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[SR-002-01] はじめに:本書の目的

近日刊行予定の書籍「投資に正解は存在するか:堅実な株式投資と資産形成の入門ガイド」より、冒頭の章を無料で先行公開しています。(正式公開時には、内容が加筆・修正される可能性があります)

【先行公開中の章の一覧】


この本の特長

投資情報の氾濫に戸惑う人たちへ

本書「投資に正解は存在するか:堅実な株式投資と資産形成の入門ガイド」を手に取っていただき、ありがとうございます。

投資に関する情報というのは、既に世の中に溢れ返っています。大抵の書店には投資本のコーナーがありますし、ネット上で無料で読める記事だって山ほどあります。投資を始めてみようかなと思い立ったとき、最初に叫びたくなる苦情が、この「情報が多すぎて、何を信じたらいいのかわからない」という点なのです。ただ量が多いというだけではありません。専門家と呼ばれる人たちがそれぞれに違うことを言っていて、それぞれ自分が正しいのだと主張しています。

こうした中で、私たちはどうすればいいのでしょうか? 経済や金融の専門家でもなく、昼間はごく普通に会社などで働いていて、週末にパソコンやスマホで証券口座の画面を開いて資産形成を行おうとしている人たちは、いったい何を頼りをすればいいのでしょう。

本書は、そのような状況に戸惑う「普通の人」たちに向けて書かれました。最初に、本書の特長を簡単に説明しておきたいと思います。それは以下の三つです。

本書の特長①:現実的な方法を示す

まず、特殊な才能が必要だという投資手法は最初から除外します。「カリスマ投資家」ないし「カリスマトレーダー」たちの持つ(とされている)こうした才能というのは、実際にはただの運という可能性があり、純粋な実力による結果というものをそこから切り分けるのは極めて困難です。

既によく知られているとおり、投資というのは偶然性が大きく絡む世界です。仮にものすごく大勢の人たちでジャンケン大会を開いたら、おそらく十連勝や十五連勝する人が現れます。全体の数が十分であれば、運だけで勝つ人が現れるのは必然です。そうした人が「ジャンケン必勝法」という本を出したとしても、それは参考にはならないはずです。

また、投資にかけられる時間やエネルギーについても、こうした専業投資家や専業トレーダーといった人たちは視野の外に置き、普通に会社員などの仕事をしている人が実現可能な方法だけを扱います。勉強するということが大切だと強調はしつつも、専門的な仕事として投資をフルタイムで行う人が取るような投資手法は、本書の範囲外になります。

本書の特長②:勧誘の意図がない

第一章でも最初に触れますが、投資についての情報を読むときは、それを発信している人の思惑と、その人がどういう利害関係の中にいるかという点に注目する必要があります。「ぜひ○○に投資しましょう、将来有望で間違いなしです」と自信たっぷりに主張している人が、その○○という商品を取り扱う会社を経営していたとしたら、それを信用すべきかというのは疑問です。

この本の筆者は著述という仕事をしており、投資や金融の業界の内側にいる人間ではありません。私が読者のみなさんに対して持っている直接の利害関係は「この本が広く読まれて、販売部数と売り上げが伸びたら嬉しいな」ということだけです。どのような仕事でもそうですが、特に個人の名前で行う著述の仕事については、いいかげんなことを書いて読者の信用を失ったら、もうそれでおしまいです。そのため、筆者である私には、読者に対して正確で役に立つ情報を提供しようという動機があります。

念のため補足しておくと、筆者は投資の世界において、まったくのアマチュアというわけではありません。普通の社会人として長期の株式投資を長らく行なっているほかに、専業でトレードに従事していた経験も二年少々あります。

ここで、投資や金融に詳しい方は「トレード」と「投資」の違いを理解していると思うので、今の文章には「おや?」と思われたかもしれませんね。ざっくり言えば、短期の価格変動で利鞘を稼ごうとするのがトレードで、長期的な価値上昇を期待するのが投資です。本書はトレードの本ではなく、投資の本になります。投資の本質を考える上で、短期のトレードの話題についても取り上げますが、数時間や数日といった、短期間での売買を繰り返すトレード手法を正解として扱う本ではありません。(つまり、私はトレードに職業的に取り組んだ上で、これを「正解」と見なさなかったということです)

本書の特長③:理由と根拠の話をする

投資手法の解説であれ、「○○の株が上がる!」などといった個別の情報であれ、そこにしっかりした根拠があるということは稀です。トラックの積載量だとか、ひとつのエレベーターに同時に乗っても問題ない人数の上限だとか、そうした綿密な安全計算が必要であろうものを製造しているメーカーが「なんとなく大丈夫な気がするので」などと言っていたらびっくりするでしょう。しかし、投資の世界では、そういうあやふやな言説のほうがむしろ普通だったりします。

