5月5日

 祝日あるいは日曜日は嫌いだ。彼にあえないからだ。
けれど、メールを打つ。
『あいたいよ』
 もちろん、返事はこない。めんどくせーな。そんな顔をし、舌打ちでも鳴らしているだろう、彼のことがみなくてもわかる。
『仕事で、うちでたからどう?』
 電車に乗っていた。けれど、まだ発車前で寸前で飛び降りた。
 ヘルスのバイトに行くところだった。
 ホームに立ち上がり、階段を猛ダッシュであがり、改札口にある案内所で切符の返金をし、彼にメールを打つ。指先がばかみたいに震えていた。ばかみたいに。
『12時過ぎに西駅にきて』
 そうしてわたしと彼は祝日の真昼間にあうことになった。
『あんまり、時間なくて。ほら、明日から仕事だろ?ガチで始まるから、前日の用意とか、図面とか……』
 正直なところそんな話などどうでもよかった。とゆうかいつもどうでもいい。なので、へー。とか、えっ? そうなの? すごいねぇー。等の聞いてますよ〜みたいな相槌を適当にしておく。ひとしきり愚痴を吐き出すと立ち上がり洋服を脱ぐ。わたしはこの瞬間がいちばん興奮する。いまから、始まるんだなと。

 抱かれている最中は夢中で彼にしがみつき、そして泣く。いつも泣く。頭おかしくない? ってくらいに泣く。その時点で彼はめんどくさいかもしれない。けれど毎回だから慣れたといえば慣れたのだろう。泣いてももうなにもいわないし、聞かない。
『あのね、』
 彼は終わるとすぐにソファーに移動をし、アイコスに手を伸ばす。アイコスの本体が以前わたしが誕生日にプレゼントしたものに代わっていて、ドキッとしたし、嬉しかった。いわないけれど。
 うん。なに? めんどくさい系? 彼はわたしがときおり出す、あのねという単語にひどく敏感だ。拒否反応。うん、わたしはけれど、今日はいう日だと決めて言葉をつづける。
『わたし、あなたのことを好きじゃあないから。あなたの体が好きなだけだから……』
 彼は黙ってしまう。薄暗い部屋。事後の男と女の淫猥な匂い。乱れたシーツに、乱れた髪の毛。息苦しいほどの関係性。黙っている彼にさらにつづける。
『めんどくさくないでしょ? わたし。だって、必死でめんどくさくないおんなを演じているから。めんどくさくないからいいでしょ? ばかみたい? わたし?』
 いやいや、こんなことをいっていることがすでにめんどくさいではないか。わたしはわかっている。けれどもこんなに苦しい思いをしているのが、わたしだけなのもつらいのは事実だった。ほんとうは、この次彼にあったら、殺そうと思っていた。どうやって殺そうかと頭の中で作戦を練っていた。ボールペンで太ももを突き刺したことが以前あり(別れ話の最中)あのとき太ももではなく目か腹あるいは心臓に刺して殺しておけばよかったなとたまに後悔する。2、3年前。あれから、ますます好きになりすぎて、つらいし泣けるし情けないし惨めだし苦しいしばかみたいだしもう、どうでもよくどうにかしてほしいけどそれはもう彼かわたしが死ぬしかないという結論に辿り着ついた。
『めんどくさくなるかも。わからない。なんか、長いし。そもそも他のおんなとかも考えられない。それもめんどくさい』
 じゃあ、わたしは息を吐くように声をだし、裸のまま彼の前に立ちはだかる。
『じゃあ、わたしはめんどくさくないおんなになるよ。めんどくさくない。だから、捨てないで。あわないなんていわないで。このままでいい。だから……』
 泣きながら、また、泣きながら告げた。それも裸で。なにかの拷問? わたしは途中からあまりにも自分が滑稽すぎて笑えてきてしまい、急に泣き止み、笑いだす。
『……、笑えるな。お前。やっぱり』
 笑えるね。わたしって。そういいお互いに笑いあった。
 体の相性がいいのは地獄だよ。それ、前にも聞いた。うん。だって依存だよ。そうだな。まあいいんじゃねーの。とりとめもなくけれどひどく難題な問題を抱えたまま、わたしたちはホテルを出た。まだ、2時半過ぎだった。
 このさき、いつまで俺たちできるのかな? 彼が最後にぼそりとつぶやいた言葉が妙に引っかかっている。わたしが彼の最後の女になる。ということでいいのだろうか。最後の女。年齢的にも最後かな。わからない。けれどわたしは彼が最後の男になることはもう、決定されている。

 だって殺したいんだから。


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