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「法学入門」のそのまた入門書

「法」なんて言葉にこれっぽっちも興味を持ったこともなく、まさか自分が法に関する本を手にする日が来るとは思ってもみなかったが、その時は突如訪れた。きっかけは、水野祐さんがwiredの記事(下記リンク)でおすすめされているのを拝見して、最新刊だけじゃなくたまには昔の本(こちらは1967年発行)も読んでみるか?新書だし頑張ったら読めるよね?という甘い考えからだったが、気づけばノート(noteではなく紙の)にメモを取りながら2日で読み終えてしまった。興奮さめやらぬうちに、noteにもまとめてみようと思う。

今回はあくまで自分が読みながら取ったノートの殴り書きをもとに書いていくので、本の要約でもなければ感想でもありませんので悪しからず。泣

「法学入門」の入門書

著者の碧海純一さんはまえがきで、本作を世にある「法学入門」や「法学概論」の入門書という位置づけと書かれています。法についてド素人の自分にとって法との出会いがこの本でなかったら最後まで読めなかったと思います。

文化としての法

法は、言語・宗教・道徳・政治・経済などの文化の一部である、と。なるほど、そう言われると急に苦手意識が薄まったような気もしてきます。(ちなみに、言語の発展は人間を他の動物と分かつほどの進化についてもともと高度に発達した脳とともに大きく寄与した。つまり、いま・ここに限ることなく、抽象化・概念化できることで動画の使用も可能になった)

社会化と社会統制

社会化とは、「個人がある社会の中でその文化の型に合った行動様式を学習していく過程」のこと。一方、社会統制とは、「なんらかの制裁によって個人の行動を一定の期待された型に合致させる過程」とのことで、社会化に対して補助的な役割を担うと述べられています。そして、法がある種の社会統制機能として、人間に常に存在する反社会的動機を心理的に抑える反対動機として作用する、つまり殺人や窃盗などの罪を犯してしまったら懲役や罰金などの罰を受けてしまうことを知らしめることでその行為自体を予防する効果がある。

法の発展の"一断面"

ここで、"一断面"と言っているのは、法の歴史とはその社会の他の面での発展における1つの側面を切り取ったことに過ぎないからである、と。(ちなみに、経済史であろうと美術史であろうとそれは変わらない)

それを踏まえて、法の発展には以下の3点を挙げています。

①擬制(ぎせい):

一般的なウソと違い、双方がウソと知っている状態で成り立つ決まりのこと。(ウソと言えば普通は嘘をつく側だけがそれを嘘と知っていて嘘をつかれる側はそれを知らないからこそ騙されてしまうという構図)

擬制の例として、幕末以前の日本で仏教思想から哺乳類を食べてはいけないという決まりがあったが、ウサギだけは鳥ということにして食用が許されていた。ウサギはどう見ても鳥ではないが、当時の人みんながウサギ=鳥とすることで成り立っていた。(今でもウサギは一羽、二羽と数えるのは当時の名残りであるらしい)

②衡平(こうへい):

従来の法が社会の発展・変化に追いつかなくなった時に、裁判官が公平かどうかをジャッジして手続き上、従来の法の解釈を変えてしまうこと。

衡平の例として、古代ローマにおいて、誰かが亡くなった時、遺言がない場合は誰でも早い者勝ちでその人の財産をもらうことができたが、未亡人が手にできるよう、当時の法務官が手続き上取り計らっていたという。

③立法(りっぽう):

衡平のように社会の変化に法を合わせにいくのではなく、まず法を作り社会を変えにいくこと。

立法の例として、ドイツを模範に作成された大日本帝国憲法が挙げられている。当時の日本は、イギリスやアメリカのような自由主義・民主主義的な国家ではなく、ドイツのような官僚支配体制の確立をめざすことが、大急ぎで近代化を進めるうえでは理にかなっていた。

現代社会と法

社会の変化が著しい現代においては(現代と言ってもこの本が書かれたのはもう50年以上も前のことだが)、法の役割も大きくなっている。

この章のキーワードとして、「罪刑法定主義」と「第一次統制・第二次統制」、「安定機能・変革機能」の3つがある。

「罪刑法定主義」

これは、法律に犯罪と規定された行為に対して、同じく規定された刑罰の範囲を超えた刑を課してはならないというもので、犯罪人や一般市民を裁判官の恣意から守る作用がある。

「第一次統制・第二次統制」

第一次統制は、国家機関による統制そのもので、第二次統制は、国家機関による権力的な統制活動を統制するもの。犯罪人を処罰する法そのものが第一次統制であり、罰を決める裁判官の権力が暴走しないようにするのが第二次統制である。(これは上記、罪刑法定主義とも関連する)

第一次・第二次統制の関係性を考えるうえで、交通機関のスピードと安全性という2つの要求の関係性が分かりやすい。スピードは交通機関の発展に対する本来の目的に関する要求(=第一次的条件)で、スピードがもたらす副作用に対する抗議(スピードを求めすぎて事故率が上がるなど)として安全性という要求(=第二次的条件)をわれわれは求める。

「安定機能・変革機能」

安定機能の説明として、伝統的なマルクス主義が登場する。法を「階級的抑圧、搾取のための強制装置」の一部とみる考え方であり、それはつまり、法には既存のプレーヤーが持つ既得権益を新興勢力の攻撃から守るという保守的な役目があるとみる思想であった。

近代民主制のフィードバック機構

ここでは、冷蔵庫内を一定の温度に自動的に保つフィードバック機能(サーモスタット)と対比するかたちで、近代民主制のフィードバック機構について以下のように論じている。

ある国家の政治制度を正常に働かせるには、国民一人ひとりの理解と自主的な判断能力、それらを国政に役立てようとする不断の努力なくして作用しない。そしてそのためには、国民の教育と訓練の必要性がある。

このパートを読んでとても胸が痛いと感じた。今まさに政治に対してはさまざまに意見がぶつけられているが、好き勝手に意見する前に、私たち国民一人ひとりがやるべきことが山ほどあるのだ。

以上、昨日読み終わったばかりの本で、自分のメモを見ながらではあったが、改めて整理しようとするととても骨の折れる作業だった。自分のような法に対して免疫ゼロの方に少しでも参考になる内容があれば嬉しいです。長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました!


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