NPSの高さがブランドの未来に与える影響とは?
NPSの高さはブランドの未来の成長にどれくらい影響があるのでしょうか? そんな疑問に答えてくれる、興味深い研究を紹介します。
最新の研究から、NPSが高いユーザーは、囲い込み施策がなくてもブランドを継続利用する可能性が高まることが分かりました。
また、NPSが高いのヘビーユーザーに対しては、囲い込みが逆効果になるという結果も出ています。
はじめに:NPSとは何か?
今回取り上げるテーマは、多くの企業が着目している「NPS」です。NPSとは「Net Promoter Score(ネット・プロモーター・スコア)」の略で、顧客ロイヤルティ(企業やブランドに対する愛着・信頼の度合い)を数値化する指標です。
NPSの数値化の方法は次のようなものです。「このブランドを友人らに薦めたいですか?」といった質問について、0~10点の11段階で選んでもらいます。9~10点を選んだ人を「推奨者」、7~8点を「中立者」、6点以下を「批判者」と分類。推奨者の割合から批判者の割合を差し引いて算出するのがNPSです。
NPSが高いブランドは、ブランドのファンと良い関係を築いている、と言えます。また、良い関係の構築は、ブランドからの離脱を防ぎ、LTV(顧客生涯価値)を高めます。
LTVが高まれば、業績にもプラスの効果があります。したがって、NPSはブランドの将来の成長につながる先行指標だと考えられています。
研究の概要
このように、ブランドの未来にとって重要なNPSですが、実際にNPSの高さがどれくらい継続利用(リテンション)に影響を与えているのかを調査した、興味深い研究があります。
今回紹介するのは、マーケティング分野の世界的なトップジャーナルである「 Journal of the Academy of Marketing Science」2023年3月号に掲載されたの論文、「顧客の心をつかむ:ロックインと感情的な顧客体験がリテンションに及ぼす影響を明らかにする(Winning your customers’ minds and hearts: Disentangling the effects of lock-in and affective customer experience on retention)です。
この調査は、ヨーロッパのある国の通信会社のデータを使用し、48ヶ月(2013年1月から2016年12月まで)にわたり、業界で活動する全54社のモバイルサービスと41社のブロードバンドサービスから13,761人の顧客データをもとに分析しています。
これだけのデータを集めるのは大変なので、なかなかすごい研究だと思います。
研究者たちは、このデータを用いて、NPSの高さとリテンションの関係について分析しています。
さらに、同じ通信会社のモバイルとブロードバンドの両方を同じ会社にすると安くなる「バンドルサービス」や、2年縛りのような「縛り契約」といった「囲い込み施策」とNPSの関係も詳しく調べています。
それではさっそく、分析結果を見ていきましょう。
①NPSが7を超えると解約率が激減
まず、NPSの数値と解約率の関係を見てみましょう。
下記の図のように、NPSの高さがリテンションに効果があることがわかります。特に、NPSが7を超えたあたりから、解約率がかなり下がっており、強い影響があると言えます。
さらに、高いNPSを感じているユーザーは、別のサービスの解約率も下がることも分かりました。
例えば、あるユーザーがモバイルに対して高いNPSを示しているとすると、モバイルだけでなく、同じ会社のブロードバンドに関しても解約率が下がるということです。
カテゴリーを超えたリテンション効果があるのは興味深いですね。
②NPSが高ければ囲い込み不要
次に、バンドルや縛り契約など、囲い込み施策とNPSとの関係です。
当然ですが、バンドルや縛り契約は、かなり強いリテンション効果があります。
下記の図のように、バンドルや縛り契約がある場合は、NPSの数値に関係なく、高いリテンションを示しています。
一方で、バンドルや縛り契約が無い場合でも、NPSが高まるにつれて、継続する可能性が高まっているのがわかります。
ここから、次のようなことが言えそうです。
契約したばかりのユーザーは、当然ながらNPSは高くありません。そういったライトユーザーにとっては、バンドルや縛り契約のような囲い込み施策が有効です。
一方で、サービスを利用し始めた後に、満足のいく体験を受けてNPSが高まれば、縛り契約が終了したり、バンドルによるセット割引がなくなったとしても、継続してくれる可能性が高いということです。
NPSが高いユーザーに対して、コストがかかる囲い込み施策が不要だとすれば、その分だけ利益率を高めることができます。
NPSの向上は、継続率と利益率の双方を高める可能性をもたらしてくれるのです。
③ヘビーユーザー・高NPSには囲い込みは逆効果
利用状況とNPSも関係がありそうです。
この研究では、モバイルやブロードバンドの利用状況によって「ヘビーユーザー」と「ライトユーザー」に分けて分析を行っています。
下記の図の通り、ライトユーザーはNPSが高ければリテンションは高く、ヘビーユーザーはあまりNPSに左右されません。
サービスを頻繁に使っているヘビーユーザーは、NPSが高くても低くても、それが必要なので使い続けるというわけです。
面白い点は、NPSが高いヘビーユーザーは、囲い込み施策が裏目に出る可能性があるということです。
下記の図は、ヘビーユーザーだけを抽出して、バンドルの有無で分析した結果です。
分析によれば、ヘビーユーザーのNPSが0から10に上がるにつれて、バンドルによる解約率が0.10%から0.97%へと、逆に上昇してしまっています。
ヘビーユーザーが、自分のお気に入りのブランドから、あからさまな囲い込みだと感じるような施策を受けると、逆にネガティブに感じてしまっているのかもしれません。
まとめ:初期は囲い込み、その後はNPS向上
この研究からわかるのは、次のようなことです。
企業のマーケターとしては、次のような戦略が有効そうです。
NPSをただ計測するだけでなく、ユーザーの利用状況や、囲い込み施策の有無と掛け合わせて分析することの重要性が、この研究結果からは見えてきました。
(ちょっとマニアックな)おわりに
今回紹介した論文が掲載されているのは、「 Journal of the Academy of Marketing Science」という、マーケティングの分野でトップジャーナルと呼ばれる論文誌のうちの1つです。
前回のnoteでも紹介しましたが、マーケティング分野で国際的に有名な雑誌は6つあります。
影響力の大きさを示すインパクトファクターという数値があるのですが、「 Journal of the Academy of Marketing Science」は14.904。
ちなみに、前回のnoteで紹介した、マーケティング分野でトップの「Jounal of Marketing」はインパクトファクター15.360なので、拮抗しています。
トップジャーナルのインパクトファクターの数値を並べてみると、以下の通りです。
この数字をみると、ドラゴンボールの戦闘力を思い出してワクワクしてしまうのは私だけでしょうか。
このようなトップジャーナルに掲載されるためには、厳しい審査をパスしなければなりません。そのため、研究の新しさや確かさが、かなり高いレベルで求められます。
今回紹介した研究は、4年間・1万人を超える実際の顧客データを元にしており、相当しっかり検証している印象です。
前回のnoteで紹介したスタートアップのイノベーションの研究でも、30年間・200社以上のデータを使用していました。
時間の経過を調べる研究は、データを集めるのが大変なので難易度が高く、さすがトップジャーナルという印象です。
これからも、トップジャーナルの最新研究を分かりやすく紹介していきたいと思います。
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引用文献:Gao, L., de Haan, E., Melero-Polo, I., Javier Sese, F.(2023). Winning your customers’ minds and hearts: Disentangling the effects of lock-in and affective customer experience on retention. Journal of the Academy of Marketing Science. 51, 334–371. https://doi.org/10.1007/s11747-022-00898-z
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