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O次郎、初登場から一目惚れ?『O次郎のおよめさん』/藤子恋愛物語⑭

マンガにアニメにと一世を風靡した「オバケのQ太郎」は、その稼いだお金で小学館の新社屋が建てられたなどと噂されるほどの大ヒット作であった。全盛期はひと月に15作の新作が発表されていたし、テレビアニメの視聴率も最高時には36%以上を記録したという。

そんなオバQであったが、約3年間のフィーバーの後、1967年初頭には基本的に連載が終了して、「パーマン」へと引き継がれていった。

しかしQちゃんの人気は根強く残っていて、その後1970年1月に始まった「ドラえもん」の調子が思ったよりも上がらなかったこともあって、1971年4月号より、全10誌でQちゃんが再登場することとなったのである。

60年代の「オバQ」は安孫子先生との合作であったが、再連載では藤子F先生単独の作品「新オバケのQ太郎」となり、新たなキャラクターも加わっての再スタートとなった。


「オバケのQ太郎」では、人間社会のルールや常識を知らないQちゃんが破天荒なことをしでかすというのが通常パターンだった。しかし、連載が進めば進む程、人間社会のことを理解していってしまうので、そのパターンだけではお話が作れなくなる。

なので連載後半となると、Qちゃん以外のキャラクターを登場させて、作品に幅を広げていくことになる。アメリカオバケのドロンパ、優秀な妹P子、そしておてんばなU子・・・多彩なオバケキャラも人気を獲得したのである。

しかしながら、結局オバQは400話以上のエピソードが描かれ、かなりのやり切った感じが見受けられたのも事実である。


そんな一度やり切った状況下で、再始動するオバQでは、どのようなお話を作っていけばいいのだろうか。藤子先生が打ち出した施策は、Qちゃんの弟のO次郎を登場させて、O次郎に世間知らずの部分を担わせると同時に、Qちゃんをお兄さんにすることで、キャラクターを変化させたことである。

よって、「新オバQ」では「兄」という新しい立ち位置が重要となる。そのためには、常にQちゃんは「弟」O次郎とコンビで登場させなければならない。

誤解を恐れずに言えば、「新オバQ」の主人公は、QちゃんとO次郎の兄弟コンビなのである。


本稿では「新オバケのQ太郎」の「小学四年生」の第一話目のエピソードを紹介する。括りとしては「藤子恋愛物語」とするが、本作では初お目見えとなったO次郎の魅力を大いに感じてもらいたい。


「新オバケのQ太郎」『O次郎のおよめさん』
「小学四年生」1971年4月号

人間社会に来たばかりのO次郎、Qちゃんに「バケラッタバケラッタ」と相談する。それは「ガールフレンドが欲しい」という要望であった。これを聞いてQちゃんは大笑い。正ちゃんも「赤ん坊のくせにませてるなァ」と面白がる。


しかし、O次郎の友だちは正ちゃんとドロンパだけというのも可哀そうと思ったQちゃんは、U子さんを紹介してあげようと思いつく。この時U子さんのことを、「おてんばでおでぶだけど気のいいやつ。ただし柔道を習っているから気をつけろ」と評する。

さっそくU子さんの家(よっちゃんの家)に行き、O次郎を紹介すると、「Qちゃんに弟がいたの」とU子さん。O次郎がU子を見て「バケラッタバケラッタ」と話すのだが、Qちゃんは「困るなあ」という反応。

何て言ったのとU子が尋ねると

「これがおでぶのおてんばか」なんて、本人の前で言うやつがあるかっ

とQちゃんが真っ赤になって注意する。この場合、O次郎の言葉は理解できないので、わざわざ訳す必要はなかった・・・というギャグである。


怒るU子さんに対して、さらにO次郎が「バケラッタ!」と畳みかける。Qちゃんがそれを訳していく。

「会ってみたらすごーい美人だ」
「U子さん大好き」
「僕のお嫁さんになって」

と、まさかの愛の告白である。もちろん本気にしないU子はカンラカンラと笑うだけ。

この話を大原家の面々に紹介すると、これまた大笑い。すると、笑われているのもどこ吹く風のO次郎は、「愛」や「結婚」という漢字を知りたがり、U子さんへのラブレターを書くと言い出す。

