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短編

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2018年11月の記事一覧

ただ

ただ

私のココロの奥底の、毒のように這いずる蛆虫共は、今も変わらず蠢いています。
先日も腹が減ったからと我が物顔で、私の脳内に行進し虫穴を作って行きました。
おかげさまで、私の虫喰いの記憶は、いつも朧で、不確かな空虚は心に暗く深い穴を落として行くのです。
恐らくは、心を決めて、苦く、辛く、吐き出したくなるようなソイツらを口の中に入れて噛み潰せばいいのでしょうが、そのような心は等の昔に空洞だらけで、脆く、

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流れる冷たい水

流れる冷たい水

心が揺れ動く時はどんな時だろう。

思いを馳せるときは何時なんだろう。

情動のままに、熱く燃えていた自分は、今では氷の浮いた海にでも漂うように静かだ。

それが悪い事とは思わないが。

しかしこの体を動かす何かが錆びついたみたいで重だるい。

このままじゃどこかで止まるか、大破して修理ができなくなるほどバラバラになってしまいそうだ。

そうしたら僕は、燃えないごみでポイッ、だろうか。

他のよく

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ぼろぼろのセピア色

ぼろぼろのセピア色

僕の目はカメラで、僕の心は撮ったモノをしまうフォルダー。
感情というタグを着けて、何時でも取り出せるように、大切に、大切に。でも、山の様に積み上がっていくそれを見ているうちに、いつの間にか目をそらして、今では埃の被った塵芥。
それでもたまに、どうしようもなく突き動かされて、山の中から一つ、写真を取り出す。
ずいぶんと色褪せたセピア色のそれは、何処で何の写真なのか、理解するには難しいほどぼろぼろにな

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【短編Tale】上を向きながら歩いている。

【短編Tale】上を向きながら歩いている。

上を向きながら歩いている。
嫌なことがあって泣きそうだったから。
歌にあるように、こぼれないように夜の道を歩く。
そうしたら凸凹道の上で躓いて膝を擦りむいた。
ちょっと涙が出てきた。
痛かった……。
だから今度は下を向きながら歩いた。
そうしたら目の前の電柱に気づかないで、頭を酷くぶつけた。
すっごく痛かった。
痛かった!
鼻をすすりながら、しょうがないから前を向いて歩くしかない。
そうしたら後ろ

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【短編Tale】空が暗くなっている

【短編Tale】空が暗くなっている

空が暗くなっている。
仕事が終わって、夕暮れに乗った電車。
うつらうつらとしたものだから、少しばかしと目を瞑った。
開けてみたら夜だ。
ぐっすりしたわけでもないのに、ぱっと目を開けて映った景色がガラッと変わっているとぎょっとする。
思えば、もうそろそろ、一年が終わる頃か。
随分冷え込んできた。
この一年が終わると、僕の命の花びらが、一枚、はらりと落ちる。
体には、岩壁に痕を刻むように強かに老いが積

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僕の腕時計

僕の腕時計

時計の短針が消えた。
ある時ふと腕に目をやった時に気がついた。
かなり古い、これを買ったのは、何時だったろうか。
なんとなく腕時計が欲しくて、立ち寄った時計屋で、並べてあった種々の中から、目が合ったような気がして、丁度その時の財布の具合とも良くて、迷うこともなく買った。
その時の僕の気分が、間違いなくこの時計を示し、買ったことは今でも覚えいる。
腐れ縁の様な、奇妙な腕時計が、いかに長い付き合いだっ

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【短編Tale】手帳を開いている

【短編Tale】手帳を開いている

手帳を開いている。
溢れ出る心象。
赤・青・黄色。

僕の知らない大切な人が、知りもしない僕に向かって理由のない笑顔を向けている。

ここは空の大地。
いや、海という宇宙。

貴方を恨み、憎み、愛し、好きです、大好きです!だから付き合ってください。

いいえ、さようなら。貴方の事、きらいじゃないけど、それだけよ。おばかちゃん。

そうだったのか。
せやで。
せやのんか。
せやや。
せやや?
せやや

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【短編Tale】人を待っている

【短編Tale】人を待っている

人を待っている。
会うのを待つとも、来るのを待つとも。
この、待つ行為はなんともそわそわする。
たとえ知っている間柄でも、良くも悪くも心が動く。
それが、心持ち軽やかに重い。
なんと言って話しかけようか。
まずは手を上げて会釈でもしようか。
頭の中でシュミレートしても使い物にならないと知っているのに、それでもついつい考えてしまう。
一人でいたらおこらないことだ。
だからどうしても落ち着かない。

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【短編Tale】子供のよっぱらい

【短編Tale】子供のよっぱらい

空が曇っている。
どんよりとしていて、今にも雨が振りそうだ。
自分には傘もなく、レインコートもない。
降られてしまったら、ずぶ濡れだ。
スリルある帰り道。
しかし、こんな気が重くなりそうな日でも、子供は存外元気なものだ。
明るい声で、ねぇ、ねぇ、と自分の親に話しかけている。
どうにも、自分にはなくなってしまったエネルギーだ。
羨ましいまではいかないが、昔を懐かしむきっかけにはなる。
昔の僕といえば

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