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【ハーブ天然ものがたり】丁子/クローブ


スパイス諸島とスパイス戦争


花のつぼみを乾燥させたユニークな形のスパイス、クローブ(Clove)は和名を丁子ちょうじといいます。
現代では料理に使用するものとしてすっかり定着し、クリスマスを中心とした飾りもの、ポマンダーに使われるスパイスとしても有名になりました。

ウィキペディア-ポマンダー


過去記事の【ハーブ天然ものがたり】シリーズ、
ユーカリ、 ティトリー、 マートル と同じフトモモ科ハーブで、爽やかでありつつほのかに甘く香ばしく、さらに苦みばしった強い風味が同居する、独特な香りが特徴的です。

人によっては歯医者さんの匂いや、歯痛止めの薬の匂いを思い出す人もいるかもしれません。
クローブの精油に入っているオイゲノールという成分は、殺菌・鎮静作用があり、歯痛の局部麻酔薬や、防腐薬としても利用されています。
インドネシア、モルッカ群島原産で、香り成分は花のつぼみと葉茎から採油することができます。

モルッカ諸島の原住民は考古学的に、3万2千年前に居住していたことが解明されているそうです。
この地域でしか産出できない香辛料はクローブとナツメグで、それを求めた香辛料商人たちはこの地をひんぱんに訪れ、移り住んだ交易人(アラブ・中国など)もいたそうで、古い時代における国際的社会だったようです。

それが1500年代にスパイス戦争(香辛料戦争)勃発となり、ハーブやスパイスが商用として大変に儲かるものだと確信した、オランダ・スペイン・ポルトガル・イギリスなど、ツワモノ国の独占欲合戦によって、地球史に暗い歴史が刻まれます。

ウィキペディア-モルッカ諸島

(モルッカ群島は)歴史的に香料諸島(スパイス諸島)として特に西洋人や中国人の間で有名であった。
山がちであり、いくつかの活火山がある。気候は湿潤。
農業は小規模で行われているが、米、サゴヤシの他、ナツメグ、クローブなどの香辛料ほか価値の高い農産物を生産している。

大航海時代にヨーロッパ諸国がマルク(モルッカ)諸島に押し寄せたことからキリスト教徒が多い。

香辛料がヨーロッパにおいて高い価値を持ち、大きな収入を上げられるため、オランダ、イギリスはすぐにこの地域において独占権を得ようと争いに加わった。

小さな諸島を支配するための争いは、オランダが、代替地がいろいろある中でマンハッタン島をイギリスに譲渡してまで、この小さな島を支配し、バンダ諸島の支配権を確立するほど熾烈を極めた。

バンダ諸島の原住民は、オランダによってほとんどの住民が虐殺されたり奴隷にされるという戦いによってほとんどすべてのものを失った。
香辛料戦争の間に6000人以上が殺された。

ウィキペディア-モルッカ諸島

ウィキにはスパイス戦争の項目はありませんでしたが、↓ サイトが参考になりました。


世俗を切って断つ潔さ


伝統的には庶民のあいだで、クローブのチンキ剤などをつくり、家庭常備薬として皮膚の感染症や寄生虫予防、歯痛止めに使用されてきた歴史があります。

生薬名は和名と同じ丁子ちょうじで、からだの内側から冷える不調によいとされ、胃腸を温め、腹痛や消化不良に処方されます。
「からだに冷えが入りこんでしまった」という感覚は、わたしの場合40代に経験しまして、これがまた、なにをどうしても芯から寒く冷え冷えで、ちょっとした風にもブルッと身震いする有様でした。

内冷えにはランニングとヨガと気功、その他いろいろなエネルギー療法を駆使して2,3年くらいかかって立ち退いていただきましたが、当時は食生活でも冷えとり対策にクローブとシナモンをよく使っていました。

スーパーにある五香紛はクローブもシナモンも入っているので、よく購入していました。
五香粉レシピは一般的に
八角(スターアニス)、
シナモン(またはカシア)、
花椒(チャイニーズペパー)、
フェンネル
クローブといった感じでしょうか。
エスビーさんに記事をお借りしたので、お礼に商品もご紹介しておきます。

