千億アルマ

Novels, poetry, and more.

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記事一覧

公園

 木に風船が引っかかっている。よく見ると鮭柄だ。妙な柄の風船もあるものだ、と周りを見渡す。誰かの手から離れたものかもしれない。ここはわりと大きな公園なのに誰もい…

千億アルマ
5か月前
3

Dishwashing

皿洗いが好きだ。 好きと言っても、それは日々やらなくては仕方がないことで、だから好き、てことにしたいのかもしれない。 仕事で皿洗いもできないかも。僕はマイペースで…

千億アルマ
5か月前
1

My Mummy's Dead 2

私は東京で生まれた。和泉多摩川が最寄り駅の、多摩川沿いにある町だ。1974年には多摩川水害があった。19戸もの住宅が流されたらしい。これは『岸辺のアルバム』という山田…

千億アルマ
10か月前
5

My Mummy's Dead

母が死んだ。 でもそれは突然にではなかった。今年の五月の上旬にいよいよだ、と介護施設に呼び出され、その二週間後には死んだ。 私は私の娘と一緒に介護施設に行った。母…

千億アルマ
10か月前
5

Reminds

The crumbling watchtower, covered in creeping vines, its rusty keyhole remains locked. An unknown bird with emerald feathers flies, an olive branch held in its …

千億アルマ
11か月前
1

私は彼の歪な魂の形が好きだった。ぐんにゃりと曲がり、ところどころ腐りかけ、刺々しく、触ると熱い。私はその魂を撫でまわし、舐めあげた。私の唇と指は傷だらけになった…

千億アルマ
11か月前
3

Words

Words are flow. A vague, fluffy thing that disappears as soon as you grab it. Differences in interpretation create conflict. We wish understand each other.…

1

AI

西暦2×××年、私達の生活にはもはやAIは不可欠なものとなっている。例えば今日は私の子どもの七五三の写真を生成した。そんなことももう写真スタジオや神社なんかには行…

4

生きてると

生きてると、本当にゴミが出る と、ペットボトルのパッケージを剥がしながら考える 燃えるゴミの日は週2回 毎回、袋いっぱいのゴミが出る 心のなかにもゴミは溜まる …

2

偏西風

君は遠くに住んでいる 僕の行ったことのないところ 君はずっと西のほうに住んでいて 僕は東に住んでいる 君からは毎日メッセージがくる 今朝は雨が降ったとか そうし…

2

Meaningless Name

僕は君に名前をつけた。 「、るあぬ」なんてどうかな。 意味なんてない。 ただ君の名前がなにか窮屈そうに感じたから。 名前は檻だ。 一方的に与えられ、原則的には変…

1

Voice

君の声は不思議だ 特別なゆらぎを持っている 僕の頭に直接響いて すべてを溶かしてしまうような 声は不思議だ 目には見えない 形に残らない 人が死ぬと、一番先に忘…

6

言葉

君は強い光だ まっすぐに僕のもとへ飛び込んできた 僕達はあまり似ていない ちかい部分はあるけれど 育ってきた環境もちがう でも魂の輪郭は重なる気がする 僕達はい…

4

風の日

僕は君のことばかり考えている 君の心臓の音を聴きたいとか 逢いたくて逢いたくて震える、なんて 歌だけの話かと思ってた こんな気持ちは初めてなんだ 「宇宙がひっくり返…

3

きらりいろ

愛してるって言いたいけど 君は重く感じてしまうかもしれないね どうせ夜にかいたラブレターなんて 翌朝には恥ずかしくて破り捨ててしまう 昔聴いてた曲を真夜中に聴い…

3

Distance

君には何回も好きだと言ったけど  口にするたび、その言葉は軽くなっていく もっといい言葉はないのかな この僕の感情は世界にひとつだけのものなのに 何度言っても言い…

4
公園

公園

 木に風船が引っかかっている。よく見ると鮭柄だ。妙な柄の風船もあるものだ、と周りを見渡す。誰かの手から離れたものかもしれない。ここはわりと大きな公園なのに誰もいない。日曜日の午後3時。するとキャンドルを持った老婆があらわれた。燭台はやはり鮭の形。これは白昼夢なのかもしれない。
 老婆は言った。
「鮭弁当が食べたい」
「エッ?」
「鮭弁当だよ」
「あー……あ、あの風船ってあなたのですか」
「知らん」

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Dishwashing

皿洗いが好きだ。
好きと言っても、それは日々やらなくては仕方がないことで、だから好き、てことにしたいのかもしれない。
仕事で皿洗いもできないかも。僕はマイペースで皿を洗うから。ときおり中断してコーヒーを淹れたり、iPhoneで SNSを見たり。そう、この文章も皿洗いを中断してかかれている。
器用な人は料理をし終わったら同時に洗い物も片付いてたりする。これも僕には無理だ。食後には山のように洗い物が積

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My Mummy's Dead 2

My Mummy's Dead 2

私は東京で生まれた。和泉多摩川が最寄り駅の、多摩川沿いにある町だ。1974年には多摩川水害があった。19戸もの住宅が流されたらしい。これは『岸辺のアルバム』という山田太一脚本によるTVドラマのモチーフにもなった。家族が崩壊していく話である。

母は、母の知人の家も流されたと言っていた。なんでも、家が流されてから大量の見舞い品が届いた。その中で花も届いた。被災地の千羽鶴のように要らないもののように思

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My Mummy's Dead

My Mummy's Dead

母が死んだ。
でもそれは突然にではなかった。今年の五月の上旬にいよいよだ、と介護施設に呼び出され、その二週間後には死んだ。
私は私の娘と一緒に介護施設に行った。母が死んだ日に。娘は小学二年生だ。
母は目を閉じていた。口は開いていた。私は母の頬にふれた。冷たかった。娘はまだ「死」というものにぴんときていない風だった。私もとくにその場で泣かなかった。

「ばあばは天国に行ったんだよ」

と私は言った。

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Reminds

The crumbling watchtower, covered in creeping vines, its rusty keyhole remains locked.
An unknown bird with emerald feathers flies, an olive branch held in its beak.

