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PR・広報が挑戦したパブリックアフェアーズ 行政・公共団体との関係づくり

BtoB企業でPR・広報を担当しているシミズと申します。
広報歴は10年ほどです。 

「事業に資する広報」を目指しながらも、メディアリレーションズ以外の打ち手に迷っていた自分が、行政・公共団体との取り組みを通じて、様々な効果を感じた忘備録を書きます。

私が2020年~2021年に、物流スタートアップ在籍時に取り組んだ内容です。(現在は別の企業に在籍)

【こんな方の参考になったら嬉しい】
・PR・広報の手法の幅を広げたいPRパーソン
・第3者からサービスの推奨・お墨付きをもらいたい方


パブリックアフェアーズとは

「パブリックアフェアーズ」とは、広義のPR(パブリックリレーションズ)に含まれる取り組みの1つです。社会の機運醸成やルール形成を目的に、行政機関や業界団体やメディアなどと関係構築することを言います。

一般社団法人パブリックアフェアーズジャパンでは以下のように説明されています。

「企業やNPO・NGOなどの民間団体が政府や世論に対して行う、社会の機運醸成やルール形成のための働きかけ活動」

一般社団法人パブリックアフェアーズジャパン

パブリックリレーションズが幅広い対象と関係構築するのに対して、パブリックアフェアーズは対象を政府、世論に絞ったものと言えます。近しい言葉で「ガバメントリレーションズ」もあります。これはパブリックアフェアーズのいち手法で、さらに対象が絞られ政府機関や政治家との関係構築に特化した行動を指します。
整理すると以下のようになります。(あくまで解釈の一例)

企業がパブリックアフェアーズに取り組む目的

パブリックアフェアーズは社会の機運醸成やルール形成を目的に行われるものです。
例えば、ベンチャー企業が新市場や新技術の普及のために規制改革やルール整備を求めることや、SDGsにまつわる新たな基準を策定することなどです。

具体的な手法は、政府関係者へのロビイングや、世論に訴えかける市民団体との討論会、自治体とのパイロットプロジェクトの組成、メディアへの働きかけ、専門機関との調査・論文発表などがあります。
ロビイングという言葉を聞くと特定企業への利益誘導などのダーティなイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、パブリックアフェアーズはオープンな場で公正かつ透明性をもって行われるものを指します。

パブリックアフェアーズの事例

具体的事例は、コンカー社の電子帳簿保存法の規制緩和、電動キックボードLuupの道路交通法の規制緩和、マネーフォワード社の金融庁との関係構築などがあります。

私が取り組んだパブリックアフェアーズ

パイロットプロジェクト(実証実験)の実施

私が取り組んだのは、業界団体、自治体とともにICTツールを用いたパイロットプロジェクト(実証実験)でした。
プロジェクトは業界団体、自治体、各行政、企業ら、多くのステークホルダーの協力を仰ぎ、実施することができました。

私がパブリックアフェアーズに取り組んだ目的

目的は3つです。

目的①社会・業界のため
当時在籍していた企業は物流業界向けにサービスを提供していました。2020年当時、物流業界は人手不足が加速する要因になりそうな「2024年問題」が4年後に迫っていました。「2024年問題」とは、2024年4月1日から働き方改革関連法の施行によって物流、建設、医療などの業界で時間外労働時間が制限されることに起因する様々な問題のことです。

2024年問題を機とした物流業界の人手不足の加速の課題を、世の中にイシューレイジング(問題を認知してもらうこと)し、社会からの物流業界の見え方を変え、理解を促したいと考えました。

目的②自社のため
前提として、パブリックアフェアーズに取り組むスタンスは「公益のため」が鉄則です(スタンスだけではなく本心から)。ですが、自社としての目的もありました。

自社プロダクトは大手企業中心に一定程度導入が進んでいましたが、今後さらにICTツールを苦手とする中小企業もターゲットになっていきます。そこで自治体からのお墨付きや中小企業での導入実績があると営業がしやすくなるのではないかと考えました。

目的③自身のため
近年、広報界隈では「事業に資する広報」というキーワードが意識されることが増えています。広報の役割は認知獲得やメディアリレーションズに限らず、経営課題を解決することだという話です。ただ、私には抽象度が高く、経営課題の特定と具体的アクションが出来ていませんでした。

