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愛と信仰に迷いながら、霧の中を行く パウロ・コエーリョ『ピエドラ川のほとりで私は泣いた』

 パウロ・コエーリョ著『ピエドラ川のほとりで私は泣いた』(山川紘矢・亜希子/訳)を読みました。

 主人公のピラールは、いかにも一般的な、安定した暮らしを求める29歳の女性。子ども時代を一緒に過ごした青年から、しばしば手紙が届く。彼は世界を旅していた。ある日、マドリードで講演会があるというので訪ねてみると、彼は奇跡や聖母マリアへの信仰について語る修道士になっていた。
 ピラール自身は、かつてカトリックの教育は受けたものの、もう長いこと信仰とは距離を置いていた。けれども彼と再会し、一緒にルルドの泉を訪ね、霧深い村を歩くうち、彼への愛に戸惑いながら、それに自分をゆだねること、信仰を取り戻すことについて葛藤していく。

 キリスト教や聖書について掘り下げながら、男女の愛の行方を描いていきます。パウロ・コエーリョは、ブラジルのリオデジャネイロ生まれの作家。詩的な文章で、翻訳も読みやすく、とても美しい世界観の小説でした。

 かといって信仰を美化するのではなく、ベルナデットの試練の人生や、教会やヴァチカンの裏話、宣教のつらさなど、人間世界のキリスト教のリアルにも触れています。

 日本ではなかなかこうした宗教的な小説には出合えないこともあり、とても興味深く、また読み応えがありました。
 一方で、信仰うんぬんはさておいて、「このふたりの恋愛はどうなるの?」とハラハラしたり(笑)。

 ピラールの幼なじみである彼の、次のセリフが印象に残りました。

キリストは木を切り、いすやベッドやタンスを作っている間に、自分の使命が何かということを学んだ。何をしていようと、どんなことからも、人は神の愛の体験へと導かれることができる。それを僕たちに示すために、彼は大工としてやってきたのだ。
(パウロ・コエーリョ『ピエドラ川のほとりで私は泣いた』)
 

◇見出しの写真は、みんなのフォトギャラリーから
Angie-BXLさんの作品を使わせていただきました。
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