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究極!死に至るカメラ『丑の刻禍冥羅』/ヨドバ氏カメラシリーズ⑨<最終回>

1981~83年に「ビックコミック」にて不定期に連作されたヨドバ氏のカメラシリーズは、全部で9作品。カメラが登場するのはその内8作品。残りの1作は、未来人であるヨドバ氏がなぜ現代でカメラをセールスすることになるのか、その出発点となるエピソードである。

ヨドバ氏は連作全てに登場し、不思議なカメラを色々な人に紹介していくが、彼自身が主人公ではない。あくまでカメラを提供する役割で、場合によっては途中でフェイドアウトしてしまうこともある。

よって「ヨドバ氏カメラシリーズ」とは、「カメラ」が常に物語の中核にあり、道具を使う人々の悲喜こもごもが描かれるドラマと言える。極めて実写的なエピソードが多く、藤子作品としては珍しく「夢カメラ」シリーズとして実写ドラマは多数制作されている。

これまで8作品を記事化してきたが、本稿で無事最終回となる。最後のエピソードを紹介後、ヨドバ氏のこれまで足跡をまとめてみることにしたい。


『丑の刻禍冥羅』
「ビックコミック」1983年3月25日号/大全集2巻

ヨドバ氏は未来人ならではの勘が発達している。自分が売り歩いているカメラの機能を潜在的に求めている人を見抜く勘である。セールスの基本は需要と供給の一致を掴むことだ。買いたくない人には、どんな手段を講じても売れないのである。

よって、本日もヨドバ氏は、カメラを求める人の前に現われ、売り込みを始める。売り込みと言っても、「買ってくれ」とアピールするのではなく、使い方を丁寧に説明し、買っても良いかなと思わせることだ。あくまで買い物は自発的でなければならない。


今回のセールス品はこれまでになく危険な代物。丑の刻禍冥羅(うしのこくかめら)である。

使い方は、まずこのカメラで憎むべき人物の写真を撮る。丑の刻(=午前二時)に釘を打つ。写真の手や足に打てば、二十四時間以内に相手の手や足に異変が起こる。

異変の程度は釘の打ち込み方や太さによる。頭や心臓に打てば、被写体の人間は死んでしまう。写真を焼けば焼死、切り刻めばバラバラ死体となる。「ドラえもん」の「のろいのカメラ」を彷彿とさせる、悪魔のようなカメラである。


ヨドバ氏が声を掛けたのは針山という小心者の男。彼は話を聞いて、「科学というよりはオカルトの世界だ」と、俄かに信じられない。対するヨドバ氏は、「オカルトも科学も根は一つですよ」と、注釈を加える。

占星術が天文学の母体となり、錬金術から近代科学へと発展した歴史を踏まえ、未来世界ではオカルトの再評価や見直しが盛んなのだという。

「事実とすれば恐ろしいカメラだ」と、針山は感想を漏らす。ヨドバ氏は、人を殺める力を持つカメラを扱うことは後ろめたいとしつつ、気弱な針山であれば、ほどほどに使ってくれるものと判断したという。

気になるお値段については「ご試用後に」と言うことで、いつものように一方的に商品を置いて、3日後に来ると言い残して姿を消してしまう。ヨドバ氏はテレポートのような能力があるらしい。


針山がもしこれを使うのなら・・・と言って思う浮かぶ人間がいる。いくつか年上の先輩の堂力である。針山は中学生くらいの頃から、何かと堂力に絡まれて、ロクな目に遭っていない。具体的には・・・

・中学生の頃、根性を叩きなおすと言われて竹刀で何発も殴られる。
・学校を卒業し上京すると、ばったり出くわして、奢らされる。この時、住所や勤め先も知られてしまう。
・彼女を寝取られ、挙句結婚してしまう。
・引っ越し先にも現われ、近くに家を買う。家のローンやギャンブルの費用として、金を幾度もカツアゲされる。

布団の中で積年の恨みを思い出した針山は、丑の刻禍冥羅を手にし、手足をチクリくらいの報いは当然だと思うのであった。


堂力の写真を撮り(この時コソコソしている姿を見られている)、その晩足を針でチクりと刺す。翌日、堂力の働く「海山物産」に電話してみると、左足首を捻挫して早退したという。

効き目は確かにあった。堂力の生命与奪権は自分の手にあると思うと、針山は笑いが止まらない。その晩も夜二時に起きだして、左手を軽く焦がしてみる。


翌日知らぬふりをして堂力の家にお見舞いに行く針山。堂力は理由もなく火傷したりしたことを訝しがっている。「不思議なこともあるもののですね」と、禍冥羅のことはおくびにも出さない。

堂力の奥さんは、針山の元彼女だが、彼女の顔色が冴えないことに気付く。言葉を濁しているが、堂力に「また」新しい女ができたというのである。「また」がポイントで、堂力の浮気体質と、針山は堂力との結婚後も、色々と彼女と懇意にしていたことがわかるセリフである。


彼女を泣かしたとあっては許せない。家に戻って釘を堂力の胃に強く刺す。すると、廊下から「ウオ~」という叫び声が聞こえてくる。堂力が妻と大喧嘩して飛び出してきたというのである。

堂力は「お前のとこに泊まるぞ」と強引に部屋に入ってくる。すると自分の写真に釘が打ち付けてある。非科学的なことのはずだが、悪い勘が働く堂力は、一瞬で事情を全て理解する。

