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体験型 古代エジプト展 ツタンカーメンの青春 & 古代エジプトの教科書展

今回は、埼玉県東所沢の角川武蔵野ミュージアムで開催されている『体験型 古代エジプト展 ツタンカーメンメンの青春』と『古代エジプトの教科書展』を紹介していく。現在でも開催中であり、2023年11月20日(月)まで催されているので、ぜひ一度足を運んでみてほしいと思う。

『体験型 古代エジプト展 ツタンカーメンメンの青春』の展示品は全て複製品だが、世界に3セットしかないスーパーレプリカで、その完成度の高さには息を飲む。十分に楽しめることことだろう。本展覧会はではフラッシュと動画撮影は禁止されているが、写真の撮影は許可されているので、展覧会の様子を記録した。簡単にだが、撮影した写真と共に展覧会の様子を紹介していく。

角川武蔵野ミュージアムの外観。城塞のような造りで、その巨大さが観る者を圧倒する。

展覧会の入口には、スクリーンに壮大なピラミッドの映像が投影されている。

展覧会の入口で流れるムービー。ツタンカーメン(トゥトアンクアメン)発見秘話の短いムービーを観賞し、展示室に入っていく流れになっていく。

イギリス人考古学者ハワード・カーターとその支援者カーナヴォン卿。冒頭のムービーで彼らのエピソードが語られる。

展示室の入口は、王家の谷にあるツタンカーメン王墓の入口を再現している。

いよいよ、入口から展示室の中に。中に入ると、そこはツタンカーメン王墓の室内を再現したものになっている。

ツタンカーメンの玄室を再現している。獅子の儀式用寝台、棺の前には門番の彫像が置かれている。

壁面にはカルトゥーシュに囲まれたエジプト・ヒエログリフが示されている。これはツタンカーメン王墓の入口の封印を再現したもので、壁に開いた小さな孔を覗くと、王墓内の財宝が見える。

棺と美麗な壁画。実物のカビ汚れまで再現した、こだわりの仕上がり。

ヒヒが座っており、その隣にはエジプト・ヒエログリフによる呪文が綴られている。

壁画の左側では、死んだツタンカーメンが神々に迎え入れられている。全身白装束で描かれているのがミイラになったツタンカーメンである。壁画の右側では、神官から口開けの儀式を受けるツタンカーメンが描かれている。ヒョウの衣を纏った神官は、口開けの儀式用の特別なナイフを持っている。

ミイラが舟で運ばれている様子が描かれている。

アヌビスたちに祝福されているツタンカーメン。神々の手に握られたアンクは、生命・永遠を象徴している。

ツタンカーメンの王墓を再現した間を進むと、『第1章 ツタンカーメンの青春』が始まる。ここでは、豪華な戦車や家具などの副葬品の複製が展示されている。

黄金の戦車。先端には王権を示すヘカァ笏とハヤブサが飾られている。ツタンカーメンは戦車から落下し、その際に轢かれて心臓が潰れ、死亡したとする説がある。ミイラを観察すると、身体の左半身の損傷が激しく、心臓が失われている。

ケペシュと呼ばれる鎌状の特殊な形状をした剣。

透かし彫りされた儀式用の楯。

神々の座像が表されている。実用には向かない宗教儀礼上の楯。

王墓から出土した椅子や装身具、舟の模型の複製品。舟は古代エジプトの宗教上重要な乗り物で、死者は舟に乗って死後の世界を旅した。ナイル川に根づき、舟が必需品だったエジプトの立地が宗教にも色濃く現れている。

ツタンカーメンの玉座。ツタンカーメンとアンケセナーメン(アンクエスアメン)王妃の仲睦まじい姿が描かれている。

ツタンカーメンのミイラを守っていた棺と厨子が並べられている。ツタンカーメンのミイラは、何重もの棺に入れられ、厳重に守られていた。

第三の棺。ここにツタンカーメンのミイラが直接が収められていた。

第二の棺。第一の棺を覆う棺。

第二の棺。横アングル。

第二の棺。頭部のアップ。

第一の棺。第二と第三の棺を覆う棺。

第一の棺。横アングル。

第一の棺。頭部アップ。

第四厨子。

第四厨子。正面。おびただしい数のエジプト・ヒエログリフが綴られている。

第三厨子。

第三厨子。正面。

第二厨子。

第二厨子。正面。

ツタンカーメンの黄金のマスク。今回の展示の目玉。

マスク横面。

マスク裏面。背後にはエジプト・ヒログリフが12列にわたって記されている。サインの向きで、上から下に、右から左の列にかけて読むするように指示されていることが分かる。これはイギリス人研究者ウォーリス・バッジによって分類された『死者の書』第151章bに該当する。以下、試訳である。

