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Qちゃん念願のガールフレンド!?『おてんばU子』/ YAWARA!U子①

「オバケのQ太郎」を極めて雑に説明してしまうと、人間社会の常識を知らないQ太郎が、正ちゃんと一緒になってあれこれと大騒ぎするお話である。

二人で便利屋を始めてみたり、ハイキングや釣りに行ってみたり、手品やサーカスをしてみたり。そんなドタバタな日常におけるナンセンスさが魅力の作品である。

連載が長期となり、Qちゃんの非常識な行動が一巡してしまうと、次なる展開として、半ば必然的にQちゃんのオバケの仲間が増えていくことになる。脇キャラの登場である。

まず、連載開始から二年近く経ち、Qちゃんのライバルとして、アメリカオバケのドロンパが登場する。時同じくして、妹のP子も人間社会で活動を始める。そして次なるオバケとして投入されたのが、ガールフレンドU子であった。


U子と言えばガサツな性格で、柔道を得意とするおてんばな女オバケのイメージだろう。オバQワールドには欠かせないキャラクターであるのだが、実は1960年代の「オバケのQ太郎」では、ほとんど姿を見せないレアキャラであった。

「オバQ」のメイン連載誌だった「週刊少年サンデー」には一度も登場せず、最終回すら顔を見せない。登場しているのは「小学六年生」での5話分のみとなっている。

U子の、乱暴だがどこかキュートなキャラの魅力は、「新オバケのQ太郎」で開花したものだったのである。


そこで本稿では、まだレアキャラだった頃のU子ちゃんに注目したい。U子が初登場し、人間社会で柔道を知り、柔の道を突き進んでいく過程をじっくりと検証していく。


『おてんばU子』「小学六年生」1966年2月号/大全集11巻

本稿ではまず、記念すべきU子さんの初登場回をご紹介していく。

冒頭、突然ガールフレンドが欲しくなってしまったQ太郎。雑誌の文通欄を見て片っ端から女の子に手紙を送ってみるのだが、オバケを名乗ってしまったこともあり、全員に断られてしまう。

そんなQちゃんに正ちゃんは「友だちなら僕がいる、男同士の友情ほど固いものはない」と慰める。ところが直後によっちゃんが遊びに来て、正ちゃんは迷うことなくガールフレンドを選択。「何が友情だい」とQちゃんはスネてしまう。


「人間とオバケは違うんだなあ」と屋根の上で落ち込んでいると、遠くの空に何やら未確認飛行物体が浮かんでいる。

雲かと思いきや、フワフワと飛んできたのは見知らぬオバケ。二本の髪をおさげにしている様子から女の子のオバケであるようだ。

Qちゃんを見つけて「久しぶりにオバケに会えたわ」と喜び、Qちゃんにハグする女オバケ。彼女は「U子」だと名乗る。U子は人間世界に憧れて降りてきたのだが、住む家が見つからず心細くなってたところらしい。

そこでQちゃんは下宿探しを手伝うことにして、その流れで「友だちになってくれる?」とお願いする。「もちろんよ」とU子。かくして、Qちゃん念願のガールフレンドと、突然知り合えることになったのであった。


ところが極度な口下手Qちゃんは、話題に事欠き、U子の顔を見た後に「フグ料理っておいしいね」と、初対面の女の子の顔を見て絶対に言ってはいけないことを言い出す。

「人の顔見てフグを思い出すなんて失礼よ」と機嫌を見事に損ね、さらにフォローのつもりで言ったセリフでさらに事態を悪化される。

「君がフグに似てるんじゃない。フグが君に似てるんだ」

幾度読んでも全くフォローになってない!