Beneath the water's depths, a mou

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私は彼の歪な魂の形が好きだった。ぐんにゃりと曲がり、ところどころ腐りかけ、刺々しく、触ると熱い。私はその魂を撫でまわし、舐めあげた。私の唇と指は傷だらけになった。歪な魂は私の血で汚れる。愛おしさで狂いそうになる。

いつからか、魂は形を変えた。すべすべと滑らかな球になった。白く輝いている。私は私の愛した歪さを探した。でも何処にも見当たらなくなった。

魂は完全な球体になった。いまは誰もがこの球体を

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Words

Words are flow.

A vague, fluffy thing that disappears as soon as you grab it.

Differences in interpretation create conflict.

We wish understand each other.

Turn vague thoughts into words.

Lik

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AI

西暦2×××年、私達の生活にはもはやAIは不可欠なものとなっている。例えば今日は私の子どもの七五三の写真を生成した。そんなことももう写真スタジオや神社なんかには行かない。AIで画像合成したほうが手間もないし価格も安い。私達は生まれたときから学校や就職、恋愛や結婚などすべてAIで決めてきた。

昔の人は自分やまわりの人間の意思と意見で何事も決定していたという。そんな面倒なこと、考えただけで恐ろしい。

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生きてると

生きてると

生きてると、本当にゴミが出る

と、ペットボトルのパッケージを剥がしながら考える

燃えるゴミの日は週2回

毎回、袋いっぱいのゴミが出る

心のなかにもゴミは溜まる

不調なときなんか、わざわざネットの暗いニュースを探して見たりする

悪口をかいたりはしないけど、人気のあの人が悪口をかかれていたりするのをいい気味だ、と眺めたりする

ゴミはやっぱり、その都度まとめて捨てるべきで

放っておいたら

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偏西風

君は遠くに住んでいる

僕の行ったことのないところ

君はずっと西のほうに住んでいて 僕は東に住んでいる

君からは毎日メッセージがくる 今朝は雨が降ったとか そうしたら数時間後には 僕の住む街にも雨が降る

君に雨を降らせた雲が 偏西風に乗ってこっちに流れてくる 空は繋がってるんだな、て嬉しくなったり

僕の想いも風に吹かれて 君に届けばいいな、なんて そんなことを考えている

Meaningless Name

僕は君に名前をつけた。

「、るあぬ」なんてどうかな。

意味なんてない。

ただ君の名前がなにか窮屈そうに感じたから。

名前は檻だ。

一方的に与えられ、原則的には変えられない。

べつのかりそめの名前を持つことはできても。

「、るあぬ」が気にいらないなら自分でつけたらいい。

あとでこっそり教えてほしい。

Voice

Voice

君の声は不思議だ

特別なゆらぎを持っている

僕の頭に直接響いて

すべてを溶かしてしまうような

声は不思議だ

目には見えない

形に残らない

人が死ぬと、一番先に忘れ去られるのは声らしい

それぐらい儚い

この瞬間の声は、この瞬間しか聴けない

ボイスレコーダーに録ったものは

写真を残すようなものだ

その日の肉声は、その日にしか聴けない

僕は今日、どんな言葉をどんな声で発しただろ

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言葉

言葉

君は強い光だ

まっすぐに僕のもとへ飛び込んできた

僕達はあまり似ていない

ちかい部分はあるけれど

育ってきた環境もちがう

でも魂の輪郭は重なる気がする

僕達はいままでたくさん間違えて

それでもどうにか笑いながらやってきて

ときには泣いて

怒りは正当な炎に変えてきた

僕達は完璧な人間じゃない

歪な形で、あちこちひび割れて欠けて

でこぼこなボディで長い道を走ってきた

君といる

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風の日

風の日

僕は君のことばかり考えている
君の心臓の音を聴きたいとか
逢いたくて逢いたくて震える、なんて
歌だけの話かと思ってた

こんな気持ちは初めてなんだ
「宇宙がひっくり返るくらい好き」
これは君が言った言葉だけど
僕だっておなじことを想っている

いつからだろうね
予報はずれの雨にように
いきなり恋は降ってきた
僕は傘なんて持ってなくて
びしょ濡れのまま駆けていく

君が好きだ
こんなにも嘘のない想い

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きらりいろ

きらりいろ

愛してるって言いたいけど

君は重く感じてしまうかもしれないね

どうせ夜にかいたラブレターなんて

翌朝には恥ずかしくて破り捨ててしまう

昔聴いてた曲を真夜中に聴いて

君はこの曲を気にいるかなあ、なんて思ってる

なんだかなにもかも駄目だ

僕はもっと違う風だったのに

君のことを想うと、とことん馬鹿になってしまう

でもこれがきっと、僕の本質なんだろうな、なんて

とりとめのないことを考え

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Distance

Distance

君には何回も好きだと言ったけど 
口にするたび、その言葉は軽くなっていく
もっといい言葉はないのかな
この僕の感情は世界にひとつだけのものなのに

何度言っても言い足りない
君のことが好きだ
君の魂の輪郭をなぞって
描線を夜空に放り投げて
くるくると弧を描いて廻って
何処か遠くへ消えていく

僕達を隔てているものは本当は何もない筈なのに
距離なんて本当はない筈なのに