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読書ログ 『決戦!株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8ヶ月』

どんな本?

 大企業・LIXILで実際に起きたCEO解任劇を発端とするコーポレートガバナンスを巡る戦いを詳述したドキュメント。この本を読むまで「コーポレートガバナンス」は「聞き馴染みはあるが、それが具体的に何を指すかまではわからない概念」であったが、この本を通じてコーポレートガバナンスとは何が論点で、なぜ注目され、日本企業においてどのような問題を孕んでいるのかが非常によく理解ができた。

 8ヶ月間の激闘が350ページに濃密に集約されており、圧巻。最初から最後までハラハラドキドキの展開が続き、あっという間に読み進めてしまった。まるでよく練られた小説のようなストーリーで、「事実は小説より奇なり」という言葉がぴったりだと感じる。

 東芝やオリンパスのドキュメント、落合博満を評した「嫌われた監督」を読んだときにもそう思ったが、こうしたノンフィクションのドキュメントは、ビジネスや勝負などの本気の場にこそ人間のずるさや不合理さ、たくましさ、と言った陽陰両面の行動が現れていて面白い。また、大企業のコーポレートガバナンス改善というとてつもない難題に意志を持って立ち向かい、それを成し遂げた瀬戸の行動力や思考、生き様は非常に参考になった。バスケ部のエピソードに出てくる「へばったら頑張れ」は自分も今後意識していきたい。

おすすめ度

★★★★★
(ストーリーが抜群に面白い上に、読むことでコーポレートガバナンスに関する理解を深めることができる)

こんな人におすすめ

  • 会社の経営や経営学に興味がある人

  • ビジネス書と小説の両方が好きな人

  • コーポレートガバナンスが大事って聞いたことがあるけど、よくわかっていない人

学びのメモ

事件の経緯

  • トステム創業家の潮田洋一郎が自分の思い通りに会社を経営したいがために、取締役会を欺いた上でCEOの瀬戸欣哉を突然解任

  • 経営能力に乏しいが自分のこだわりを押し通し、会社を私物化するような行動も目立っていた潮田が、過去から自分が進めてきた経営を否定するような方針を推し進める瀬戸を嫌った(特に本社のシンガポール移転に反対したことが直接の原因と言われる)ものとされる

  • 本来こうした決定は経営における厳密なガバナンスの下行われる。特にLIXILは指名委員会制を導入するなどコーポレートガバナンスの先進企業であったにもかかわらず、委員長の潮田が虚偽の発言をもとに独断で行ったことが問題視に

  • 瀬戸が潮田による解任が不当だとして株主を巻き込んで臨時株主総会を開くことに。特に欧米の機関投資家がこれに疑問を持ち、LIXILのガバナンスを厳しく問う動きが広がっていった

  • 株主の協力を得るべくファンドや弁護士などと連携しながら仲間を集めながら、座右の銘である「Do the rignt thing」を実現すべく瀬戸が奮闘していく。

  • 最終的に、株主総会にて株主提案の取締役8人、会社提案取締役6人が承認され、瀬戸側が過半数を得て勝利。CEOに復帰。株主の主張が積極的に受け入れられたてんで、日本のガバナンス史上で最も大きな意味を持ったと評価されている

印象的なポイント

  • コーポレートガバナンスが最も機能する仕組みは指名委員会等設置会社。経営を「執行」と「監督」にわけ、業務は執行に委ね、取締役会が監督することになっている。

  • 瀬戸がモノタロウのCEOからLIXILに移籍した際のエピソード。ごく短期間のうちに会社の資料を片っ端から読み込んでいて、会社の実情を大筋で理解していたので、外様である瀬戸を訝しく思っていたCFOをはじめとする多くの関係者が評価を変えるきっかけとなった→自分もこういう行動を取れるように意識したい。

  • 瀬戸のバスケ部時代の教え。「へばったら頑張れ」:一歩抜け出すには疲れた時でも頑張る。もう一歩だけ動いても死なない。だから次の一歩を踏み出す。

  • モノタロウを個人商店にしてはいけない。引き継ぎの伝統を作らないと会社は持続性のある成長ができなくなる

  • コーポレートガバナンスがゆるいから、日本に海外の資本が集まりづらくなっている。株主が納得できる透明な経営を行うこと時代、ハードルが高い(株の持ち合いで経営に口を挟まない、なんてことをしているから、経営のやりたい放題が看過されてしまう)

  • 日本の企業社会で株主提案が勝利するケースはほとんどない。2019年には54件の株主提案があったが、勝利を収めたのは瀬戸だけだった。

  • プロキシーファイト(委任上争奪戦)は、株主総会で株主側が会社側と異なる取締役の選任を求める際に、両者が自陣の主張を通すために議決権を持つ株主から委任上を競って集めることをいう。本件ではリスクの大きいプロキシーファイト(コストがかかり、会社の評判も悪くなる)ではなく、「とにかく株主提案の候補者への賛同投票を促す」というロビー活動を中心に行った

  • 株主総会で議決権を行使する株主は、候補者の経営者としての実績や説明会での発言よりも、社外取締役候補の数やその経歴といった「形」を重視する傾向にある。本件では会社側がその「形」を通してきたので、「実」を重視する株主提案は不利であった(それでも通ったことに意味がある)

情報ソース

2019/4/5 瀬戸による株主提案

2019/4/18 潮田の辞任会見 瀬戸前CEOの公然批判

2019/6/25 瀬戸がCEOに復帰 新経営陣の記者会見


5分で振り返るLIXILガバナンス騒動

なぜ「民主主義」が機能しないのか? LIXILのCEO解任騒動に見るガバナンス不全組織の病巣(入山章栄)


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