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心理的安全性は成功への道しるべか、失敗への落とし穴か

今回は、心理的安全性 (Psychological safety) の高い集団を築くためにはどうすれば良いのか考察を重ねたいと思います。皆さんの職場の中でも心理的安全性に注目した組織改革を進めている会社で働いている方もいるかもしれません。心理的安全性を構築するためには、トップダウンとボトムアップの両方の取り組みが必要になります。具体的にどのような能力が個人個人に求められ、また、リーダーに求められるのかを、そして、感情知能がどのような役割を果たすのかを、心理的安全性の世界的な第一人者であるエイミー・エドモンドソン (Amy Edmondson) の動画を参照しながら理解を深めたいと思います。

なお、心理的安全性は、家庭や友達同士のような集団でもとてもうまく機能します。まずは、そのような身近な、しかも、より大切な人たちとのつながり方を考えるきっかけになれば幸いです。動画を見る際には日本語の字幕を活用してください。


心理的安全性は学びを加速する

沈黙、そして問題は見過ごされる

リコール隠し、忖度、ハラスメントなど、ビジネスにおいて声をあげることの重要性は誰もが知ってはいますが、実際に行動を起こせる人は少数だそうです。なぜなのでしょうか?ひょっとしたら、無知だとは思われたくないので、質問をしないのかもしれません。無能だと思われたくないので、間違いを認めないのかもしれません。押しつけがましいと思われたくないので、アイデアを出さないのかもしれません。批判的だと思われたくないので、現状維持を受け入れているのかもしれません。みんな知っているはずなのに誰も発言しない状況に流されているのかもしれません。「正直者が馬鹿を見る」「出る杭は打たれる」日本にはこの手のことわざはいくつもあり、家庭や学校、友達から学んだそのような過去の教訓が暗黙のバイアスとなり抜け出せなくなっているのかもしれません。

優秀なチームほど間違いを犯す矛盾

ひょっとして、明日目覚めたら、あなたはやる気に満ちて行動を起こせるかもしれません。しかし、それは思いとどまった方がいいかもしれません。単なる勢いで正義を振りかざしたところで、上手くいく可能性は低いでしょう。こういう時こそ、科学的なアプローチが効果的であり、それを実現するのが心理的安全性です。エイミーは心理的安全性を次のように定義しています。

心理的安全性とは、アイデア、質問、懸念、間違いを話しても、罰せられたり屈辱を受けることはないという確信のことです。
Psychological safety is a belief that one will not be punished or humiliated for speaking up with ideas, questions, concerns, or mistakes.

Building a psychologically safe workplace | Amy Edmondson | TEDxHGSE - YouTube

彼女がこのコンセプトに出会ったのは、彼女が論文を書くために医療現場の優秀なチームについて調べているときに偶然に起こったそうです。彼女の仮説は、大切な命を扱う優秀なチームは、そもそも普段から小さな問題が起こらない、高度に訓練されたチームであると考え、そのためのデータを集めました。しかし、ここで彼女にとって問題が発生します。彼女の仮説とは全く正反対のデータが得られてしまったのです。つまり、優秀なチームほど、普段から問題が多発しているのです。論文を仕上げなければいけない立場としてこれは大問題でした。そしてより詳細にそのデータを分析することで、心理的安全性のコンセプトにたどり着いたと語っています。つまり、問題が多く発生しているのではなく、より小さな問題も含めて、より積極的に報告する組織文化が関係していたのです。

成長思考こそが心理的安全性を実現する

心理的安全性を実現できる組織と、そうではない組織では何が違うのでしょうか?どうすれば心理的安全性のある組織になれるのでしょうか?エイミーは以下の三つの行動を提案しています。

1 - 問題を学習の機会として表現する言葉を選ぶ (Frame the work as a learning problem)

