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大人のひみつ道具の使い道『タイムカメラ』/ヨドバ氏カメラシリーズ①

「ドラえもん」や「キテレツ大百科」に出てくる不思議な道具の数々は、藤子先生が、あくまで子供が使うことを前提に考え出されたものである。

大人がもしひみつ道具を入手すれば、きっと悪用してしまうに違いない。現実的で夢の無い展開となってしまうであろう。なので、大人が使うことを考慮にいれていないのだ。

もちろん、のび太は金儲けに未来の道具を使ったりもするが、「一回10円」のようなはした金を稼いで喜んだりしている。かわいいものである。


と、そんな中、大人の読者に向けた「異色SF短編」に分類される「カメラシリーズ」という連作群がある。

後に詳細するが、ヨドバ氏というカメラ売りの男が、不思議なカメラを売り歩き、それを入手した大人が、あれこれするシリーズとなっている。

コンセプトは、ずばり「ドラえもんに出てきそうなひみつ道具を大人が手に入れたどうなるか?」である。(と思っている)


藤子先生はカメラ好きで有名で、デビュー間もないころからカメラを作品内に取り込んできているし、「ドラえもん」の道具でもカメラの形状をとっているものが非常に多い。

本シリーズでは「大人のひみつ道具といったらカメラでしょ」という藤子先生の声が聞こえてきそうな、熱烈なカメラ愛を感じることができる。


ヨドバ氏のカメラシリーズの概要。

このシリーズは1981年7月に「ビックコミック」誌上の『タイムカメラ』で初登場し、以降不定期で連載されて、1983年3月の『丑の刻禍冥羅』まで計9作が執筆された。

物語のきっかけとしては、全てヨドバ氏がカメラを誰かに売ろうとするところから始まるが、彼が主人公というわけではない。「世にも奇妙な物語」のタモリ的役割である。

ヨドバ氏は初回から何やら訳ありの過去を匂わせているが、7話目の『懐古の客』では彼が主人公となって、それまでの経緯が全て明かされる。

本シリーズは大人向けということもあって、幾度か実写ドラマ化されていて、フジテレビ系列で放送された際には、「夢カメラシリーズ」と銘打たれていた。


さて、本稿では記念すべき第一作目となる『タイムカメラ』を紹介したい。

『タイムカメラ』「ビックコミック」1981年7月24日号/大全集2巻

大全集の巻末の資料を読んでみると、本作の予告で「新シリーズ登場 藤子不二雄のSFレントラン」と紹介されている。「SFレストラン」という妙なシリーズ名となっているが、これは「SFコミックの名シェフ・藤子不二雄」という触れ込みをしてあるからである。

「ビックコミック」では、カメラシリーズ以外の短編も掲載されていて、それらも総称で「SFレストラン」シリーズとしてあるようである。


本作の主人公は平凡な若いサラリーマン河上。河上には順子という同じ会社勤務で交際している女性がいる。

順子と夜の約束をしていたのだが、当日になって急用が入ったという事でドタキャンとなる。要件を聞いても、あなたには関係ないの一点張り。納得できないので食い下がっていくと、

「あたしは別にあなたのものじゃありませんからね」

と、感じ悪く拒否られてしまう。

しかも言い争っているところに課長が現われ、突然だが今日残業をしてくれと命じられてしまう。いつも陰険な課長の意地悪だと思う河上。

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残業が終わりクサクサする河上は、車での帰宅をやめて、夜の繁華街へと出向いていく。店に入ろうとすると、道の先から課長と酔っ払った順子が寄り添って歩いてくる。

怒り狂った河上は後を追うが、ホテル街の入り口付近で、倒れている男性に足を引っ掛けて転んでいるうちに、二人を見失ってしまう。どこかのホテルに入ってしまったのだろうか。

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で、この道で倒れていた男、これがヨドバ氏である。前髪がクルンとしていて、黒目がない表情、きちんとしているが見慣れないデザインのスーツを着ている。

河上を見ると、ヨロヨロと力なく「お、お金…」と声を掛けてくる。見たことの無いような図柄の札束を出してきて、今の通過と両替して欲しいという。河上は外国人だと思ったので、どこの国の旅行者か尋ねると、

「遠い遠いところから…。団体旅行…。添乗員にはぐれて…」

と何やら訳ありだ。

見たことのないお金は受け取れないと河上が断ると、ではカメラを買って欲しいと申し出る。「時間を合わせるだけで写る自動焦点高級機」だという。時価2000万の代物で、これを1000万に値引くという。

そんな金があるわけがない。するといくらでもいいからと、無理やりに押し付けられるのであった。(結局購入金額はわからず)

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家に帰り、カメラをチェックする。フィルムを入れるところがない。シャッターを押すと、「カシャ」と言って写真が出てくる。ポラロイドカメラのようである。

