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【ドラマで見る女性と時代】その4の伍 『光る君へ』~まひろ(後の紫式部)①~(2024年)

『あの日、貴方に会いたくて駆け足になった私のせいで、私の母は貴方の兄に殺められることになってしまったの』

 好いた女が泣き崩れながらそう告白したら、
男はどう受け止めたらいいのだろうか。

 『 告白 』と題された今回のドラマで明かされたのは、単にお互いの身分と差と過去の残酷な出来事のみでなかった。

 秘められた二人の想い。
 幼く純粋だったはずそれは、『 告白 』により残酷な事件の引き金という濡れ衣をまとわされ、深い業の色に塗りかえられてしまう。

 紫式部と藤原道長。
 このドラマで二人はソウルメイトとされているが、まさに宿命ともいえる因縁の深さが浮かび上がった。

※見出し画像は、ドラマ撮影で用いられたまひろ(紫式部)の着物の写真です。





残酷な事件の告白に紛れた愛の告白


 幼かったあの約束の日。
 三郎(藤原道長)はずっと待っていたのに、まひろ(紫式部)は現れなかった。
 6年後、再会を果たしてから、道長(柄本佑さん)はまひろ(吉高由里子さん)に何故あの時来なかったのかと問いただした。が、その時のことを思いだしたくないからとまひろは理由を明かさなかった。
 この時のまひろは、道長のことを『 三郎 』という名の貴族ではないただの男と思っていた。

 その『 三郎 』が右大臣家の三男『 藤原道長 』だと知り、自分の目の前で母を殺した『 道兼 』の弟であることもついに知ってしまったまひろ。

 二人は密かに会い、まひろは事のすべてを道長に語る。

 母殺しの直接の咎人とがびとは藤原道兼(玉置玲央さん)。
 どう考えても彼が悪い。それに尽きるはず。
 
 道長はまひろの母のことを聞き、一族の非を詫びる、許してくれ、すまない、と頭を下げる。
 まひろは、三郎に謝ってほしいわけじゃないし恨まない、けれど道兼のことは生涯呪うと、心の底からの憎悪を込めた呪詛の言葉を吐く。
 彼を恨めばよい、呪えばよいと道長は受け入れる。

 その矛先は道兼だけでよいはずなのに、まひろは大粒の涙をこぼし嗚咽を交えながら道長に告白する。

「 あの日、
 わたしが三郎に会いたいと思わなければ

 あの時、わたしが走り出さなければ

 道兼が、馬から落ちなければ

 母は、殺されなかったの

 だから、母上が死んだのは、
 わたしのせいなの 」


 ただ、あの時、三郎との約束の場所に早く行きたかった、会いたかった。
 その想いが幼いまひろを駆け足にした。

 出来事の順番を並べ、先の事を引き起こしてしまった自分が悪いのだと自分自身に非を認め、顔を覆って泣くまひろ。


 何一つ責められるべきものはない、淡くて幼い恋心ゆえの行動。
 それが罪だったのだと思わねばならないなんて。
 この告白は、そんな痛ましい状況と、演者の吉高由里子さんの号泣と苦し気な語り口があいまって、観ている方もただただ胸が引き裂かれる。

 いつからまひろは、母の死を自分のせいだと思っていたのだろう。

 母を亡くした日から、心の底に芽生えていたのか。
 それとも、幼い頃に見た咎人の顔が、時の右大臣家の息子と同じと知り、その罪を公表できるはずがないことに苦しみ、出来事を遡って自分が走ったりして道兼の乗る馬と鉢合わせることがなければ、という思考に陥ったのか。

 いずれにしろ、少女のまひろを走らせたのは三郎への恋心。
 貴方に対する想いが忌まわしく悲しい出来事の発端なのだと、好いた女が目の前で号泣しながら告白し、道長は絶句する。

 まひろが語る母の死のロジックをなぞれば、道長からすれば、あの日に待ち合わせをしなければ彼女を走らせることもなかった、あの日に会おうと自分が誘わなければ……、と自分を呪ってしまいかねない。
 こんな心境まではっきりと描かれてはいなかったが。

