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本好きの人生を描いた海外小説3冊

 最近、偶然にも「本好き」の人生を描いた海外小説を連続して読みました。どれも面白かったので、ご紹介させていただきます。

ガブリエル・ゼヴィン『書店主フィクリーのものがたり』(小尾芙佐:訳/早川書房)

 主人公のフィクリーは、島に1軒だけある書店の店主。無類の読書好きで、こだわりの品ぞろえをしている偏屈な男。最愛の妻を亡くし、酒に溺れていたある日、店にぽつんと小さな女の子が置き去りにされていた。なりゆきで世話をするうちに愛着が湧き、マヤという名のその子を養女にしたところから、人生が変わり始める。

 フィクリーの人生を軸としながら、実は「書店」という場所を介して知り合い、影響し合っていく人びとの物語でもあります。1軒の書店から定点観測的に、生き死にや愛憎を含んださまざまな人の人生を、善意のまなざしで描いている、そんなふうに思えて好感の持てる作品でした。


ジャン=ポール・ディディエローラン『6時27分発の電車に乗って、僕は本を読む』(夏目大:訳/ハーパーコリンズ・ ジャパン)

 パリ郊外の工場で働くギレンは、毎朝、通勤電車で本の〝断片〟を朗読するのを日課にしている本好きの青年。彼が勤務する工場は、廃棄された本を断裁して再生紙の原料に加工している。愛する本が無残に切り刻まれるのに心を痛め、彼は断裁機の中から〝生き残った〟ページを救い出して、電車で朗読しているのだった。ある朝、いつもの座席でフラッシュメモリーを拾い、落とし主を見つけるために中のデータを開けると、それは見知らぬ女性の日記だった。

 生きるのに不器用で、孤独だった青年が、「本」「文章」そして「読み上げる言葉」というファクターに真摯に向き合っていくことで、人と心を通わせていく様子が微笑ましく思えました。淡々とした語り口で、静かに胸を温めてくれる物語です。


ニーナ・ゲオルゲ『セーヌ川の書店主』(遠山明子:訳/集英社)

 中年の男ジャン・ペルデュは、セーヌ川に浮かぶ船上で、人びとに本を〝処方〟する一風変わった書店、その名も「文学処方船」の店主。しかし彼は、20年前に去って行った恋人を忘れられずにいた。ある日、同じように心に傷を抱えた女性と知り合ったことで、ようやく恋人が残した古い手紙を読み、ひさびさに船のエンジンをかけてプロヴァンスへ向かう。ペルデュのほか乗船しているのは2匹の猫と、スランプ中の青年作家。彼らは美しい川べりの町を巡り、愛をたどる旅をしていく。

 フランスの小説はあまり読んだことがなかったので、新鮮でした。料理の描写や、南仏の光と風と緑の描写が美しく、旅気分をたっぷり味わえる作品です。それぞれのアムール(愛)も素敵。巻末に、文学処方船で処方した本のリストが出ているのも気が利いています。私も興味を持った本を何冊か図書館で予約してしまいました。


◇見出しの写真は、みんなのフォトギャラリーから、
Angie-BXLさんの作品を使わせていただきました。
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