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ヨセフのように…羊飼いの少年は、“前兆”を信じて砂漠を渡る ~パウロ・コエーリョ『アルケミスト 夢を旅した少年』

 パウロ・コエーリョの小説『アルケミスト 夢を旅した少年』を読みました。聖書のエピソードがふんだんに盛り込まれ、サン=テグジュペリの『星の王子さま』のように幅広い年齢層が読める文体で、さすが世界で8500万部の大ベストセラーだと思いました。81か国語に翻訳されているそうです。
(日本語版の翻訳は山川紘矢・山川亜希子)

 キリストを信じる羊飼いの少年は、朽ちた教会に泊まった夜、不思議な夢を見る。その夢は、エジプトのピラミッドに行くと宝物を発見できると告げていた。ジプシーの占い師や、不思議な老人と出会い、少年は羊を売ってピラミッドへ行くことを決意する。しかし、アフリカに渡ったとたん、全財産を失って――。

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 言葉も通じない町で、アラーの神を信じる男に救われて、少年の人生は思わぬ方へ展開していきます。
 タイトルのアルケミストとは錬金術師のこと。長い旅路の途中で、少年が出会う人物のひとりです。
「前兆に従う」「心の声を聞く」
 少年は旅路の中で、人生にとって「ほんとうに大切なもの」は何だろうと探求し、ときには命の危険に陥りながらも、さまざまな人に出会ってそれを学んでいくというストーリーです。

 アフリカに渡る前に出会った老人は、少年にウリムとトムミムという石を授けました。私もはじめて知ったのですが、それは旧約聖書に出てくるものでした。

裁きの胸当てにはウリムとトンミムを入れる。それらは、アロンが主の御前に出るときに、その胸に帯びる。アロンはこうして、イスラエルの人々の裁きを、主の御前に常に胸に帯びるのである。
(出エジプト記28:30 聖書新共同訳)


 オアシスの村で知り合った族長は、「二千年前、ある遠い国で、夢を信じた一人の男が土牢に投獄され、奴隷として売りに出された」という話を始めます。
 ファラオの夢を読み解いて、エジプトを飢饉から救ったという、その男の名はヨセフ。これも聖書に出てくるエピソードです。

ファラオはヨセフに言った。「わたしは夢を見たのだが、それを解き明かす者がいない。聞くところによれば、お前は夢の話を聞いて、解き明かすことができるそうだが。」
(創世記41:15 聖書新共同訳)


 そして、錬金術師が語ったのは、重病の召使いを連れて“神の子”であるラビを訪ねた百卒長の物語。こちらは新約聖書に出てくるエピソードですね。

すると、百人隊長は答えた。「主よ、わたしはあなたを自分の屋根の下にお迎えできるような者ではありません。ただ、ひと言おっしゃってください。そうすれば、わたしの僕はいやされます。
(マタイによる福音書8:8 聖書新共同訳)

 このように、本作の物語の中に聖書のエピソードが編みこまれていて、興味深く読みました。スピリチュアルなテーマを内包している作品ですが、クリスチャンの私には読みやすかったですし、面白かったです。

 サン=テグジュペリの『星の王子さま』がお好きな方なら、本書もお好きかも……と思います。

◇見出しの写真は、みんなのフォトギャラリーから
Angie-BXLさんの作品を使わせていただきました。
ありがとうございます。

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