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【短編Tale】上を向きながら歩いている。

上を向きながら歩いている。
嫌なことがあって泣きそうだったから。
歌にあるように、こぼれないように夜の道を歩く。
そうしたら凸凹道の上で躓いて膝を擦りむいた。
ちょっと涙が出てきた。
痛かった……。
だから今度は下を向きながら歩いた。
そうしたら目の前の電柱に気づかないで、頭を酷くぶつけた。
すっごく痛かった。
痛かった!
鼻をすすりながら、しょうがないから前を向いて歩くしかない。
そうしたら後ろから酔っ払いがぶつかってきた。
痛くはなかった。
なかったけど!
……凹む。
なんかもうやけくそになって、後ろも気にしつつ、歩くことにした。
挙動不審だと思われたみたいで、ひそひそと通り過ぎる人が何かを言っていた。
もう、我慢しようと思ってたけど、ぽろぽろこぼれた涙は、止まることを知らない。
続くようにして鼻もずびずびする。
決壊したダムから溢れ出る感情が、自分を押し流して酷く惨めな気持ちになった。
ぐすぐすしながら歩く。
歩いて歩いて、歩いた時。
声をかけられた。
人の良さそうなおばあちゃんだった。
どうしたの?って聞いてくれて、でも自分は戸惑いと、惨めさに言葉が出なくて。
おばあちゃんはちょっとまってなさいって言って、近くのコンビニに行ってしまった。
このまま待っていて良いのかよくわからなくて、まごまごしてたらそんなに時間もかからずおばあちゃんは戻ってきた。
はい、と手渡されたのは和菓子とあったかいお茶。
ほら、あげる、ね?良いことあったでしょ、と言っておばあちゃんはビニール袋の持ち手を握らせてきた。
良いことあったら、その日はずっと良い一日。
だから明日も、良い事を探しなさい?
天気が良かったとか、朝ごはんが美味しいとか、貴方が良かったと思えることが、小さくても一つあれば、貴方の一日は輝くのよ。
おばあちゃんは朗らかに笑い、気をつけて帰りなね、そう言って去ってった。
渡された和菓子とお茶は、ただの市販のものなのに、やけに暖かく、甘やかだった。

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この作品は別の所で最初の一文をお題でいただき、そこから書いたものです

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