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ドロンパ、P子にプロポーズ!『結婚しよう』/藤子恋愛物語⑬

藤子Fキャラクターたちは、恋愛体質の持ち主ばかり。
恋をしては、フラれたり、成就したり、片思いのままだったりと、悲喜こもごもが繰り返される。
そこで、恋するFキャラの恋模様を考察していく大型企画「藤子恋愛物語」シリーズを始動!

シリーズ第13弾は、またまた「オバケのQ太郎」から、今度はドロンパの恋模様に迫る。恋のお相手はQ太郎の良くできた妹・P子。皮肉屋で正直に物事を伝えられないドロンパが、いかにしてP子のハートを射止めようとするのか。そして義理の兄となってしまうQ太郎との関係は? ドキがムネムネするエピソードをご紹介!


「オバケのQ太郎」において、Qちゃんのライバルとして有名なアメリカ出身のオバケ・ドロンパは、意外にも初登場が遅く、連載開始開始から2年ほど経った1965年の年末である。

気取り屋で皮肉屋、いつも嫌なことを言って嫌がられるのだが、心の底では純粋なものも持っていたりする。ツンデレ系とも言える、複雑なキャラクター設定を持ったオバケである。

こうしたひねくれキャラをどこか愛している藤子F先生は、ドロンパを初登場させて以来、すぐにレギュラー化させて、Qちゃんと対峙させてきた。そんな一筋縄ではいかないキャラのドロンパの、一筋縄ではいかない恋愛模様を見ていくことにしよう。


「オバケのQ太郎」『結婚しよう』
「小学五年生」1966年9月号/大全集10巻

ドロンパは付き合ったりする前に、一直線に結婚を申し込む。そういう男(オバケ)だ。その注目すべきお相手は、Q太郎の妹P子。P子は、兄がQちゃんとは思えないほどの聡明なオバケなので、ドロンパの見る目は正しい。

ただし、ドロンパからすると、ネックはQ太郎である。まずドロンパはP子と二人きりになるため、P子と歩いているQちゃんに「正ちゃんがよんでたぞ」と声を掛け、席を外してもらう。

ドロンパはP子と二人きりになったところで、重要な話があると口火を切る。恩着せがましく「P子も喜ぶいい話だ」と前置きをした上で、

「僕が大人になったらP子くんをお嫁さんにする」

と、急なプロポーズ。当然ながらたじろぐP子だが、そんな様子を気にもかけずドロンパは続ける。

「君の返事を聞きたい。もちろんイエスだろうね」

慎重派でもあるP子はこの申し出に、「こういう大事なことは良く考えなくっちゃ」と返す。ドロンパは自信満々に「僕以上の男性がこの世にいると思う?」といった感じで、P子の慎重姿勢に少々納得がいかない。

個人的には、この部分を読んで意外に思ったのは、P子がいきなり否定から入っていないことである。すぐにNGでないということは、脈ありの可能性も高いからだ。


なお、正ちゃんが「呼んでる」と聞いていたQちゃんは、実際に正ちゃんに会うが、別に呼んでないという。そこで騙されたと気が付いたQちゃんは、ドロンパの所に戻って問い詰めると、ドロンパは

「僕はウソなんかつかないよ。正ちゃんはちゃんとよんでたはずだ。漫画の本をね」

と、一休さんのトンチのような答え。確かに正ちゃんは、部屋で本を広げて「読んで」いたが・・・。


さて、ドロンパはP子を口説いていく。まず、「自分はアメリカオバケ議会の大統領になる、そしたら君は大統領夫人だよ」と告げる。ふと笑顔がこぼれるP子だが、すぐさま「大統領になって何をするのか」と尋ねる。こういうところがきちんとしているP子ちゃん。

P子の問いかけに対して、ドロンパは「アフリカで猛獣狩りをしよう」「ロケットを作って火星探検もやりたい」という答え。こういうところは、まだ精神年齢が子供の男の子といった感じである。


付き纏うQちゃんを巻いて、またしてもドロンパとP子は二人きりに。今度はドロンパが思う理想的な結婚生活を語り出す。

・アメリカ郊外に家を建てる
・広い庭には花がいっぱい
・日当たりのいいモダンな建物にしたい
・ドロンパは毎日読書をして暮らす
・P子は傍で編み物をする

この話をにこやかに聞いていたP子だったが、編み物のところで引っ掛かり「編み物は苦手なの」と少々不満そう。ドロンパは「じゃ料理でも」と返すが、料理もP子は苦手という。

では「居眠りでもしててくれ」と返すと、P子はズバリ、

「あたしね、結婚してもただの奥さんになりたくないの」

と、自らの意見を述べる。

本作掲載時の1966年は、出生率も2%台で、夫が外で仕事、妻が内で主婦、子供が二人、というのが一般的家庭のモデルケースとされていた時代である。そんな中で、P子は家庭に入るだけの結婚生活を不満に感じている。先進的な考えの持ち主だったのだ。