そこで、広報の役割に「物流を世の企業の経営アジェンダにする」を掲げ、メディア掲載に限らない活動に取り組もうと考えました。
また、広報がパブリックアフェアーズに取り組めば、メディアリレーションズのスキルが役に立つとも考えました。

パブリックアフェアーズの成果

パイロットプロジェクトの実施によって、業界、自社、自身の3方向で成果を感じることに繋がりました。

①業界の成果
 ・業界団体、自治体などのステークホルダーが一丸となって課題解決のために協力した実績ができた
 ・他地域の自治体でも同様の取り組みを実施する機運が高まった
 ・人手不足の改善の参考値が取得できた
 ・課題解決のための次のステップ、課題が明確になった

②自社の成果
効果を明確にROIで示すのは正直難しいですが、以下の事象が発生しました。
1.信頼醸成(第三者推奨)
 ・官庁レポートに、当該領域の解決方法の事例として掲載
 ・経済産業省の「行政との連携実績のあるスタートアップ100選」に掲載
2.認知向上の一助
 ・実証プロジェクトが当該地方のTVや新聞、業界紙で取り上げられる
3.金銭的報酬
 ・有償での実証プロジェクト参画
4.採用広報
 ・社会貢献に興味ある求職者からの認知、アトラクトの要因の1つに
5.リード獲得
 ・実証プロジェクトの内容をウェビナーコンテンツとして利用

③自身の成果
 ・行政や自治体の巻き込み力の経験値
 ・PR・広報の手法の幅の獲得

パイロットプロジェクト実施の流れ

実際にパイロットプロジェクトをどう進め、どう取り組んだか、その流れをまとめました。プロジェクトが成功したのは、幸運が折り重なってさまざまな人に協力いただいたからなので、再現性があるかは分かりません。

1.とりあえずの目的の設定
決めていたのは広報のミッションの「物流を世の企業の経営アジェンダにする」です。具体的にパブリックアフェアーズに取り組むことが決まっていたわけではありませんでした。
そこでどんな取り組むをすれば良いか情報収集を開始しました。

2.自治体に問い合わせ
情報収集をする中で、とある自治体で物流に関する検討協議会が立ち上がったニュースを目にします。
自社の知見が検討会の皆さんの役に立つかもしれない、と考え、当該自治体に問い合わせをし、後日オンラインミーティングを設定することになりました。
この時点では、検討会と具体的に何をするか、何ができるかは決まっていません。
ただ、ミッションの達成のためには自治体等の公的機関からのお墨付きや導入実績が有効なのではないか?という仮説に基づき、一旦動き始めました。

3.アジェンダ設定された自治体
ミーティングには業界に精通した自社役員をアサイン。自社の業界への想いやミッションを丁寧に説明し、営業活動ではなく支援であることを伝えました。すると現地のキーパーソンを紹介してもらえることになります。
すでにアジェンダが設定されていると、話がトントン進むのだということを実感します。
同じタイミングで、他の全国の自治体にも何か協力できることはないか問い合わせをしましたが、コトが進展する自治体はありませんでした。こちらが具体的要件がないまま問い合わせても、コトが進ます、センスメイキングの重要性を感じました。

2024年問題はとりわけ首都圏と距離のある地方での影響が大きく、地方経済が立ち行かなる可能性が危惧されていました。前述の自治体は地理的条件上、2024年問題の対策を求めるデマンドがあったのです。

4.キーパーソンとの出会い
キーパーソンは現地の業界団体のトップで推進者でもありました。奇跡的に実証実験のパートナーを探しており、当初からキーパーソンと出会えたのは幸運でした。
そこで着面での挨拶と視察のために現地に赴くことになります。現地訪問の前に現場のAs-Is/To-beをヒアリングし、業務フロー図を用意し、改善できるポイントの仮説を用意します。地方への出張は何度もできるものではありません。入念な準備をしてから現地訪問しました。

