見出し画像

公園

 木に風船が引っかかっている。よく見ると鮭柄だ。妙な柄の風船もあるものだ、と周りを見渡す。誰かの手から離れたものかもしれない。ここはわりと大きな公園なのに誰もいない。日曜日の午後3時。するとキャンドルを持った老婆があらわれた。燭台はやはり鮭の形。これは白昼夢なのかもしれない。
 老婆は言った。
「鮭弁当が食べたい」
「エッ?」
「鮭弁当だよ」
「あー……あ、あの風船ってあなたのですか」
「知らん」
「知らないのか」
「鮭弁当」
「そういやあっちに弁当屋がありましたよ」
「金がない」
「…………」
「300円くれ」
「(物乞いってやつか……)どうぞ」
「Thank you」
「英語の発音いいな」
 老婆は弁当屋に行った。結局何だったんだろう。てかキャンドルは何だったんだろう。よくわからない。あの風船は取れそうだ。ちょっと取ってみよう。
 僕は風船を持ち、公園の中をそぞろ歩いた。するとそれを欲しがる幼女に出会った。まあ面倒くさいからいろいろはしょると、その幼女はとある大企業の会長の孫で、老婆は痴呆ぎみの会長の母だった。
 で、僕は? それが縁で出世したかというとべつにそんなことはなく、いまも普通に会社員をしている。まあ世の中そんなもんだろう。今日の昼飯は弁当屋で鮭弁当でも買おうと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?