針山をぶん殴り、部屋にあった禍冥羅を見つけて写真に撮る。試しに腕に針を刺すと、針山はギャアと悲鳴を上げる。禍冥羅の効果を確信した堂力は、

「この写真が俺の手にある限り、お前は俺の奴隷だぞ」

と凄む。最悪の展開である。


「一生付き纏って、骨までしゃぶってやるぜ」と捨て台詞を吐いて、禍冥羅を手に堂力は去っていく。我が世の春とばかりに歩いて行く堂力であるが、彼はこの時気付いていなかった。針山から奪い取っていた自分の写真が、ポケットからヒラリと道端に落としてしまったことを・・。

ダンプカーが猛スピードで走りこんでくる。「ガー」と堂力の写真を轢いていく・・・。


あれから一ケ月。堂力の家を訪ねて、奥さんを慰め、無残な最期だったと回想する針山。すると部屋の棚の上に、禍冥羅が無造作に置いてある。奥さんはそれを見て、「あなたから取り上げてきたと威張っていた」と語る。

針山はカメラを持ち帰る。そして、久しぶりに姿を見せたヨドバ氏に返すことにする。ヨドバ氏は、禍冥羅を持ちかえりながら、こう思う。

「やはりね・・・。こんなもの売っちゃいけないね」

ヨドバ氏は禍冥羅を壊して、粗大ごみ置き場に捨ててしまう。その表情はわからないが、後ろ姿から、どこか晴れ晴れした様子が伺えるのであった。


あまり最終回っぽくないエピソードで、シリーズ全9話が終了。不定期連載だったこともあり、まだまだ続編を描く余地もあったかと思うので、しっかりとした完結編を描かなかったのかもしれない。



それでは、ここまでの9作品を振り返ってみよう。記事のリンクは下の方に載せているので、気になる作品に飛んでみて下さい。

①『タイムカメラ』

ヨドバ氏初登場。まだ名前がなく、登場シーンも僅か。現代に取り残され、食うものに困って行き倒れ状態のところ、いくらでもいいからと言って「タイムカメラ」を若手サラリーマンの河上に買ってもらう。買値は不明。

カメラの用途は、課長の浮気を暴くことであった。


②『ミニチュア製造カメラ』

未来からの旅行に商品見本を持ってきていたので、これを売って何とか食つなぐ生活であることが判明。買いそうな定年後の金持ち会長にセールスし、1億円を提示するものの、10万円で妥結。

カメラの用途は、老後の趣味として自分の家の周辺のジオラマ作り。


③『値ぶみカメラ』

古物商に売るつもりが断られ、そこに通りかかった女性カメラマンの竹子に声を掛けられる。セールスする前に母親にどやされて逃げ出してしまうのだが、後に再会。ところが、カメラを買っては貰えなかった

カメラの用途は、竹子にとって最も価値のある人を選ぶために使われる。


④『同録スチール』

初めて高校生相手にセールスするし、1万円という安価を提示。月賦で毎月500円の支払い条件を返され、冗談じゃないと怒るヨドバ氏だったが、カップラーメンを一個食べてしまったために、それを内金とみなされてしまう。

用途は内気な内木君が、好きな子に同録した写真を渡して仲良くなろうというもの。


⑤『夢カメラ』

しがない係長相手に、100万円でセールス。毎度のごとく値切られそうになるが、「生活かかってるんだからね!!」と激昂し、男が金持ちの実家があることを突き止めて、無事購入してもらう。

用途は夜の解放区として夢の中でかわいい部下とのランデブーを行う。


⑥『コラージュ・カメラ』

スクープを追う新聞社のデスクに、ジオラマに凝っている子供をだしにして100万円で売り込むも拒否。しかしデスクは、スクープのための証拠写真が必要となり、退職金を前借りして購入することに。

用途は代議士の汚職事件を認めさせるために使用。


⑦『懐古の客』

謎めいた存在だったヨドバ氏が、未来から現代へ旅行にやってきていたことが判明。予防注射を怠っていたために、免疫のないヨドバは簡単な病気で死線をさ迷い、命だけは助かるも、一人未来に帰れずにこの世界に取り残されてしまう。

「エピソード0」的なお話で、カメラは登場しないが、ヨドバ氏の名前が明らかになる重要エピソードである。


⑧『四海鏡』

金持ちばかりを集めて、オークションを実施して値段を釣り上げようと画策するヨドバ。結果、二人の客が競り合って、一時は1億の値が付くが、談合されてしまい、共同購入で10万円を提示される。結局は足の悪い旅行に憧れる少年に10円で売ってしまう。

安いアパートで暮らしていることが判明。苦しい生活を強いられているようだが、最後はお金ではなく、喜んで使ってもらえる人に譲ることにするのであった。


⑨『丑の刻禍冥羅』

本稿となります。こちらは、売れずに捨ててしまいました。


全9エピソード。カメラは8台登場し、総額211万10円+αで売りさばいている。一台当たりの割は意外に良さそうだが、満足に暮らすにはかなり心もとない。

そして、未来から持ってきた商品見本が無くなってしまうと、ヨドバ氏はどのように食いつないでいくつもりなのだろうか。どこへでも現れる能力を活かして、別の職業でも探すのであろうか・・?




SF短編、全話解説に向けて頑張っています。


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