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止まらぬ涙!ほろ苦い初恋のお話『O次郎の恋物語』/藤子恋愛物語⑮

「オバケのQ太郎」の世界では、ほぼ全部のキャラクターが何かしらの恋をしている。これまで「藤子恋愛物語」と題して、藤子ワールド全体の恋愛エピソードを取り上げてきたが、オバQ関連が非常に多かった。

過去の記事はこちら・・・。


特に記事にしていないが、正ちゃんはよっちゃんが好きだし、Qちゃんは基本的にU子さんが好き、P子やドロンパ、正太のアニキ伸一や、小池さんまで恋愛している。

また、前稿では人間界に降りてきたばかりのO次郎が、U子さんに一目惚れ?というまさかの展開から、お嫁さんごっこの相手を探していただけだというズッコケなオチに突き進むお話だった。

本稿では、だいぶ人間界での生活に慣れたO次郎が、今度は本当に他のオバケを好きになってしまうというエピソードを取り上げる。本作は最終回後に描かれた番外編の位置づけで、てんとう虫コミックスには収録されていない、割とマイナーな作品となってる。


『ペケポコバケラッタ O次郎の恋物語』
「小学六年生」1973年6月号/大全集3巻

本作はO次郎の初恋の物語であり、初恋は成就しないという悲しい物語でもある。

ロミオとジュリエットのような敵対する一族というモチーフや、言葉が通じないことによるディスコミュニケーション、さらには自分が変身した姿が恋のライバルになるという「パーマン」的な要素も出てくる。

なぜこの話を「オバQ」最終回後に番外編として執筆したかは謎だが、ともかくも忘れがたい一本と言える。

なお、タイトルになっているペケポコバケラッタとは、「愛してない・・・愛してる・・・」という意味だそうな。


冒頭、番外編にも関わらず新キャラクターが登場する。ドロンパの妹ペロンパである。大きさはO次郎と同じでおそらく年の頃も一緒。まつ毛が印象的なパッチリお目めで、髪がポニーテールのようになっている。

まだ幼児語しか話せず、初対面となったO次郎に対して「ペタポコ」と挨拶している。これはドロンパによれば、「I'm very glad to see you(お目にかかれて嬉しい)」という意味であるらしい。

ペロンパを見た途端にドキューンと恋のハートを撃ち抜かれたO次郎は、すっかり照れてしまい、ペロンパに握手をされると体中真っ赤になってしまう。

同年代ということですぐに仲良くなったペロンパとO次郎。そんな二人を暖かく見ていたQ太郎とドロンパだったが、いつものようにドロンパの悪口を端に発して掴み合いの大喧嘩に発展。

Qちゃんは「あんなやつとは絶好だ」と怒ってO次郎を連れていき、ドロンパも「バカがうつる」と言ってペロンパを連れ帰ってしまう。ここであっさりとO次郎はペロンパから引きはがされてしまうのである。


「僕たち一族をバカにした」と怒りの収まらないQ太郎。神成家ではペロンパの歓迎パーティが催されているが、絶交したんだと言って出席しようとはしない。O次郎もQちゃんの怒りの巻き添えで出席が叶わないが、ペロンパを好きになってしまった故に、とても悲しい気持ちになる。

QちゃんがO次郎も含めてバカにされて悔しいのは分かるが、弟の気持ちを察するならば、そこはO次郎を送り出してやるべきであった。このひねくれた態度によって、この後さらなる悲劇がO次郎を襲う


盛り上がるペロンバの歓迎パーティ。すると見たこともない、外人顔の身なりのきちんとした少年が参加している。その後パーティは飲食物の取り合いで喧嘩が発生し、ドタバタ気味に。

喧騒から逃れるように、ペロンパと先ほどの少年が別室で語り合っている。語り合うと言っても、一方的にペロンパが話すのみ。

ペケポコ=あなたって無口なのね
ペケポコ=何を聞いてもニコニコ笑っているだけ
ペケポコ=東洋の神秘を感じるわ
ペケポコ=好きよ

ペロンパの言葉は全てペケポコなので、少年には意味が聞き取れない可能性大。それにしても、少年はひと言も口を利かないのは何か理由がありそうだが・・・。よく見ると少年の髪の毛は、つむじから一本くるりとした毛が飛び出している。どこかで見たような形だが、果たして・・・。


その後ペロンパは自慢の切手コレクションを少年に見せる。そこへドロンパが合流してきて、ペロンパの来日の目的は日本の切手収集であることが明かされる。

特に今回は「高松塚古墳」の切手がご所望のようで、少年にも協力を要請すると、少年は立ちあがって「バ、ババケ・・・」と一言答えて胸を叩く。任せてくれというような意味なのだろうか。そして、この言語は一体・・・?

