中村しげき

ライター&エディター、大阪の出版社ホノカ社の代表

中村しげき

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記事一覧

ハイツ友の会備忘録

本人たちにとっては、もう放っておいてほしいと思うかもしれないが、あくまで個人的な備忘録として、おじさんの堅い文章でもってここに書き残させてもらうことにする。 19…

中村しげき
1か月前

前後を切断せよ! そして、誰も立ち入らせない。

ある本で、 「物理学者は、時間という言葉を使わない」 というフレーズを読んだとき、なんだか頭がグラグラしたものでした。 また、「時間が過去から未来へと流れている…

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一隅を照らす

学生の頃、京都市左京区の叡山電車の線路脇のアパートで過ごしていたので、毎朝、窓を開け、視界にドンとそびえる比叡山を眺めていたものでした。 比叡山を開いた人は、天…

最後から二番目の‥‥

サブスクの動画配信サイトが増えてきたおかげで、十数年前のドラマを観ることがあります。 『最後から二番目の恋』 (フジテレビ系・脚本:岡田恵和) 鎌倉市役所に勤め…

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名刺代わりの小説10選

Twitterで「名刺代わりの小説10選」を見かけ、自分でもやってみたくなって、数日かけて10冊を厳選してみた。 バルザックと小さな中国のお針子/ダイ・シージエ 敦煌/井上…

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航空チケットの値段を書き換えたはなし

20年以上前は、海外行きの往復航空チケットを買うと、現地で帰路のリコンファーム(予約の再確認)が必要でした。帰国何日か前に、現地の航空会社のオフィスに出向くわけで…

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路上の花園

ずいぶん前の話になりますが、大学を中退してバイトすらしていなかった頃のこと、アジアのストリートチルドレンを援助するNPO団体の事務所に通っていて、書類や会報づく…

旅の記憶、想像を絶する列車三泊四日

「想像を絶する」という言葉を聞くたび、個人的に思い出すのは、二十歳の中国旅行で、ただ切符が安かったから、ということで思わず二等列車に乗ったときのこと。西安からタ…

時間があるということ

同じ意味の言葉である《時間》と《時》ですが、あえて使い分けていくことによって、人生がどこまでも豊かになる、ということを言っているのは、古代ローマの哲学者、セネカ…

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オーディオブックの聴き放題サービス、聴いてます。

ここ1年あまりで、ガラリと変わってしまったことに、音楽、映画、ドラマ、本や雑誌までも、すべてスマホの定額視聴し放題サービスで楽しんでいます。 読書も、電子書籍だ…

2

『人質の朗読会』

先日、『人質の朗読会』というWOWOWのドラマを観ました。原作は「博士の愛した数式」などで知られている小川洋子さん。 南米の過激派組織によって人質となった見ず知らず…

インドの果ての深夜喫茶

もう何年も外国へは行っていませんが、日々仕事と家庭の生活にひたっていながらも、二十歳過ぎの頃、幾度となく異国のへんぴな村を旅した記憶がよみがえってきます。 西イ…

2

最低でも3軒のカフェを希望

居心地がよいカフェが、最低でも3軒はある町に住みたい、といつも思っていました。 幸い、うちの近所には、ちょうどよいカフェがいくつもあり、そのうちのひとつの、店内…

2

人生《最悪》の出来事に……

「信康」という歴史上の人物をご存じでしょうか? 信長と家康から一字ずつ名前を授かったこの名前から、想像がつくかもしれません。 お父さんは誰もが知っている天下の家…

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HOW TO LIVEの思い出

さて新年度、中学、高校、大学と、さまざまな新入生のみなさんは、部活動や、サークル活動選びにワクワクしたり、体験入部などしている時期でしょうか。 かつて僕が通って…

なりたいと思う人間になっているか

「もっとも尊敬する人物は?」という唐突な質問がきたとき、僕は「モリー先生」と答えることにしています。 じつは、会ったこともない、永遠に会えない人なのですが、『モ…