 その後、これに追い打ちをかけるような言葉を道長は浴びてしまう。

 まひろの告白を聞き、道長は馬を走らせ屋敷に戻り、6年前に人を殺めたのかと道兼に問いただす。
 虫けらの一人や二人殺してもどうということはないと道兼は答える。
 その道兼を、虫けらはおまえだと道長は何度も殴りつける。

 すると、道兼はさらに開き直ってこう言い返す。

「 何もかも父上が揉み消してくださったのだ 」

「 そもそも、お前が悪いんだぞ
 
 おまえが俺を苛立たせなかったら、
 あのようなことは起こらなかった

 あの女が死んだのも、
 おまえのせいだ 」


 道兼を苛立たせた件。
 それは、あの日、道長は道兼に、弱き者に乱暴をするのは心の弱い者がすることだと意見したことだった。
 道長は道兼から激しい暴行を受け、その夕刻、顔に返り血のついた道兼の姿を目撃していた。


 道兼から、おまえが俺の機嫌をそこねたせいだと理不尽な言葉を突きつけられる道長。
 そんな指摘に固まって何も言い返せなかったのは、道兼が人殺しをするほど逆上したのは自分のせいだと内心で自分を責めてしまったからなのか。

 彼もまた、何一つ悪くはないのに、まひろの母の死の因縁を背負うことになった。

 さらに深く掘り下げれば、自分がまひろと出逢わなければ、好意を抱かなければ、まひろの母も無残な死を遂げることはなかったかもしれない、と考えてしまっても不思議ではない。


 こうして、二人の幼い恋心が残酷な事件へのプロローグへと一転した告白だったのでした。



道長の決意を見た気がする


 6年前の道兼の大罪を知りながら揉み消していた父・兼家(段田安則さん)。

 道兼を殴りつける道長を見て、おまえにもそんな熱き心があるとは知らなんだ、これなら我が一族の行く末も安泰だ、今日はよい日じゃ、と大声で笑う。

 そのさまを目の当たりにして、道長はこう思ったんじゃないだろうか。
 こんな一族にまかせておいたら、世の中がろくなことにならぬ、と。

 その伏線のように、この回の前半で兼家と道長が食事をとりながら天皇の政治について話すシーンがある。
 そこで、道長は兼家にこんな意見を述べる。

「 私は、帝がどなたであろうと変わらな     いと思っております 」

「 大事なのは、
 帝をお支えするのが誰か、
 ということではないかと 」


 兼家や道兼のような者が、その立場にたったらどうなるか。

 それまでは、自分は三男だし政治に興味もないし、と飄々と宮仕えをしていた道長だったが、きっとこれを機に初めて本気になったのかもしれない。
 こんな狂気じみた一族の者達を帝の傍に置くわけにはいかない、と決意を秘めたように見えた。


 平安貴族の権力闘争の末に自分の野望を達成した人物に思われがちな藤原道長だが、このドラマでの人物像はそうではない。

 自分がトップに立ちたいのではなく、一族の横暴を防ぎたかった。

 もしそうだとすれば、この世をば、という例の句も、自分が頂点になり何もかも思い通りという自己顕示ではなく、無事に平穏な世を完成させたという満ち足りた思いとも読める気がする。



花山天皇のベクトルを一身に引き受けた忯子の行方

 

 ところで、毎回物議を醸しだす花山天皇。
 今回、その激しすぎる寵愛が過ぎて、女御の忯子よしこは体調を崩し床に臥せっていた。

 女冥利に尽きるじゃない、愛でられすぎて倒れるなんて……お気の毒……お幸せ…、と内裏の女達が噂する。

 花山天皇という男はきっと色々な女に分散させないと駄目なのだ。
 一人の女に全ベクトルを向けたらこんな始末になる
のだから。


 忯子はやがて病死するらしいけど、その原因も花山天皇の寵愛なのだろうか。
 愛しすぎて、という文字だけにすれば美しいけれど…………本当に心機能などが弱い相手だったら、体力を失い心不全に至るのかもしれない。



 以上が、第五話
『 告白 』感想であります。



前話までの感想です。
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