「プタハ・ソカルの輝き、アヌビスが称賛した者、トトが称賛を送りし者、神々の中で顔美しき者。お前の右眼は太陽の夜の船セケテトであり、お前の左眼は太陽の昼の船マァネジェト、お前の両眉は九柱神、お前の額はアヌビス、お前の後頭部はホルス、お前の髪束はプタハ・ソカルである。 お前は死者の前におり、死者はお前を通して見る。お前は死者を正しい道へと導き、死者のために悪神セトの手下を討ち、死者の敵を尊く偉大なる館の九柱神の前で死者の足下に打ちのめす。お前は貴族の主ホルスの前で良き道を通る」

すなわち、お前と呼ばれているこの黄金のマスクが死者であるツタンカーメンを守り、死後の楽園に導くためのまじないが記されている。

棺の大きさが分かるイラストが柱に描かれている。ツタンカーメンのミイラは、何重にも棺に入れられ、守られていた。

ミイラ造りの男神アヌビスの神輿。

アマルナ芸術の壁画がスクリーンに映し出されている。ツタンカーメンを抱く母ネフェルティティ(ネフェルトイティ)が描かれている。

『第2章 古代エジプトの死生観とミイラ』では、儀式用の道具やツタンカーメンの内臓を保管したカノプス壺など、死生観や送葬に関係性の強いものが展示されている。

死生観にまつわる出土品の複製品が置かれている。

ウシェブティと呼ばれる死者の労働の代行彫像。ウシェブティには大抵の場合「死者の書 第6章」の呪文が記されている。これはウシェブティを呼び覚ますための呪文で、呪文が発動するとウシェブティは死者が担うべき農耕作業や土木工事などを代行してくれる。だが、その効力は有限である。死後の世界で楽をしたいのであれば、被葬者はウシェブティを大量に用意する必要があった。人によっては、数百体を超えるウシェブティを副葬させた。ツタンカーメンもその例に漏れず、700個あまりのウシェブティが副葬されていた。

ウシェブティはサイズから材質までヴァラエティに富む。労働者のウシェブティと、それを束ねる監督官のウシェブティが存在する。

ツタンカーメンの生まれてすぐに亡くなった娘の棺。

黄金のサンダル。実用性とはかけ離れた儀式上のサンダル。古代エジプトでは生者はサンダルを履き、死者は素足で表現された。

黄金の短刀。

ツタンカーメンの内蔵を収納していたカノプス壺とカノプス壺を収納する厨子。

厨子の正面。女神は厨子を保護し、側面には守りの呪文がびっしりと綴られている。

『第3章 古代の神聖な文字 ヒエログリフ』では、ツタンカーメン王墓から出土した考古遺物に記されたエジプト・ヒエログリフの読み方やその内容が説明されたキャプションが展示されている。

入口付近にペンライトが置いてあり、ライトを当てて壁面に設置されたエジプト・ヒエログリフの解説を読む形になっている。墳墓内を再現したかのような造りにワクワク感がある。パネルによる解説展示なので、このセクションの紹介は敢えて控える。上記の写真は演出としてこの展示室の壁に投影されているエジプト・ヒエログリフである。

『第4章 古代エジプトの信仰』では、ツタンカーメン父アメンへテプ4世こと、アクエンアテンにまつわる展示である。

ツタンカーメンの父アメンホテプ4世の巨大彫像。唯一神であるアテン信仰を推し進めた彼は、アテンにちなんで名前をアクエンアテンと改名した。彼の時代の考古遺物はアマルナ芸術と呼ばれ、特有の表現が見られる。特徴は幾つかあるが、最も顕著なものはエイリアンのような面長な顔と頭部だろう。

輝くアテンと向い合うアクエンアテンの彫像。アクエンアテンは肥大化したアメン大神官の勢力を抑えるため、一神教を確立し、ファラオである自身だけが神と交信できるものとした。アテンのみを唯一神とする一神教を採用することで、従来のアメンを祀るアメン大神官を弱体化させようとした。また、王都もテーベからアマルナに遷都した。だが、結果として企ては失敗。この宗教政策は彼の治世の約10年だけに留まり、息子のツタンカーメンの時代にはすぐにアメンを最高神とする多神教に戻された。この動きに伴い、ツタンカーテンはツタンカーメンに改名した。

ネフェルティティの頭部像。ネフェルトイティと呼ぶのがより原語に近い形となる。ネフェルトが「美しき人」、イティが「来たる」を意味する。ネフェティティはミタンニから政略婚でエジプトにやってきた王妃だった。それゆえ、ネフェルトイティという名は、外国から来た美しき人を表している。こちらの彫像の片目に黒目が塗られていないのは、製作途中なのか呪術的な意味を含んだ意図的なものなのか判然としていない。

アテンに挨拶する様子。アテンの光線の先は手になっており、その先には永遠の生命を象徴するアンクが握られている。


牡羊のスフィンクスと神々の彫像。

神々の彫像。左から破壊神セクメト、創造神プタハ、冥界神オシリス。

コブラの彫像。猛毒を持つコブラはひどく恐れられたが、転じてその力から信仰の対象となった。コブラの神は複数存在するが、ウァジェトと呼ばれる女神が最も著名である。ウラエウスと呼ばれる王の守護神も、アポピスと呼ばれる悪の化身もコブラの姿で表現される。エジプト神話のコブラは口から火を吐き、敵対者を焼き尽くした。ツタンカーメンのマスクにも、コブラが守護神として飾られている。

