまくってきたけれど、おふたりの話を聞いて、かすかな希望を感じた。

互いの思いや考えをぶつけ合い、互いを認め、自分を変化させる。
将さんとみゆきさんが対話によって培ってきた経験は、「人とダイレクトに“向き合う”介護サービス」を提供する、リンクスの事業に活かされている。

「直接伝える」「傾聴と承認」「否定しない」
リンクスの行動指針は、まさに、ふたりが実践してきたことなのだ。

「相手を承認することで自分も承認してもらうことができる。互いを承認し合える関係性の人と、ともに居られることが心を豊かにする。リンクスの事業を拡大することで、リンクスの理念や行動指針に触れる人が増え、豊かに暮らす人を増やしていきたい」

将さんが人生インタビューで語っていたことの背景を伺うことができた。


▼リンクス代表・與那城将の自己紹介noteです。興味をお持ちいただいた方は、読んでいただけるとうれしいです。

こちらはリンクスのヒストリーブックとリクルートサイトです。よかったらこちらも見てくださいね。

書き手 えなりかんな
聞き手・編集 サオリス・ユーフラテス


この記事が参加している募集

#企業のnote

with note pro

12,365件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?