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ハイツ友の会備忘録

本人たちにとっては、もう放っておいてほしいと思うかもしれないが、あくまで個人的な備忘録として、おじさんの堅い文章でもってここに書き残させてもらうことにする。

1990年代、僕は北陸の田舎を離れ、関西で学生生活を送っていたが、お笑いの世界にハマって、足しげく劇場へ通っていた。年末の「オールザッツ」などを観たいがために実家に帰省しなかったほどだった。

当時、若手の主戦場は心斎橋二丁目劇場で、看板芸

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前後を切断せよ! そして、誰も立ち入らせない。

ある本で、

「物理学者は、時間という言葉を使わない」

というフレーズを読んだとき、なんだか頭がグラグラしたものでした。

また、「時間が過去から未来へと流れている証拠は、何ひとつない」とも聞いたことがあります。

よく「今、ここに生きる」という言い回しを耳にすることもありますが、きっと、その場所とは、時間がないところなのだと思えてきます。

かつて夏目漱石がイギリス留学時、底知れぬ孤独と鬱病に

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一隅を照らす

学生の頃、京都市左京区の叡山電車の線路脇のアパートで過ごしていたので、毎朝、窓を開け、視界にドンとそびえる比叡山を眺めていたものでした。

比叡山を開いた人は、天台宗開祖の最澄。

空海に比べると、あまり派手な伝説はないのですが、比叡山は京の都から近いこともあって、歴史上名だたる賢者が学んだ知の集積地ともいえる山となりました。

その最澄は、

「一隅を照らす、これすなわち国宝なり」

という言葉

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最後から二番目の‥‥

サブスクの動画配信サイトが増えてきたおかげで、十数年前のドラマを観ることがあります。

『最後から二番目の恋』
(フジテレビ系・脚本:岡田恵和)

鎌倉市役所に勤める中井貴一と、隣に引っ越してきた小泉今日子との掛け合いが軽妙でありつつ奥深く温かく、多くの賞を獲得したドラマです。

タイトルからもわかるように大人向け恋愛ドラマなのですが、ドラマ中、こんな台詞があります。

「人生とは、未来の自分に恋

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名刺代わりの小説10選

Twitterで「名刺代わりの小説10選」を見かけ、自分でもやってみたくなって、数日かけて10冊を厳選してみた。

バルザックと小さな中国のお針子/ダイ・シージエ
敦煌/井上靖
クライマーズ・ハイ/横山秀夫
ダウンタウンヒーローズ/早坂暁
アルケミスト/パウロ・コエーリョ
忍ぶ川/三浦哲郎
野火/大岡昇平
後宮小説/酒見賢一
苦役列車/西村賢太
星の王子さま/サン=テグジュペリ

20代の頃に読ん

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航空チケットの値段を書き換えたはなし

20年以上前は、海外行きの往復航空チケットを買うと、現地で帰路のリコンファーム(予約の再確認)が必要でした。帰国何日か前に、現地の航空会社のオフィスに出向くわけです。

当時二十歳過ぎの僕は1ヶ月のインド旅行の終盤に、このリコンファームに出向きました。通常、数分で終わるものなのですが、このときはやけに時間がかかり、僕のチケットが何人もの手に渡り、ついにはサリーを着た女性スタッフから、こう言われまし

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路上の花園

ずいぶん前の話になりますが、大学を中退してバイトすらしていなかった頃のこと、アジアのストリートチルドレンを援助するNPO団体の事務所に通っていて、書類や会報づくりなどを手伝っていました。

おおよそ週1回のペースで2、3年ほど。その事務所は、大阪府池田市にあったので、大阪駅から阪急電車に乗り換え、池田駅で降り、駅前商店街の花屋の角をまがってまっすぐ進むという道のりを、毎週歩いていました。

やがて

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旅の記憶、想像を絶する列車三泊四日

「想像を絶する」という言葉を聞くたび、個人的に思い出すのは、二十歳の中国旅行で、ただ切符が安かったから、ということで思わず二等列車に乗ったときのこと。西安からタクラマカン砂漠の入口の町コルラまでの三泊四日、固い座席に座りっぱなしでした。

じつは、座れるのはまだいいほうで、車内はまるで家畜小屋のように混んでおり、“想像を絶する”ことばかりの時間でした。

トイレはたえず使用中、しかも、ひとつの便器

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時間があるということ

同じ意味の言葉である《時間》と《時》ですが、あえて使い分けていくことによって、人生がどこまでも豊かになる、ということを言っているのは、古代ローマの哲学者、セネカです。