この本で「こうしたほうがいいです」と主張するときには、それを読んだ読者が少し考えた上で「確かにそうだな」と納得できるような理由を示すことにします。経済や金融の専門家だけが持つような専門知識は要求しません。ここで示された理由に「なるほど」という感覚が起こらないのなら、読者の取るべき行動はひとつで、それはこの本を信用しないということです。投資の世界で何を信用すべきかという疑問は、本書の前半の主なテーマになっています。

ただ、経済学的な難しい話に触れることがどうしても避けられない場合もあります。そのときは、理論の詳細や数式を出すことはせず、出典を明らかにした上で結論だけ持ってくるという形にしたいと思います。

範囲の限定と免責事項

この本では何を書かないか

本書の目的は、複雑で難しい投資の世界に対して普通に抱かれる疑問の解消と、そこにひとつの合理的な答えを提示することにあります。そのため、ネットの証券口座の開き方や、NISAやiDeCoなどの制度の解説など、手続きや制度の詳細については触れません。また、経済の難しい理論を詳しく解説したりはしないという点は、さきほど述べたとおりです。用語についても、普通に世の中でニュースを見たり世間話をしたりしながら暮らしていたら知っているかなという程度の予備知識を想定しており、専門用語はなるべく出さないようにします。

ただ、わからない部分が出てきたらなるべくその場でスマホで検索するなどして、すぐに調べるようにしましょう。きちんと勉強した人だけが最後に勝ちます。そのため、わからなかったらすぐに調べるという習慣を持つことは重要です。

勉強をするときに「質問をする子は伸びる」と言われることがあります。自分の中に湧いた疑問をそのままにしておかないということですね。そしてこれは、将来役に立つかどうかもわからない詰め込みの受験勉強のようなものではなく、あなた自身のこの先の生活の豊かさに直結する話なのだということを意識するようにしましょう。

お約束の注意書き

本書では、可能な限り正確な情報を提供することに努めますが、情報に誤りがないことを保証するものではありません。また、実際の投資行動については、常に投資者自身の判断と責任において行うものとなりますので、その点もご留意をお願いします。

個別の金融商品や税制などについての詳細は、本書が執筆された2024年4月現在の情報となっています。ネット上の情報ソースからの引用などは、参照した日付をその都度記載します。

今、ここでちょっと堅いことを書いたのは、本書がお金という話題を扱う関係のお約束であって、筆者としては読者のみなさんに楽しんで読んでいただけるような内容を盛り込んだつもりです。モヤっとしていた疑問を解決したり、知らなかった世界を知るといったことは、基本的には楽しいことだと思っています。その上で、あなたの資産形成と将来の生活に本書の内容が役立つことがあれば、筆者としてはとても嬉しく思います。

どのような話をしていきたいのか

本書の構成

本書は、「はじめに」の章と第一章から第八章、そして全体のまとめである「おわりに」の章がついた、全十章で構成されています。

章の一覧と、各章の内容は以下のとおりです。

  • はじめに:本書の目的 …… この章。本書が誰に対して書かれていて、あなたに何を説明したいと思っているのか

  • 第一章:「投資する」とは実際には何をすることなのか …… 投資でお金が得られる理由を理解する。なぜ投資は危ないと言われるのか、上がり下がりする株価チャートの正体はいったい何なのか

  • 第二章:投資でがっかりするための確実な方法たち …… 世の中で話題になる投資手法は本当に儲かるのか。誤って信じられがちな、信じられないほどあやふやな投資の幻想について

  • 第三章:資本主義全体の成長に賭ける …… 株式インデックスへの長期分散投資という解答の提示。研究データの参照と、「予測に基づいて投資対象を選別することをやめる」という発想の転換

  • 第四章:商品の選択 …… あなたが証券口座の画面を開いて、何を買うかを選ぶときの道案内。検索するとずらりと出てくる金融商品たちは、何を比較して、どれを選べばいいのか

  • 第五章:必ず起こる暴落に対処する …… 普通に社会人として働きつつ、投資家としてのマインドに切り替える。これからあなたを襲うはずの脅威と、どうやってそれに立ち向かうかについてのヒント

  • 第六章:リターンの向上を狙う …… ここまでに考えてきた投資の原則に、改善点はあるのか。再びデータを参照し、「選別することをやめる」に例外があるのかを探る

  • 第七章:投資と生活を結びつける …… お金を扱う以上、投資と日常生活は切り離せない。長い人生の中でしっかり資産形成をしていくために、あなたが考えていくべきこと

