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小説 ケア・ドリフト⑧

小説 ケア・ドリフト⑧

 ユニットのメンバーは自然とユニットに集まっていった。勿論、その中には丹野も含まれる。あの施設長や主任の説明では納得できないと誰もが感じ取っていた。
「どうして何も家族さんと話しちゃいけないの?それが全然分かんない。施設長も主任もバカじゃないの」
 若菜の怒りのトーンは天をも突き抜けんばかりであった。
「若菜さん、怒る気持ちは分からないでもないけど、ここで言うことじゃないわよ」
「丹野さん、じゃあ

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小説 ケア・ドリフト⑦

小説 ケア・ドリフト⑦

 結局、個人的な面談は開かれないまま、ユニットミーティングの日を迎えた。丹野は、上は口だけじゃないかと憤りを感じてもいたが、施設の状況をつぶさに見てきた彼としては、仕方がないだろうという思いもあった。しかし、最大の想いは面倒なことにかかわりたくないということだった。
 

 数日前、青嶋にメールを送ってから、返信が来たのはユニットミーティング当日だった。丹野が送ったメールは至ってシンプルなものだっ

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小説 ケア・ドリフト⑥

小説 ケア・ドリフト⑥

 休憩中に、葛西が入院するとの知らせが入った。ちょうど、丹野と一緒に休憩していた東野介護主任の携帯電話に連絡が入ってきたのだ。東野はどうにも不機嫌で、常にムスッとしながら食事を摂っていた。急いで食事を済ませて、喫煙所に逃げ込もうと丹野が画策していたところで電話がかかってきたのだ。
「葛西さん、入院するんだって。家族さんが必要な荷物を取りに来られるから、対応よろしくね」
 電話を終えると、東野はそう

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小説 ケア・ドリフト⑤

小説 ケア・ドリフト⑤

「それで、この施設がヤバいというのは、他にも要因があるんだ。施設長が言うには『私には決裁する権利がない』ってことなんだ。これってどういうことか分かるか?」
 岡田の顔が急に凄みを増した。声も地の底から出すような物に変質している。その声色に、丹野の表情もいよいよ曇っていく。
「つまり理事長が給料出すのを渋ったら、給料がストップするってことだよ。あの理事長の性格からしたら、儲けが少ないとなったら、やり

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