セネカといえば、暴君の皇帝ネロの執政官としても歴史に名を残し、晩年は政治から離れて哲学に専念するも、謀反を疑ったネロから自殺を命じられ、自決するという最期をとげています。

《時間》とは、量。時計で示されるただの経過。

《時》と

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オーディオブックの聴き放題サービス、聴いてます。

ここ1年あまりで、ガラリと変わってしまったことに、音楽、映画、ドラマ、本や雑誌までも、すべてスマホの定額視聴し放題サービスで楽しんでいます。

読書も、電子書籍だけでなく、オーディオブックの聴き放題が重宝しています。

ただ、まだまだ冊数は少なくて、成熟前のサービスといった感じで、ラインナップの多くは、19世紀頃に出版された成功哲学&自己啓発の名著であったりします。

ジョン・マクドナルド、カーネ

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『人質の朗読会』

先日、『人質の朗読会』というWOWOWのドラマを観ました。原作は「博士の愛した数式」などで知られている小川洋子さん。

南米の過激派組織によって人質となった見ず知らずの日本人6名が、何の娯楽もない有り余る時間に、順番に自分の作文を朗読する、というストーリーです。

その回の朗読者を囲み、人質仲間がその語りにじっと聞き入ります。それはまるで厳粛な儀式のようでもあり、朗読者が語りを終えると、何を言い合

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インドの果ての深夜喫茶

もう何年も外国へは行っていませんが、日々仕事と家庭の生活にひたっていながらも、二十歳過ぎの頃、幾度となく異国のへんぴな村を旅した記憶がよみがえってきます。

西インドの果ての村を目指して深夜バスにゆられ、ふと気付くと乗客は僕一人になっていました。深夜3時、訳のわからぬうちに下車させられ、バスは過ぎ去り、僕は真っ暗な道で一人、寒さをしのぐために毛布をかぶって突っ立っていました。

宿をさがそうにも、

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最低でも3軒のカフェを希望

居心地がよいカフェが、最低でも3軒はある町に住みたい、といつも思っていました。
幸い、うちの近所には、ちょうどよいカフェがいくつもあり、そのうちのひとつの、店内に流れる、しぶいジャスに耳を傾けていると、よく、二十数年前に海外に行った頃のことを思い出すのです。
二十歳頃の僕は、若い頃にありがちな、世界と(勝手に)勝負しているイキリ具合で、あえて言葉も通じないような、アジアの辺境の地をうろついていまし

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人生《最悪》の出来事に……

「信康」という歴史上の人物をご存じでしょうか?

信長と家康から一字ずつ名前を授かったこの名前から、想像がつくかもしれません。

お父さんは誰もが知っている天下の家康でありながら、歴史ファンくらいしか知られていない徳川信康は、悲劇の人でもあります。

徳川家の跡取りと期待されながらも、信長の娘である嫁の密告で信長の逆鱗に触れ、父の家康から自害を命じられるという異常な最期を迎えます。

日本の歴史上

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HOW TO LIVEの思い出

さて新年度、中学、高校、大学と、さまざまな新入生のみなさんは、部活動や、サークル活動選びにワクワクしたり、体験入部などしている時期でしょうか。

かつて僕が通っていた公立高校では、毎週水曜日の最後の1コマだけ「クラブ活動」という、ちょっと浮いた時間がありました。

クラブ活動とは、いわゆる部活動とは似て非なるもので、野球部員とかサッカー部員などの本気の生徒たちは、そのまま放課後まで部活動に汗を流す

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なりたいと思う人間になっているか

「もっとも尊敬する人物は?」という唐突な質問がきたとき、僕は「モリー先生」と答えることにしています。

じつは、会ったこともない、永遠に会えない人なのですが、『モリー先生との火曜日』という本でご存じの方も多いはず。

この本(実話)では、運動神経が機能しなくなる病ALSに犯されていく大学教授のモリーが、毎週火曜、元学生との訪問の際に人生、愛、生と死、家族について静かに語っていきます。

モリー氏は

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