ちなみに「高松塚古墳」は奈良県明日香村にある円墳で、1972年に中から極彩色の壁画が見つかったことで、一躍脚光を浴びた。本作が描かれる一年前のことで、藤子先生もこの歴史的発見に喜んだと見えて、「新オバQ」において、『古墳発見』というお話も発見後すぐに描いている。

「高松塚古墳」の切手は実際に、発掘からちょうど一年経った1973年3月に高松塚古墳保存基金の寄付金付きという形で、3種類同時で発売されている。当時は切手ブームの真っただ中ということもあり、爆発的な売り上げだったようだ。


すっかり美少年のことを気に入ったペロンパ。ドロンパも上流家庭の子らしいと、太鼓判を押す。しかし、この時点でたいていの読者が気付くところだが、彼の正体はO次郎である。姿を人間に変えることで、ペロンパに会おうとしたのである。

O次郎は何とか切手を用意してペロンパの気を引きたいと考える。この当時の切手ブームはすさまじく、正ちゃんやQちゃんまでも切手を集めていた。二人から余っている切手を何とか譲ってもらい、O次郎の姿でペロンパの元へと向かう。

ところがペロンパの心はすっかりハンサム少年になびいており、O次郎の切手の贈り物に対しても、「一袋100円のクズ切手だ」と言い放つ始末。この時点で、O次郎のライバルはO次郎自身という皮肉な事態になってしまったようである。


うまくいかぬ恋路にすっかり落ち込んでしまうO次郎。さすがにペロンパと会えないことが理由だと察したQ太郎だったが、「だったらやめとけよあんなの、U子さんみたいな美人ならともかく・・・」と、Qちゃんの気持ちをきちんと汲んであげない。

いや、QちゃんはO次郎の気持ちはわかっていたのに、ドロンパに頭を下げるのが嫌だったのである。深く落ち込むO次郎を見て、弟思いのQちゃんは、渋々ドロンパに謝ってペロンパとの面会をお願いするのだが、時既に遅し。ペロンパは毎日家の前で、高松塚古墳の切手を少年が持ってくるのを、今か今かと待ちわびていたのである。


さて、切手コレクターの正ちゃんが、買い逃していた高松塚古墳の切手を、木佐君から拝み倒して一枚を確保したと、Qちゃんたちに自慢してくる。O次郎はこれに驚き、思わず奪い取る。さらに事情を全て承知したQちゃんも、正ちゃんにO次郎にやってくれと頼むのであった。

少年の姿になり、高松塚古墳の切手をペロンパに届けるO次郎。「ペケポコ」と飛び上がって喜ばれるが、O次郎は帰宅後気分が晴れずに「グニャラッタ」とグンニャリしている。

O次郎は良くわかっているのだ。ペロンパと仲良くなったのはQ次郎ではなく、O次郎が化けた少年だということを。本当は素顔のママで友だちになりたいのだが、Qちゃんに似たこの顔では自信がないとQちゃんに告げる。

Qちゃんは「顔が何だ顔が!」と激昂。「思い切って今までのことを打ち明けろ、正面からぶつかれ」と珍しく気合いの入った後押しをする。


勇気を出してペロンパに会いに行き、「バケラッタ」と声を掛けると、「ペケポコ」と返される。この意味は「さよなら」で、急にアメリカの母親から電報が来て帰国することになったのだと言う。

ペロンパはO次郎ではなく、少年にもう一度会ってお別れを言いたいと、あたりをウロウロし始める。O次郎は少年は自分が変身した姿だと告げるべく「バケラッタ」と話すが、意味が通じない。

妹の思いを遂げさせたいドロンパは、自分が男の子に変身し、ペロンパの前に現れることにする。O次郎には自分に変身するように告げる。そして、ペロンパから見て、感動的なお別れのシーンに移行する。

ペロンパと少年は互いに「一生君のことは忘れない」と手を握り合い、ペロンパはアメリカ行きの飛行機に搭乗するべく空に浮かんでいく。少年に変身したドロンパは、「この感動的なシーンは美しい思い出としていつまでも心に残るだろう」と満足そう。

しかしその裏では、ドロンパに化けたO次郎が号泣している。彼にとっては、切なく悲しい思い出として、いつまでも心に残ることであろう・・・。


ところで最後の場面、ドロンパに代わって、O次郎がハンサム少年の姿に化けることも可能だった。それを見れば、ペロンパの誤解だって解けたかもしれない。

しかし、言葉の問題もあり、さらにはペロンパの気持ちを鑑みて、O次郎が自ら身を引いたということも考えられる。ペロンパに美しい思い出を残そうとしたのは、妹思いのドロンパだけでなく、本当に彼女を好きになってしまったO次郎もそうだったのかも知れない。



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