  • 第八章:投資的思考とあなたの人生 …… 本書のおまけ的な章。投資家として、不確実で難しい現実を理解するという習慣を身につけることができたなら、それはその人自身の人生を豊かにしていくためにも役立てることができる

  • おわりに:全体のおさらい …… 本書全体の復習と結び。最後に、あなたに覚えておいてほしいこと

また、第一章から第八章までの各章の最後には、その章で述べたポイントを箇条書きでまとめることにします。

全体の流れ

章の一覧を見ましたので、本書全体がどのような流れになっているかについて、もう少し詳しく説明しておくことにします。

まず、本書の前半はかなり夢のない話から始まります。投資の本質というものをよく考えてみると、世間に流通する儲け話をどうして信じるべきでないのかという点が次々と明らかになってきます。これがそのまま第一章と第二章の内容です。ひとことで言えば「投資で儲かるとしたら、そのお金はどこから来るのか?」というのが本書の導入部分になります。

次に、第三章が最初の答えとなる章です。本書のタイトルは「投資に正解は存在するか」という問いかけでした。しかし、さきほどの章の一覧を見返してみると、第三章の説明で既に「何が正解なのか」ということが出てきてしまっていますね。株式インデックスへの長期分散投資を行おうという解答で、「選別することをやめる」という重要な考え方も書かれています。これはどちらかというと、投資の解説本を書く立場からすると、もったいぶって最後まで秘密にしておきたいタイプの事柄です。

しかし、この解答は、そこに至るまでの過程を理解しないと役に立ちません。これは「武道では精神性を高めることが大切だ」というような抽象的な主張とは異なります。投資においては、市場の暴落のような非常に動揺させられる局面があり、市場への理解の十分でない参加者がこれを無事に生き抜くのは、ほとんど不可能です。無事かどうかというのは、あなたが投資で多額の損失を出すかどうかということです。

投資という難しい世界に対処するとき、必要なのはあなた自身の理解の深さであって、ワンフレーズの答えは無力です。これを身につけるための詳細な手引きとして、本書が存在しています。第三章は、本書全体の根拠が多く含まれる章になるので、やや長い内容となります。

続く第四章では、具体的な商品の選択を扱います。あなたが実際にパソコンやスマホで何を買うかを選ぶとき、ガイドブックとして役立てていただける章です。投資を実行に移す段階になって、目的のキーワードで投資商品の検索を行ってみると、何やら似通ったものがいくつも表示されることに気づきます。このとき、どのような点に注目して商品を選んでいけばいいのかということを解説していきます。

第五章では、市場の暴落という非常に重要なテーマを扱います。先述のとおり、第一章から第三章で投資の本質について掘り下げて考えたのは、この局面への対処として、投資行動への深い理解が必須だからです。この章では、暴落という非常事態に対してあなたが適切な対応を行うことができるようになる(というより、不適切な行動を行なってしまわないようにする)ための、心理的なヒントを提供します。本書を購入して最初に一読した際には、この章の重要性はさほどピンと来ないかもしれません。しかし、この章は自然災害に対する非常持ち出し袋のようなものであり、ここに書かれた内容があなたの助けになる日がいつか来るはずです。

ここまでの章が基本行動の話であるとするなら、第六章からはその改善の話です。第六章では、「選別することをやめる」という考え方に基づいた長期分散投資において、何か選別によって利益を向上させることができるポイントはあるのかということを考えていきます。また、第七章では、お金の話題を実生活と切り離すことはできないという視点から、投資の元手をどうやって確保していくかといった課題について考えていきます。

第八章は、投資とあなたの人生について考える章になっています。これは投資の解説書としてはやや脱線を含む内容となりますが、結局のところ、私たちがどうしてお金の話をするのかというと、それは私たち自身の人生をよりよくしていくために他なりません。ある面では、お金は力であり、極めて重要なものですが、別の見方をすれば、本当にどうでもいいようなものです。この章には、お金と人生というテーマについて、筆者がどうしてもお伝えしておきたいと思っているメッセージが含まれています。

最後に、全体のおさらいとなる「おわりに」の章で、すべての章のポイントを改めてまとめたいと思います。

本書の前置きはここまでです。それでは、さっそく第一章の内容に入っていくことにしましょう。筆者がこの本に込めたものは、世間では大きな声で宣伝されることが決してない、投資の正体を明らかにする道のりです。どうぞお楽しみください。

【次の章へ】第一章:「投資する」とは実際には何をすることなのか


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