そもそも問題が発生するのは、無知や経験不足が原因ではなく、日々発生する不確実性や相互依存の複雑性にあります。過去に似たような状況を経験したことがあっても、目の前の状況が過去と全く同じということはありません。そのような些細な違いに繊細に気が付けるからこそ優秀なパフォーマンスが発揮できるのです。このような考え方が、目の前の疑問点に対して声をあげる根拠となり、自信となるのです。

これは、「誰かが何かを間違えた」という表面的な現象にとらわれてはいけないことを忠告しています。たとえ「あなた」であっても同じ間違いは確率的に起こりえると考え、それがどうして起こりえるのか深く考察し、チームとしての成長の機会として目の前の現象を言葉で表現することが重要になります。

声をあげるとは、まさに言葉として表現することを意味しますが、この表現によって人々がどのような印象を受けるのかがとても重要になります。批判的に響く表現では、委縮してしまうか、反発を招きます。人々を言葉で導くには、それにふさわしい表現方法があり、聞いている全員に成長思考を目覚めさせる表現を選びたいものです。英語で Frame と表現される、丁寧な言葉選びという特殊な能力は、メンバー一人一人に求められる能力であり、感情知能によって高めることができるソフトスキルです。

2 - 問題は常に起こりえることを忘れない (Acknowledge your own fallibility)

20年、30年経験があるからと言って、間違いを犯さなくなったり、学ぶことがなくなるわけではありません。初心忘れるべからずのことわざ通り、初心者の何気ない質問から学びを得ることもあります。問題は常に起こりえることを忘れることなく、謙虚な態度で部下や同僚と接することで、皆が声をあげることに対する安心感を生み出します。

3 - 好奇心のお手本を見せる (Model curiosity)

好奇心は成長の源ともいえる大切な感情です。子供の頃は溢れんばかりに湧き出ていた方でも、大人になるにつれて枯れてきてしまっているかもしれません。それこそ初心に返り、自分自身を見つめ直すことが大切です。好奇心は、疑問を見つけ、新しいアイデアを生み出します。これがイノベーションの種になります。疑問に思ったことは質問をして、コミュニケーションを活性化させましょう。そして、お互いに持つ知識を寄せ合ってください。ただし、言葉は慎重に選んでください。好奇心も感情知能によって高めることができるソフトスキルです。

つまり、心理的安全性とは、お互いに丁寧な表現で質問し合い、チームの学習意欲を刺激続け、新しいアイデアを歓迎することで、イノベーションを生み出すための進化し続ける集団を構築する手段なのです。そのためには、メンバーの多様性が必要であり、メンバー同士の建設的な意見の対立を歓迎し、共感力によってチームワークを維持します。また、その基礎となるのは、個人個人の成長思考であり、自己管理能力です。言葉と感情を巧みに操れるかどうかで、そのスピード感に影響します。

心理的安全性の落とし穴

心理的安全性も万能ではありません。誤解を恐れずに表現すれば、そもそも優秀なメンバーが集まったチームでなければ効果を発揮しません。動画の中では、やる気があり責任感の高いチームに心理的安全性が加わることで、高い学習意欲を導けると説いています。

多様性が低く、同じような意見ばかりを言い合うチームでは、心理的安全性は「快適」な職場環境を作るのみで、組織としての成果は望みが薄くなります。組織の衰退を加速させる結果にさえなりかねません。

また、心理的安全性のよくある誤解として、例えば、「こうしたほうが良いと思います。」と自己解釈を一方的に展開したり、「前提が間違っていると思います。」と相手を一方的に否定する表現を受け入れる組織が心理的安全性だという解釈です。自分は正しい、相手が間違っているという、固定思考からくる表現は、誰にとっても不快なもので、モチベーションの高い人が使う表現方法ではありません。確かにあなたの主張そのものは理にかなっているのかもしれませんが、それよりも大切なことがあるということです。自分を含めたチーム全体の成長をモチベーションとし、自身の成長思考を鍛えることが、まず最初に取り組むべきことなのです。

