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短編小説

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#男と女

5月5日

 祝日あるいは日曜日は嫌いだ。彼にあえないからだ。
けれど、メールを打つ。
『あいたいよ』
 もちろん、返事はこない。めんどくせーな。そんな顔をし、舌打ちでも鳴らしているだろう、彼のことがみなくてもわかる。
『仕事で、うちでたからどう?』
 電車に乗っていた。けれど、まだ発車前で寸前で飛び降りた。
 ヘルスのバイトに行くところだった。
 ホームに立ち上がり、階段を猛ダッシュであがり、改札口にある案

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図面

図面

 ブーブーブー……、スマホが震えたのはわかったけれど、どうしてもまだ、眠たくて起き上がることができなかった。
 それでもぐぐぐっと手を伸ばしてスマホを握りしめる。時間もついでに確認しようとして。スマホを手にとり、ぎょっとなる。
 時間よりもメールの相手からに。
 修一さんからだった。時間は朝の8時。なんでまた? 文面は『今からあえない?』という今から喫茶店にいかない? みたいな軽いメールだった。

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雨

 雨が降っている。それもバケツをひっくり返したような大雨が。車、きれいになるかも。わたしはそうおもいながらわが愛車フィアットのハンドルをおそるおそる握りしめる。
【ブーブー】
 助手席においてあるスマホが振動をし、信号に引っかかったとき、手に取る。
 その名前をみて、はっとなる。と同時にそんな気もしていた。なぜならバケツをひっくり返したような雨だから。
 修一さんからだった。
 時間ある? という

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明け方のわたしたち

明け方のわたしたち

 何時だろう? 直人の気配にはっと意識が現実に戻ってくる。なにか夢をみていた。たくさんの動物たちに囲まれている夢だった。その中の動物に食べられそうになっているときに目がさめた。けれど目ざめた側からその夢の色彩も感覚も徐々にわたしの中から忘れていく。夢っていうのはいったいなぜみるのだろう。直人は、あ、起こした? とメガネを床にことりと置いていい、わたしを抱きしめた。裸のわたしを。直人はわたしを触りわ

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従う

従う

 その男はわたしになんでもさせた。あってすぐシャワーもしないまま洋服を脱ぎ体中、頭から足先まですべて綺麗に舐めさせた。舐めたあとはわたしを裸にし、赤色の麻縄で拘束をし床にコロンと転がした。扱いはそれこそぬいぐるみ以下だった。臀部を軽く蹴られ、それから顔を本気で踏みつけた。
「きたない顔を見せるな」
 男はいつもわたしの顔を「きたない」「みぐるしい」と罵った。罵ることは男の一種の快感だった。だからわ

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「わかせんめい?」

『早く帰れそうなら連絡する?』
 ヘルスバイト先につき、待機をしているときに修一さんからなぜか、連絡する? というなんで『?』が最後につくのかわかならいけれどメールがきてびっくりして声をあげた。
『うん。あいたい』
 ヘルスバイトに来たぶんだった。そのタイミングでももちゃんお客さんだよと仕事が入る。返事を待たず仕事をしだす。65分のコースだった。
 指名だったので初見ではないだろうとおもっていた。

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ヤルキスイッチ

ヤルキスイッチ

 また緊急事態宣言が出た。緊急事態なのは俺の体。修一さんは苦笑いを浮かべつつアイコスを吸う。
「なにそれ?」
 いわゆる真っ赤なラブソファーというやつに並んで座っている。修一さんの気配が左からただよう。ああもうなんでこんなにも好きなのだろうかとその横顔を眺めながら、おもっている。
「なにそれだよな。そうだな。なんというか『五月病』って職人にいわれたんだ。やる気が出ないし怠いし仕事したくないよってい

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にんしん? 5

にんしん? 5

「どうするの?」
 産婦人科に行き検査をすると案の定妊娠しており、先生は開口一番
「おめでとうございます」でもなく「妊娠何週目です」でもなく当たり前のように「どうするの? 産むの?」
 まるで産まないことを前提としたことを平然といってのけた。わたしはまさかしょっぱなからそんな辛辣な単語が出てくるなどとは皆目おもってもいなく返事をまだ持ち合わせていなかった。
「……」
 沈黙が通り過ぎてゆく。何秒か

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にんしん? 4

にんしん? 4

 女が妊娠したらしいという。
 俺の名前だけが書かれたメールが来たとき、なんとなくそんな気がしたのは、あれほど血ばかり流していた血がここ最近全く見当たらなくなったからだし、なんとなく体がなんというか膨張しているふうに感じられたからだ。嫁さんのときはどうだっただろうかとその昔の記憶を辿ってみる。しかし昔過ぎていてちっともおもいだせそうになかった。とゆうかそんなこと1ミリも気にしていなかったという方が

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にんしん? 3

にんしん? 3

『修一さん』
 昼間あまりにも吐き気がし不安と鬱を繰り返しているうちに涙が出てきてつい修一さんにメールをしてしまった。名前だけのメール。電話が気軽に出来ない相手。とゆうか着信拒否をされている。メールだけが唯一の連絡手段。
 普通に考えて名前だけのメールだと、なに? なんだ? そうおもうのが当たり前といえばそうなのだけれど、わたしはよく名前だけのメールを送るので修一さんは、またか。くらいの気持ちだっ

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にんしん? 2

にんしん? 2

 人間っていうのはあまりにびっくりすると声をどこかに忘れてくるらしい。声はいったいどこに忘れてきてしまったのだろう。
 手に持った細い棒を握りしめトイレの中で動けずにいる。さーっと血の気が引いていくのがわかる。立ち上がろうにも動けない。手が、体が震え出す。
 朝の10時。穏やかな春の日差しがトイレの窓の影を床にくっきりと四角くうつしだす。細く開いた窓から風が入ってきてレースのカーテンを膨らます。

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潮時

「あ、いたんだ」
 急に蛍光灯の灯りがつき眠たい目をこすりながら顔をその声に向ける。
「いつ来たの? てゆうか靴なかったよね?」
 作業着のままコンビニの袋をテーブルの上に置きながら続けて喋っている。
「5時くらい。眠たかったからねてた。靴はあるよ。隅に。あるよ」
「小さいから気がつかなかった」
 そんな小さくないよっ、とわたしは笑う。直人の布団の中にいるといつも眠ってしまう。わたしの眠る場所はい

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オトコを買う

オトコを買う

 2万円で男を買った。男の体を買った。男の時間を買った。2万円が高いのか安いのか相場がわからない。けれど男は店には内緒でいいからと笑い、時間をかなり延長してくれた。
「こうゆうの、」
 ベッドに先に入っていたわたしの横に来た男が声をかける。こうゆうの? わたしは続きを待つ。
「こうゆうの。男をこんなふうに呼ぶことってよくあるの?」
 好きな声だとおもった。好きな顔でもあった。
「ううん。ないよ。…

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体力と気力と……

体力と気力と……

 やられたわぁー、マジで、まずいって、マジで、本当に、やられたわぁー。
 それらの単語を何回もなにかのおまじないみたいにひたすらと連呼する修一さんにわたしはなにそれと顔をのぞきこみつぶやく。薄暗い部屋であたりまえのようはじまった行為。修一さんはまだ肩で息をしながら、まだ同じ単語をつぶやいている。口が勝手に動くみたいに。
 なんなの? わたしは小さな声で修一さんの耳元でささやく。ん? と顔を向けやや

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