五香粉に山椒、ショウガ、ナツメグ、カルダモン、陳皮(オレンジピール)、ターメリック、リコリスなど足して、自分好みにアレンジしても楽しいと思います。
カレー、シチュー、ポトフなど洋風の煮込み料理には全般つかえると思いますし、ホットワインや紅茶、クッキーやパン、パイ料理にも合うと思います。

クローブをはじめとするスパイスは、細かく砕いて炭粉とミツロウで固めると、好きな芳香でお手製の香り玉にすることができます。
玉にするのがめんどうな場合は、そのまま香り袋や小瓶に入れて使うもよしです。
タンスに入れておくと虫よけ効果もあって重宝します。

スパイス調香あそびは気分をほっこり落ちつかせてくれます


クローブのユニークな形・乾燥させた花のつぼみは釘に似ているということで、ラテン語のクラウス、フランス語でクルという、釘を意味することばから、英名クローブとなりました。

日本にはかなり古い時代に交易品として導入されました。
正倉院の宝物に帳外薬物として丁香(丁子)の名があることは有名ですし、平安時代の薬玉くすだまには丁子が入れられています。
✩薬玉は香料を入れた袋を柱などにかけて邪気をはらうもの

衣の防虫香料としては
沈香じんこう(伽羅もしくは香木)
・白檀
 (【ハーブ天然ものがたり】サンダルウッドに綴っています)
麝香じゃこう
 (【ハーブ天然ものがたり】タチジャコウソウ/タイムに綴っています)
・丁子(クローブ)
などを混ぜたものが使用されていたといいます。

丁子は「源氏物語」のなかで香染として、主人公の光源氏や、源氏の息子である夕霧の、衣の描写に登場しています。
クローブ/丁子をゆっくりと煮詰めて、生地にその色味をうつした高価な絹物は、着る人の体温で丁子の香りがほのかに漂う、現代でいうところの一張羅・勝負服みたいな感じで紹介されています。

また狩衣といって、狩猟や旅行など現代でいうところのアウトドアに適した衣だったこともうかがえます。
丁子の香りで虫よけ効果を狙っていたのでしょうか。

夕霧が色味合わせに使った衣は藍で染める、濃い目の縹色はなだいろだったと記憶しています。

丁子色と縹色の組み合わせ、白をアクセントにいれたら涼やかでカッコいいですね。
藍染に使うハーブ、藍についてはこちらに綴っています。


日本史の好きなアロマニア友人から、戦国時代、日本の武士には出陣の際に、かぶとへ丁子の香りを焚きこめた武人もいたと聞いたことがあります。
また日本刀の錆止めには、伝統的に丁子油を使っていたという説があります。(たぶん精油としての丁子油ではなく、植物オイルに丁子の香りをうつしたものだと思います)

武士がなぜ日本刀や兜など、戦場にもちこむ武具に丁子の香りをうつしたのか、武道を知らないわたしが予測するのはおこがましいかと感じていますが、クローブ/丁子の香りには世俗を切って断つ潔さというか、往生際の良さというか、腹を据えて覚悟を決めた人物の精神に親和するナニモノカがあるのではないかと感じています。

もしも香り方に太刀筋のようなものがあるとしたら、丁子は対象をすっととらえると、どこまでも廉直なるすじにて精神にはたらきかけ、肉体には決してまとわりつくことなく虚空に去る、みたいな印象があります。
呼吸リズムにざんっと切り込み、強いインパクトを与える刻印力はすさまじいのですが、残り香に後ろ髪引くような未練一切なし、という感じです。

江戸っ子を形容するのに、さばさばした、気っ風がいい、などありますが、丁子の香りをうつした丁子油は、日本髪などを結うときに使用した鬢付びんつけ油として使用されてきた歴史があります。
すれちがいざまにスッと香る残り香にもこだわって、きっぱり主張はするけれども、余韻がしつこく残ることはない、凛然とした香りが江戸っ子に好まれたのでしょうか。