ところが、映っているのは、さっき帰ってきたばかりのスーツ姿の河上であった。信じ難いことに、これは過去を写すカメラなのである。なお、タイトルでは「タイムカメラ」となっているが、作中では名前は登場しない。

河上は部屋の写真を時間を遡りながら撮影していく。12年前は草原だったことがわかったところで、

「面白いおもちゃだけど、それだけのことだ」

と言って急に興ざめしてしまう。ひみつ道具よりも、失恋の方が若きサラリーマンにとって重要なことなのだ。

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翌日、順子が河上に「夕べはごめんなさい」、と声を掛けてくる。何かを言いたげだったが、昨日の事で腹を立てている河上は、

「謝る必要はないね。君が僕のものってわけじゃなし」

とつれなくしてしまう。ここは、気持ちを収めて話を聞いてあげて欲しかった。。


課長が順子に話しかける。「夕べは逃げ出したりして、酷いじゃないか」と。順子はどうやら、間一髪課長の毒牙にかからなかったらしい。そして、順子は課長に弟の就職のことを相談していたことがわかる。やはり彼女に落ち度はなかった。

課長は順子に冷たくされ、怒り心頭。河上に対して八つ当たりして、河上はたまらずブチ切れる。やる気があるのか、と言いがかりをつけられて、

「ありませんね。あんたみたいな上司の下じゃね」

と、理不尽に逢っているサラリーマンが言ってみたいNo.1のセリフを吐いて、会社から出て行ってしまう。


課長がなんだ、順子がなんだと大声を出しながら歩いていくと、酒瓶片手の酔っ払いとぶつかり、注意される。そして、泊めてある車に行くと、何とタイヤが4つともパンクしている。何者かに穴を開けられたようである。

河上は犯人を突き止めてやると言って、「タイムカメラ」を取り出す。過去の写真を撮ると、先ほど体をぶつけきた男がキリでタイヤを刺している。そして、この男、河上の車だけでなく、ヤクザの組長のタイヤにも穴を開けていたことがわかり、河上は男に写真を見せて脅す。

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修理代以上の金額を取り上げた河上。自分のしたことは恐喝なのではないかと思う。そこで、タイムカメラがただのおもちゃではなく、恐喝のプロにもなれる強力な武器であることを実感する。

「ドラえもん」で「タイムカメラ」が出てきても、恐喝のプロになろうなんてのび太は思わない。まさしく、大人向けのひみつ道具なのである。


汚職代議士なんかをゆすったら贅沢に暮らせる、なんて夢想をしていると、順子が部屋に入ってくる。合鍵を持っているようだ。夕べのことをどうしても話たいのだという。河上は、課長とホテルに言ったんだろうと冷たく返すと、「どうして知っているの!?」と驚く、恥ずかしがる順子。

順子は、でも何もなかった、危ないところで逃げ帰ったと弁明する。俄かに信じられない河上は、タイムカメラを使って順子の言い分を確かめることを思いつく。

二人でホテル街に繰り出し、昨日課長と入った部屋に向かう。「おどおどすんなよ。初めてじゃあるまいし」と上から目線で嫌な感じの河上。そろそろ順子さんを許して欲しい・・。


ベッドに向かって写真を撮ると、課長に上着を脱がされている順子の姿が映る。続けて時間を遡らせると、まさかの課長とベッドインしている様子が写真に写し出される。ショックを受ける河上。

ところが、写真をよく見ると、課長の相手をしているのは経理の佐山さん。目盛りがいつの間にか5日前になっていたようである。

河上は課長が社内の女性を片っ端から手を付けているという噂を思い出し、さらに遡ってシャッターを押すと、13日前の営業の中条さんとの様子も写る。

そういえば、課長が泥酔している順子に「行きつけの店がある」と声を掛けている。課長には行けつけのホテルの部屋があったのである。

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翌日、課長のデスクへ向かう河上。辞表でも持ってきたのかという課長に、昨晩撮った何枚もの写真を渡す。それまでの強気な姿勢が嘘のように青ざめる課長。

課長は河上に、なにとぞ内密にと懇願し、これまでのことの謝罪と、今後何でも言う事を聞くと平謝りをするのであった。


結論:大人はタイムカメラを強請(ゆす)りに使う。


ここからは余談。

「タイムカメラ」は同名の道具が「ドラえもん」の『ぼく、桃太郎のなんなのさ』にも登場する。これはタイムマシンのようにカメラ自体が過去に遡ってくれて、写真を電送してくれる道具であった。

また似たような道具として、「キテレツ大百科」の『おもい出カメラ』というお話で「回古鏡」が登場する。こちらも過去が写せるカメラで、犯人探しの用途で使うのだが、最終的には昔の町を懐かしむ老人を喜ばせる感動的なお話となっている。是非、どこかで読んでみて欲しい。


藤子Fノートでは、ヨドバ氏カメラシリーズ全9作を全て記事化していく。明日はさっそく第二弾の予定です。


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