そして、取りも直さずP子の先取的な考えは、藤子F先生の考えということもである。主婦が当然だった時代に、これからは女性も自分らしいやりたいことにチャレンジしていくべきだと、この時点で語っている点には、注目しておきたい。


そしてP子は具体的な自分の夢を語る。

「作家になってノーベル文学賞を取りたいのよ」

そしてすっかりP子の良き理解者となったドロンパも、

「いいじゃない、大賛成だよ。作家になるには見聞を広めなくちゃ。世界一周旅行しようよ」

と意気投合し、P子は「いいわねえ」と返す。すっかりいい仲に見える二人なのであった。


ただ、そんな恋仲に発展しそうな二人の間で引っ掻き回す存在となるのがQ太郎。この後も、ドロンパはどうにかして、近づいてくるQ太郎をP子から引き離す。

また二人になったところで、ドロンパはP子にもう一押し。「君の花嫁スタイルきっと素敵だよ」とおだてるのだが、これがなんとまさかの逆効果。P子は自分が花嫁のなった格好を想像し、全く似合ってないと判断してしまうのだ。

満更でもなかったはずなのに、「これは問題だわ。しばらく一人で考えさせて」と言って、ドロンパから離れて行ってしまう。この問題とは、花嫁スタイルの問題なのだが、その意図はドロンパには伝わらない・・。


その後、Q太郎がドロンパがP子に近づいている理由が気になり、P子に変装して(!)、ドロンパの思いを聞き取る。そこで、ドロンパがP子を勘違いして告白をする。

「僕、君が好きなんだ。可愛いし頭も良いし・・・」

ドロンパの思いが吐露されるかなり珍しいシーンである。しかし、この後「ウスノロのQ太郎の妹とは思えない」と続けてしまったばかりに、Q太郎はそれを聞いて激怒。いつものような取っ組み合いの大喧嘩へと発展する。


それを見たP子が「兄ちゃんをバカにする人なんて嫌い!」と割って入ってくる。P子はQちゃんを突き放しているように見えて、実は兄思いの妹なのだ。

「嫌い」と言われてしまったドロンパは大ショック。家で好物のハンバーグステーキを神成さんに出されても、食べずに部屋に引きこもってしまう。


ドロンパの部屋には机の上にP子の写真が飾ってある。どうやら思いつきでP子にプロポーズをしたのではなく、兼ねてからずっと思っていたということなのだ。

そして、ここから健気な一人芝居。ドロンパはP子に変身し、「ドロンパさん素敵!世界一のオバケだわ」としゃべる。実物の姿に変身できる分、切なさがよく伝わってくる。

P子の機嫌を直してもらうためには、Q太郎のご機嫌も取らなくてはならない。プライドの高いドロンパは、そんなバカバカしいことができるかと思うのだが、それでもP子のためなら・・・と思いを巡らす。


一方のQ太郎は、ドロンパがP子をお嫁に欲しいと聞いてかなりの不機嫌となっている。正ちゃんは「いいじゃないか、二人とも頭が良いし」と肯定的。やはり良く似合っている二人なのかもしれない。

ドロンパは重い腰を上げ、Qちゃんのご機嫌を取ることにする。最初は不慣れなためうまくいかないが、お世辞作戦に切り替えると、これがQちゃんの心を捉える。(←単純オバケなので)

そして後でケーキを用意しておくからうちにおいでよと優しく声を掛けて、すっかりQちゃんは「君はいいやつだなあ」と大満足。ご機嫌取りの作戦は成功だが、一人になったドロンパは、

「キーッ。心にもないお世辞を言うなんて実に不愉快だ!」

と苛立つのであった。


さて、そんなドロンパにP子が近づいてくる。プロポーズの返事をしようと言うのだ。その気にかかる答えとは・・・

「ドロンパさん、あれから色々考えたんだけど、このことは大人になってから改めて考えましょう」

聡明で堅実なP子らしい、至極もっともな返答である。これにはドロンパも「あ、そう」としか反応できない。

ラストはドロンパがQ太郎に「ケーキなんかないよーだ」と憎まれ口を叩いて終わるわけだが、そのドロンパの表情はそれほど落ち込んでいるようには見えない。


僕のうがった見方かもしれないが、今回のP子の答えは、ある種の先延ばしであって、否定的なニュアンスを感じられない。お互い子供なので、まだ時期尚早と言っているわけで、むしろ時期が来たらOKと言うのではないかと思わされる。

ドロンパは「新オバQ」においては、もっと人間らしい(?)性格になっていくわけだが、本作にはそうした片鱗をみることができる。P子とのコンビも良く似合うことも今回判明した。

本作は何気ない一作だが、見所の多い「オバQ」の中でも特筆すべき作品だと思われる。是非、未読の方は、原作を読んでもらいたい。



「オバQ」の考察もしております。


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