髪に油を塗るのに古くから使われたのが、「油綿(あぶらわた)」です。
これは油を含ませた綿を油壺に入れたもので、平安時代から使われていたようです。
鎌倉時代の『今物語』に、夜遅くまで草子(そうし)を読んでいたら燈火が消えかかったので油綿を入れたところ、この油綿は丁子の油を用いていたようで、とても良い香りがしたという話が載っています。

鬢付け油の変遷

のちに伽羅油というネーミングで、鬢付油は粋筋の人々を魅了してゆきますが、もうそのころには丁子だけでなく、白檀や、甘草かんぞう(リコリス)、松脂などを加えた男女ともに使えるジェンダーレス商品になっていったようで、茴香(フェンネルかスターアニス?)や肉桂(シナモンかニッキ?)などもレシピに加えられています。

*伽羅油の作り方/「新知恵の海」(1724) 「近世女風俗考」より
匂伽羅の油の秘法
唐蝋八両、松脂三両、甘草二両、丁子七分、白檀一両、 茴香四分、肉桂三両、青木香三分、まんていか、胡麻油、 加減してよく煎じつめ、絹の袋にて漉し、麝香、竜脳三分合わせ煉る(蝋に松脂その他をまぜ、香料を加え胡麻油で煉った)
​   
*現代の鬢付け油
木蝋(ハゼの実から作られる天然植物系のロウ)に菜種油、香料などを混ぜ合わせ、練ったものを型に詰めて固める。

鬢付け油の変遷


チーム・サラマンダーのスピリタス


クローブの属するフトモモ科は漢字にすると蒲桃です。
桃の字をもつ植物は、

フトモモ(蒲桃)・フトモモ科
ゲットウ (月桃)・ショウガ科ハナミョウガ属
スモモ(李/酸桃)・バラ科サクラ属
ヤマモモ(山桃)・ヤマモモ科
コケモモ(苔桃)・ツツジ科
クルミ(胡桃)・クルミ科クルミ属
キウイフルーツ(獼猴桃びこうとう)・マタタビ科マタタビ属
ゴレンシ(楊桃ようとう、スターフルーツ)・カタバミ科

などがありますが、桃について綴りました72候【花鳥風月】啓蟄の候 でもご紹介したように、桃の字はむかしの桃の種子がかんたんに割れたことから、2つに割れることはめでたい兆しと考え「桃」という字が作られたという語源説があります。

「兆」は象形文字で「きざし」(兆候)を意味し、動物の骨や亀の甲を焼く亀卜きぼくという儀式で、亀裂の形によって占いをしていました。亀裂の形から「兆」の字が作られたといいます。

モルッカ諸島という湿潤なバイオームで生まれ育ったクローブは、天界の光が地上に創造降下して結実するプロセスのなかで、大いなる水の力にのみこまれないよう、サバッと断ち切るちからが自然と身の内に宿った稀有な植物なのではないかと想像しています。

大気にも大地にも、湿潤なる水が漂うエリアへの挑戦は、四元素界のなかで高位の火元素霊たちの腕の見せどころ。
ふんだんにある水をのみ尽くし、循環させ、昇華することで、大量の風を誕生させて、気っ風のよいクローブという実体を生み出したのではないかな、と。

火元素が水元素を糧にして地上に生み出したものは、大気を切りさき、空を舞い、虚空にとどろくほどの風力をもって疾風する風の精霊たち。
国生み神話に登場する桃が、黄泉平坂よもつひらさかできっぱりと、あちらとこちらの境界線を引くのに一役買ったように、情や念、つまり水のちからをざんっと断ち切る風の力をもつ植物には、兆のしるしが刻まれたのかもしれません。

花開く前のつぼみからでなければ、クローブの上質な香りは得られません。チーム・サラマンダーの叡智を結集したハーブ・クローブの香気成分が、開花とともにあっというまに揮発してしまうのは、火の精霊たちのスピリットを色濃く反映しているからかもしれません。

☆☆☆

お読みくださりありがとうございました。
こちらにもぜひ遊びにきてください。
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「#新生活を楽しく 記事まとめ」に掲載いただきました


note さまの「#新生活を楽しく 記事まとめ」に、72候【花鳥風月】春分の候 をご掲載いただきました。
みなさまのご訪問に深く感謝申し上げます。


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