5.仮説をもって現地に赴く
2日間に渡る現地視察では、キーパーソンが調整していただいた現場を視察します。作成した業務フローとの相違点などを洗い出し、As-Isの解像度を高めます。
この視察の様子を収めた写真は、のちほど広報活動で利用しました。
ここまでは自社の役員と自分だけでプロジェクトを推進してきましたが、本格的な提案をするにあたって、営業のメンバーをアサインすることにしました。

6.パイロットプロジェクトのプランニングと行政の巻き込み
パイロットプロジェクトの実施に向けたプランニングを行う一方、プロジェクトにさらなる協力者に加わってもらおうと、国交省にプロジェクトへの協力を打診することにします。
国交省にも正面から連絡し、プロジェクトの概要を伝えたところ、すぐにアドバイザリーボードとして参画していただく了承を取り付けます。行政側でも課題解決の有効な取り組み、支援サービスを予算案に盛り込むために常に情報を求めていたのです。
アジェンダ設定されたプロジェクトには、次々と協力者が現れることに驚きを感じました。

広報としては、プロジェクトが組成されたことを公開できるタイミングでプレスリリースを出し、業界紙を中心に掲載されています。

7.パイロットプロジェクトの実施
パイロットプロジェクトの実行にあたっては役員がPMとなり、社内の営業、CS(カスタマーサクセス)の協力で無事実施がされました。メンバーは二度ほど現地に赴いています。
私が最初に電話でコンタクトを取ってからおよそ1年が経っていました。

プロジェクトの実施日には現地のテレビ局や新聞社の取材が入っています。実証実験の開催の知らせをFAXで送信しただけですぐに取材の問い合わせが入り、意義ある取り組みは自然とメディアから興味は持たれるのだと思いました。
最終的に関わっていただいたステークホルダーの方々は以下です。

  • 地元荷主企業

  • 地元運送会社

  • 自治体の運輸局

  • 自治体の労働局

  • 業界団体

  • アドバイザリーボード 国土交通省

  • オブザーバー 自治体 産業労働部

8.レポートから新たな展開
パイロットプロジェクトでは、数値での効果も確認でき、報告レポートは行政や自治体の各所で後日公開されることとなりました。それを見た他自治体からもお声がけいただくなど、新たな展開に繋がっています。

9.3年間の継続的なプロジェクトに
本プロジェクトは3年間の継続プロジェクトとなりました。前年の課題の改善や取り組みの範囲を拡大させ、協力者は拡大しています。
継続した取り組みに繋がったのはキーパーソンの推進力と自社の公益に貢献するスタンスがあってのことだと思います。

パブリックアフェアーズからの学び

本プロジェクトを実施し、学んだことは以下です。

公益に貢献する

多様なステークホルダー間には複雑な利害関係も存在します。議論が前に進みにくい場合もあります。公益のために行う共通の理想とその定義を事前に共有し、そもそもなぜ取り組むのかに立ち返ることが重要でした。

企業としても自社の利益を優先せず、公益を優先することが大事です。協力者が次々と現れたのは公益のためのプロジェクトだったからだと思われます。

”PR”は肩書ではなくスキル

本プロジェクトには役員や営業、カスタマーサクセスなど社内の多くのメンバーに協力してもらいました。それは、パブリックアフェアーズは広報が行うものという考えはなく、全員が共通する考えをもっていたから実現したと思います。
改めて、PRは肩書ではなく誰もが持てる”スキル”なんだと思いました。

連続性あるPR

広報活動は「何をプレスリリースにするか?」から考えると、メッセージが単発的・散発的な活動に終止してしまいます。
毎年プロジェクトが組成されることをプレスリリースにし、前述の官庁レポートの公開や、プロジェクトの成果をお披露目する講演会、実証実験の現場の取材など、パブリックアフェアーズに取り組むことで、1つの筋ができ、連続性のある広報活動になったと思います。

パブリックアフェアーズを学ぶために

私が取り組んだのはあくまでアジェンダが確立していたパイロットプロジェクトの実施です。
規制緩和のための動きであれば、理想と道筋を示すところから始める必要があり、より高度なパブリックアフェアーズが求められると思います。このあたりは『未来を実装する』に詳しく書かれています。
ぜひお読みいただけれればと思います。


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