ハヤブサを模った彫像。ハヤブサが乗っている台は、旗を示している。この形状と同じエジプト・ヒエログリフが存在する。ガーディナーのサインリストのG7に該当するxガーディナーのサインリストとは、イギリス人言語学者アラン・ガーディナーが分類したエジプト・ヒエログリフの記号表である。彼は神や動植物、人体、地形などのジャンルでグルーピングし、エジプト・ヒエログリフに番号をふった。彼が1927年に出版した『Egyptian Grammer』は、中エジプト語文法のバイブルである。

出口に置かれているツタンカーメンの全身彫像。片足を前に出し、時が止まったかのような表現が古代エジプト芸術の特徴。一方、古代ギリシア芸術は今にも動き出しそうな表現を特徴とする。初期のギリシアはエジプトの影響を色濃く受けているため、古い年代にはエジプト式の彫像が造られている。ギリシア人は主に傭兵としてエジプトに赴き、その文化を自国に持ち帰った。


以上、『体験型 古代エジプト展 ツタンカーメンの青春』を紹介した。展覧会は全4章で構成されており、展示品は約130点に及ぶ。その見応えは抜群であり、鑑賞者を楽しませてくれる。


ここからは『古代エジプトの教科書展』の紹介となる。こちらの展覧会では、複製品ではなく本物の資料及び考古遺物が展示されている。

明星大学の収蔵品であるエジプト誌。ナポレオン1世がエジプト遠征の際に随行させた学者グループにつくらせた超大判書籍。巨大な図版でエジプトの様子が記録されている。当時のフランスにとってエジプトは、謎に包まれた未知の場所だった。

ブルーカバーのエジプト誌。

レッドカバーのエジプト誌。

着彩された鳥のスケッチ。博物学に準じた写実的な描写。

エジプシャンブルーのファイアンス製タイル。ファイアンスの色の出し方は、未だに謎に包まれている。

ファイアンス製の指輪。鉱物は高価なため、その代用品として安価なファイアンスが好まれた。

先王町時代の幾何学文壺。先王朝とは、王朝が樹立される前の時代のエジプトを指す。

ギリシアのクレタ島などで似たような幾何学文の土器が発見されている。

こうした護符は墳墓内に副葬された。ミイラの包帯の間に置いて巻かれる場合が多い。

初期王朝はナルメル王によって王朝が樹立された第1王朝付近の時代を指す。だが、この時代の詳しいことは未だによく分かっていない。古代エジプトは、石器が発達していた。身近に材料が豊富だったことが関係している。

パレットはアイシャドウをつくる際に利用された。エジプトはハエが多く、アイシャドウで眼病予防をした。また、日差しが強いため、地面から照り返す光から眼を守る効果もあった。


『古代エジプトの教科書展』では、ピラミッドを登るゲームのプレイや資料の閲覧などができる。こちらも十分体験型である。また、パネル解説も充実している。


展示を鑑賞した後は、5階のレストランに移動。企画展に合わせた限定メニューがあると館内の電光掲示板で知って訪れた。

ツタンカーメンの名にかけて「ツタンカー麺」という言葉遊びがされた会期中のみの限定メニュー。古代エジプトで食されていた食材をベースにつくられたパスタ。ラム肉、モロヘイヤ、豆、ナツメヤシなどの具。

最初は別々に食べ、次に混ぜて食べるようにと指示される。パスタには、モロヘイヤが練り込まれている。

パスタと混ぜて絡めた状態。ラム肉が柔らかく美味しい。


展覧会を観賞し、食事を終えると夕方になっていた。あっという間の時間だった。夕陽が綺麗だったので、思わずパシャリ。古代エジプト人も夕日の神秘的な眺めに魅了されており、彼らは夕陽の太陽をラー、早朝の太陽をケプリ、日中の太陽をアトゥムと呼んだ。


展覧会に足を運びたい人に補足だが、入場料は『体験型 古代エジプト展 ツタンカーメンメンの青春』が2,400円、『古代エジプトの教科書展』は1,400円となっている。だが、お得な裏技があって15時以降であれば、この2つの展覧会をセットで2,700円で観られるプランがある。『古代エジプトの教科書展』を実質300円で観られるのである。何と通常よりも1,100円もお得!また、3階以外の他の展示室も入場可能であり、かなりお得に楽しめる。筆者はこの方法を使って展覧会を楽しんだ。ただ、閉館時間が18時までなので、その点だけには注意したい。


以上、今回は角川武蔵野ミュージアムで開催されている古代エジプト展を紹介した。新しい体験型展覧会は大人も子どもも楽しめるので、ぜひ一度足を運んでみてほしいと思う。お勉強よりも、まずは体験し楽しむことから。その小さな芽が、いずれ大きな花となり、これからを担う研究者が登場することを切に願っている。


Shelk 🦋

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