ウマーと驚き泣いてしまうU子。そこに「悪かった。ついほんとのこと言って」と究極の追い打ちをかけて、U子に「きらいっ」と突き飛ばされてしまう。

女心が分かっていないレベルではなく、人としてだいぶ問題のある発言である。あ、Qちゃんは人ではなくオバケか・・。


デリカシーのないQちゃんとU子さんは今ひとつ噛み合わない出会い方となってしまったが、そこへ逆に言葉巧みなドロンパが近づいてくる。

Qちゃんが着替えにしに戻っている間、ドロンパがU子の相手をするのだが、アメリカ出身ということと話題がアーバンなものを次々と出していくので、これがU子さんの心を掴む。

・ニューヨークの夜景
・アメリカの歌
・地元テキサスの大地主だったという自慢

ドロンパに対抗意識を燃やすQちゃんも、ドロンパの「ユーアーマイサンシャイン」に対してQちゃんのアニメの主題歌を歌ったりするのだが、どうにも旗色が悪い。

さらにU子とドロンパは二人で蝶々に化けて「雲の公園の散歩」としゃれ込む。変身できないQちゃんは、模造紙で蝶の羽根を組み立てて後からついていくが、「まるでガのオバケだ」と言われて、U子にもシッシッと追いやられてしまう。


すっかりしょげて帰宅するQちゃん。どうしたんだと声を掛けてくる正ちゃんに、「悔しいからいっそ自殺して化けて出ようと思う」と泣き出すのだが、オバケのオバケは存在するのか問題を指摘され、正気を取り戻す。

よっちゃんから「プレゼントを贈ったら」とアドバイスを受けたQちゃんは、これまたムードのない焼き芋を持っていくのだが、意外に乙女なU子には「下品な!」と全く喜ばれない。

対するドロンパは花束のプレゼントを持ってくる。当然U子の受けもよい。さらに、Qちゃんが持ってきた焼き芋も、話のタネに食べてみようとということになり、ドロンパとU子で美味しく頂いてしまう。


さて日が暮れてくると、U子は「住む家を探さないと」と、本来の目的を思い出す。ドロンパが神成さんに話すのでウチにおいでと誘ってくれる。ところが、部屋で一人U子が待っている間に、床の間に飾ってあった盆栽のウメの花を摘み取って、頭の飾りにしてしまう。

神成さんの怒りを買い、追い出されてしまうU子。その後ドロンパが付き合って何軒か回って居候先を探すのだが、良い返事は貰えない。ドロンパも諦めモードとなり、「オバケの国へ帰りな」と冷たく言い放ち、去って行ってしまう。

都会的な魅力でU子の気を引いていたが、泥臭い行動はできないドロンパなのだ。突き放されたU子は「酷いわ酷いわ」と泣いてしまう。


そんなU子に助け舟を出すのは、一度はシッシッと冷たくされたQ太郎。デリカシーもムードもないQちゃんだが、泥臭い人間的(?)魅力のある男なのだ。

Qちゃんは「家においでよ」と言って大原家へU子を連れて行き、正ちゃんに「僕の代わりにU子さんを置いてあげてよ」とお願いする。そして「僕のことは心配いらない」と言って、家から去っていこうとする。

その様子を見ていたよっちゃんが、「U子さんは私の上で引き受けるわ」と申し出てくれる。U子はQちゃんの人間力(?)にすっかり感動して、「あなたって親切なのね」と嬉し泣きして、抱きついてくる。


表面上はカッコいいドロンパだったが、困ったU子に最後まで付き合おうとはしなかった。一方のQちゃんは、言葉も下手だし行動も雑だが、相手を思いやる気持ちは人一倍で、最後にはU子の心を掴むことになる。

本作ではU子に好かれたQちゃんが、照れて逃げ出してしまうというオチで終わるのだが、この二人の仲は、その後順調に推移する訳ではない。喧嘩も延々と続く。

ただ、互いに言いたいことを言い合う正直な間柄となったことは間違いない。ここにドロンパやP子も加わって、オバケ仲間の大騒ぎが始まっていくことになる。


次稿では、U子と柔道の運命的出会いについて見ていきたい。


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