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ナポリタンの憂鬱

大人になっても洋食には胸がときめく私です。こんにちは。旗が立っているともっと胸がときめきます。

ナポリタン。日本の洋食の代表的なメニューのひとつ。
自分が子供の頃、スパゲティといったらナポリタンかミートソースぐらいしかなかったものです。

しかし、世に「イタリアン」が認知されはじめ、本格的なメニューが一般大衆にも浸透すると、所謂「本格派」な人たちからナポリタンは「邪道」とのレッテルが貼られ、卑下される存在になっていったような気がします。
(因みに、本格派が広がっていく中で生み出されたものに「乳化厨」があります。いつか記事を書く!)

日本のスパゲティの代表格として頑張っていたナポリタンにとっては、青天の霹靂だったことでしょう。隠れキリシタンへの弾圧の如くナポリタンは狩られ、一時はレストランで「ナポリタンを食べたい」などと言ってしまったら、○○○のように扱われるようにもなったものです(嘘)。

そんな感じで「本格派」と呼ばれる人たちが大手を振るい、ナポリタンは日陰者となり始めたわけですが、そのようになったきっかけは、伊丹十三の書いたエッセイにあるのではないかと思う。

この書は次のような感じで始まる。

(日本では)多くは、スパゲッティの名を借りた炒め饂飩の域を出ないのであります。

この一文を読んだだけでも、当時のスパゲティ事情に対して批判の狼煙を上げてやろうという意気込みが容易に伝わってきますよね。
そして、わざわざ「炒め饂飩」と表現しているぐらいですから、念頭に置いているのは「ナポリタン」であることは明白。
案の定、

なにゆえに日本人はスパゲッティに鶏やハムや海老やマッシュルームを入れてトマト・ケチャップで和えるようなことをするのか。

と、ナポリタンを盛大に責めはじめ、「偽物のスパゲティ」として痛烈な批判を展開していくわけです。
あげくには、

茹ですぎたスパゲッティの水を切って、フライパンに入れ、いろんな具を入れてトマトケチャップで炒める。しかも運ばれてきた時には冷え始めていて湯気も立たぬ。
これをあなたはスパゲッティと呼ぶ勇気があるのか。ある。というなら私はもうあなたとは口をききたくない。

ときたものだ。
まるで、ナポリタンに親を殺されたのかとでも思わんばかりの勢いなわけです。
それもそのはずで、この書によるとスパゲティの定義は、

一、スパゲッティは大量の茹でアルデンテに茹で上げる
一、ソースの準備は茹で上がる前に一切を完了させる
一、茹で上がったスパゲッティにソースをかけ、取り分け、熱々のうちに食べ始める

とのこと。
要約すると、スパゲティの技術は「茹で上がったスパゲッティを、再び火を使わずに、どれだけ熱いままで食卓にのせることができるか」ということらしい。
この定義に従うとしたら、洋食屋で出てくるナポリタンが許せないものになるのは必然でしょう。

このエッセイが書かれたのは昭和四十三年。今から五十二年前。
当時の洋食屋がどんなものかは知らないが、恐らく現在よりはルーズな感じがするし、焼きそば感覚で調理してるイメージ。
スパゲティはソフト麺の如くヤワヤワに茹で上げられ、それをマーガリンで具材と一緒にぐちゃぐちゃに炒め、ケチャップをドバドバかけて完成。ナポリタンが完成しても、やる気のないウェイトレスが気付かないため中々運ばれず。客が急かすと「あぁできてたのね」みたいな扱いで、すっかり冷めた頃に提供される。客は客でナポリタンのイメージ図は軒先の食品サンプルだから、冷めていようとパサパサであろうと「まぁこんなもんだろ」的にズルズルと啜りながら食す。
ズルズルと食す。ズルズルと。

こんな時代背景であれば、このようなエッセイが出てくるのも当然。至極まっとうな批評だろう。
(実際、今読んでも十分面白く読める)

ただ、時代も数周巡り、「本格派」は「意識高い系」と揶揄されるようになり、「偽物だろうとなんだろうと旨けりゃいいじゃん」的な考えを支持する「意識低い系」の逆襲により、ナポリタンはスパゲティのメニューのひとつとして立派に根付いたと思う。
ナポリタン派は輝かしい未来を勝ち取ったのだ。めでたしめでたし。

とはいかない。

問題はケチャップだ。

自分はケチャップがそんなに好きじゃない(因みにいかりや長介もケチャップ嫌い)。まったく食べられないわけではないが、独特の甘みと酸味がとても苦手。
特に酸味。
伊丹十三に至っては、

つまり貧しいんだよ。ね、だからトマト・ケチャップなんかが好きなんだよ。あの甘ったるい、貧しい味が大好きなんだよ。

と、けんもほろろ。貧しい味とまで言い切っちゃう潔さ。これは全ケチャップ好きを敵に回したな。

自分はそこまで言うつもりはないけどさ、、、。兎にも角にも、ケチャップの酸味が苦手なのは事実。
皆さんも自分で作ったら恐ろしく酸っぱいナポリタンができてしまった経験はあるでしょう。イヤじゃありませんでした?
私は声を大にして言いたい。酸っぱいナポリタンは食べたくない!

なら、どうしたらいい?

実は、ケチャップの酸味は簡単に消し去る方法がある。
それは焼き切ること。
酸味ってしっかりと火が入れば甘みに変わる。これはケチャップにも有効なんですよね。だから焼き切る(しっかり火を通す)。
ケチャップの水分がなくなるくらいまで、ちょっと焦げるかもというぐらいしっかりと焼き切る。

そこまで焼き切る必要があるので、スパゲティを投入する前にケチャップを入れるのがベスト。
具材を炒めて軽く塩胡椒(下味は大事)し、ケチャップを入れてしっかり焼き切ってからスパゲティを入れて仕上げていくイメージ。
もし、仕上げの途中でパサパサになりそうになったら、茹で汁を入れて調整すればよろしい。

これだけでナポリタンはイメージが変わるくらいおいしくなります。
ここまで書けばおわかりでしょう。

炒めるのは非常に理に適っている。

のです。むしろ、「炒め」がないとイケない料理なのです。「炒め饂飩」と揶揄されようと、炒めていいのです。
恐れてはいけません。しっかり炒めてナポリタンを楽しみましょう。

あ、、、

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食べる時には粉チーズはタップリかけたいところですね。パルミジャーノレッジャーノをすりおろして、、、なんて言うのはナポリタンの前では野暮です。粉チーズがいいのです。

でもタバスコはいりません。
だって、タバスコは独特の酸味が苦手で…。
(結局、酸味が嫌いなだけじゃねーか)

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