Qちゃんがお前はまだ赤ん坊だとたしなめるのだが、年など関係ない、彼女を愛していると力強く伝えてくるのであった。(おそらく「バケラッタ」としか言っていないと思うが)


さて、ここまではO次郎の世間知らずぶりがお話の中心だったが、ここからQちゃんの暴走が加わって、おかしな方向へ転がっていく。

O次郎に本気のU子さんへの思いを感じたQ太郎は、「恋人を取られた」と泣き出す。まさかの赤ちゃんに嫉妬である。

正ちゃんは「だったら君もラブレターを出せばいい」とアドバイスし、伸一の部屋の本棚にあった「愛の手紙全集」を持ち出して、ラブレターの例文を写し取ってあげる。

ちなみに伸一は「新オバQ」においては河合伊奈子という女の子に夢中になるのお年頃で、まずはマニュアルから入るべく「愛の手紙全集」などという本を買ったのだろうか。


正ちゃんが書き取ったラブレターがあまりに感動的だったので、そのままこれをよっちゃんに渡すと言い出す。Qちゃんは横取りは酷いということで、急ぎその手紙をそのまま書きとって、U子宛てのラブレターにする。

このあたりの細かいやりとりは、きちんと後でギャグの伏線となっているのでどうぞご注目。

U子の家ではドロンパがO次郎の話を聞いて大笑いしている。そこへ噂のO次郎がやってきてラブレターを渡すのだが、これがU子を赤らめさせるほどの出来栄えであるようだ。

そこへ今度はQちゃんは例のラブレターを持って来て読ませる。汚い字などと言われつつU子が読み進めると「なんて美しい手紙かしら」と涙をこぼす。しかし、文末では「僕の女神、よっちゃんへ」となっており、U子の逆鱗に触れてしまう。

よっちゃん宛ての手紙を写し取っていたが、最後の宛名までそのまま書いてしまった、というギャグである。先ほどの伏線がこのように回収されている。


さて、こんなやりとりを見ていたドロンパ。U子なんて騒ぐほどの女の子かねと冷ややかに見ていたはずだが、徐々に「なんだか僕までそんな気になってきた」とU子を認める方向に意識が傾く。

そして思い立ったら吉日のドロンパは、U子に対して「喜べ!君を僕のお嫁さんに決めた」とひねくれた告白をする。


ここでO次郎、Q太郎、ドロンパの3人に言い寄られる形となったU子は、「私ってそんなに魅力的かしら」と勘違いして、急に「おむこさん申しこみ書」なる履歴書のような書類を作成する。

3人に申込書に記入させて、面接試験を開始。

ドアを開けてあげるドロンパに加点、窓を開けて飛び込ませるQちゃんに原点、椅子を出し上げるO次郎に加点、椅子を片付けてしまうQちゃんに原点・・・。ここまででQちゃんは失格の烙印を押されてしまう。

続けて面談だが、別にU子を好きでもないドロンパなので、「どこが好きなの」という質問に対しても、「そう聞かれても困る」といい返事をしない。

続けてO次郎の面談となるが、全て受け答えが「バケラッタ」となっており、それを全ていい方に受け取ったU子は、「なんて優しいこと言うんでしょ」と言って感動してしまう。このあたり、自己催眠状態なのである。


パンパカパーンと、当選者の発表となるが、案の定それはO次郎。ドロンパは「あっそ!」と急に興味を失い、Qちゃんは大泣きした挙句「僕は潔く退こう」と二人にエールを贈って、飛び去っていく。

すっかりその気のU子は「式はどこで挙げるの?神社で?ホテルで?」とO次郎に尋ねるのだが・・・、それは公園の空き地。幼稚園生たちに囲まれながら、Q次郎とU子は挙式をあげる。O次郎はお嫁さんごっこの相手を探していただけなのであった・・・。


Q太郎、ドロンパ、U子に加えて、天然っぽいO次郎がオバQワールドの仲間入りを果たしたわけだが、この先が非常に楽しみになる一作である。

なお「新オバケのQ太郎」を月刊誌10誌で連載しているこの時期、同時並行で「ドラえもん」も月刊誌4誌で執筆していた。この頃のドラえもんは、どちらかというと破天荒なお話が多かったので、似たようなハチャメチャなお話を毎月14作も発表していたことになる。

なので僕は、新オバQを読み直す度、藤子先生の天才っぷりに感嘆してしまうのであった。



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