リーダーに求められる行動

組織内に心理的安全性を構築する際には、トップダウンとボトムアップの両方のアプローチがあります。家族のような小さな、しかし、繋がりがとても強い集団で心理的安全性を構築するには、ボトムアップのアプローチも上手く機能するでしょう。しかし、組織が大きくなればなるほど、トップダウンのアプローチが理想的であることは間違いありません。以前リーダーシップの仕事は、組織文化を構築することだと述べましたが、トップダウンのアプローチをとることで、組織文化の中に心理的安全性の種を植え付けることができ、リーダーとしての重要な成果となります。行動こそがリーダーシップの最大の武器であり、特定の洗練された行動を組織全体に示すことで成し遂げることができます。動画の中では四つの行動を提案しています。

1 - 隠し事をしない (Be transparent)

謙虚さ (Be humility) をもって、隠し事をしないこと。リーダーが隠し事をしていると思われることは、たとえそうではないとしても、リーダーとしての信認を失うことになります。隠し事をしていない、つまり、欺こうとはしていない行動は大切です。虚勢を張ったり、隠蔽したりするのは、リーダーとして失格です。

2 - 迅速な行動 (Act with urgency)

行動を起こせない理由として、情報の少なさをあげる人がいます。しかし、情報が少ないということは、行動を先延ばしにして良いという意味ではありません。少ない情報しかないことは、残念ではありますが、それを認め、しかし、迅速に行動に移すのがリーダーシップです。批判という名の正しい情報が来ることもあるでしょう。しかし、それでよいのです。情報というのは、そもそも初めからそろっているものではなく、また、行動を起こすことで、より早く伝わってくるのです。行動を起こせないリーダーは信認を失うことになります。

3 - 価値観に寄り添う (Follow your value)

リーダーにはリーダーとしての価値観が大切であり、自身の行動と整合性を保つ必要があります。この価値観は、集団全体の価値観との整合性も必要です。社員の安全を守りたいのか、環境を守りたいのか、情報が少ない中でも決断を下せるのは、価値観があるから可能になります。自分自身の地位や財産に価値観を置いているのでは、リーダーとして失格です。

4 - 権限を委任する (Share the power)

リーダーの特権は行動ですが、それはあなた一人で行うという意味ではありません。それでは、あなたが集団のボトルネックとなってしまい、素早く決断できても、迅速な行動に移せません。適切な人材を配置し、グループでリーダーシップを発揮するのです。会社は CEO 一人で運営しているのではないのも同じです。

家族こそ高い心理的安全性が必要

心理的安全性についての知識を得ても、それを実際に実行に移すのは容易ではなく、多くのハードルがあります。そこで提案ですが、まずあなたの家族内の心理的安全性を高めてみるのはどうでしょうか?どんな施策でも、小さく実験的に始めることが成功への第一歩です。

皆さんの中に、息子や娘との会話がうまくいっていないと感じている方はいませんでしょうか?夫婦間の会話はどうでしょうか?子供や家族の将来に関して話がまとまらないことはありませんでしょうか?このような家庭内で発生する様々な問題は、あなたの感情知能を高め、心理的安全性を構築するリーダーシップを家族内でとることによって解決することができます。

リーダーシップといっても、家族内で偉ぶるわけではないので誤解をしないでください。むしろ正反対の行動が求められるでしょう。特に、子供のように自分よりも歳が低い相手に対して、知らず知らずのうちに上から目線で言葉を発してしまうことはよくある失敗だと思います。ぜひ気を付けたいものです。

また、家族内でも、やる気や責任感は関係してきますが、お互いの繋がりがとても強いので、心理的安全性を高めた後に、それらを高めることも可能だと思います。そのため実際に試してみることで、自分に足りない能力に気が付くことができ、成長するためにとても効果的だと思います。また、心理的安全性のある家庭があれば、人生が楽しくなることは間違いありません。したがって、実行に移す高いモチベーションもあるのです。


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