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伸一と伊奈子とQちゃんの三角関係?/藤子恋愛物語⑪

藤子Fキャラクターたちは、恋愛体質の持ち主ばかり。
恋をしては、フラれたり、成就したり、片思いのままだったりと、悲喜こもごもが繰り返されている。
そこで、恋するFキャラの恋模様を考察していく大型企画「藤子恋愛物語」シリーズを始動!。

久しぶりの第11弾は、「オバケのQ太郎」の正ちゃんのお兄さん、伸一の恋愛事情をお届けする。彼が熱を上げるお相手は、クラスで一番の人気者河伊伊奈子。デートしたい伸一があの手この手で策を練るのだが、これがなかなか報われず・・・。

「オバケのQ太郎」の世界では、あらゆるキャラクターが恋をしている。(それはほとんどの場合一方的だ)

Q太郎はU子さん。ドロンパはP子(時々U子)。O次郎はドロンパの妹ペロンパ。P子の居候先のユカリさんは岩見君。正ちゃんたちのアイドルはよっちゃん、といった感じである。


今回は正ちゃんの兄き・大原伸一の恋模様にスポットを当てる。伸一は中学生ということもあり、年相応にガールフレンドが欲しいのだが、うまく行っている様子は描かれていない。

1960年代の「オバケのQ太郎」では、特定の女の子を好きになるような展開はなかったのだが、1970年代の「新オバケのQ太郎」では、河伊伊奈子という美人を好きになり、あの手この手で猛烈にプッシュをしていくことになる。

河伊伊奈子は、藤子ファンの中でもあまり知られていないキャラクターで、具体的に「新オバケのQ太郎」の「小学六年生」限定で9話だけ登場している。

ちなみにP子の居候先の中学生の名前が河合ユカリで、こちらも相当なマイナーキャラなのだが、同じ「かわい」という苗字のため、混同しがち。漫画ではキャラ分けしているが、80年代のアニメでは二人のキャラクターが合体していたりする。


さて、概略は以上にして、河伊伊奈子が登場するエピソードをまとめて紹介していく。伊奈子さんは自分が美人で人気者だと理解している女性なのだが、不思議と憎めないキャラクターとなっており、最後に彼女の魅力についてもまとめてみたい。


『オバQがじゃまだ』「小学六年生」1971年6月号

伊奈子さん初登場回。伸一が伊奈子を家に招き入れることに成功するのだが、下品な会話ばかりしているQ太郎が邪魔で仕方がない。どうにかして、家から出て行って貰おうと画策するのだが・・・、という展開である。

伊奈子がどんな人かと正ちゃんが伸一に質問すると、

「きれいというか可愛いというか。岡崎友紀と榊原ルミと新藤恵美と秋川リサが正面衝突したような・・・」

と答えている。正ちゃんは「へーえ」と感心しているが、正面衝突したら、どんな美人でも顔が潰れてしまうのでは・・・と思ったりもする。


なお、伸一が挙げている女性4名は、当時若者に人気急上昇中だった実在の女優さんやモデルさんたち。ご存じの方も多いと思うが、一応補足をしておく。

岡崎友紀さんは1970年9月から始まった「おくさまは18歳」という大映ドラマで人気を博した女優さんで、隣にいそうな身近な芸能人というようなお茶の間の人気を獲得していた。

榊原ルミ(るみ)さんは、1971年4月放送開始の「帰ってきたウルトラマン」で郷秀樹の恋人役などを演じた女優さん。

新藤恵美さんは、松竹ニューフェイス出身の女優さんで、1971年4月放送開始のボウリングをテーマとしたテレビドラマ「美しきチャレンジャー」の主演を演じて、人気沸騰中だった。

秋川リサさんは、この時代では珍しい長身でハーフのモデルさん。1970年に創刊された雑誌「anan」でのレギュラーモデルを務めて、こちらも人気を博していた。

かなりの豪華メンバーのチョイスであり、伸一の伊奈子に対するお熱っぷりが伺える。


当然、伊奈子はそのような見た目の女の子なので、伸一曰く「ライバルが多く、みんな友だちになりたがって」いるという。今回、大原家に来てくれるということは、すごく光栄なことだったのだ。

そうこうしているうちに、伸一が伊奈子を駅まで迎えに行くのだが、すれ違いとなって一人で家に来てしまう。そして、追い出すことのできなかったQ太郎とO次郎が伊奈子を出迎えることに。

伸一はエライことになったと急いで家へと引き返してくるが、なんと意外、Qちゃんの下品な話題が伊奈子にバカ受けしており、

「面白いオバケさんね。今度うちへ遊びにいらっしゃい」

とQちゃんに声をかけているのであった。


『もてもてオバQ』「小学六年生」1971年7月号

さて、先月号で伊奈子さんに誘われたQちゃん。本作では実際に一人で遊びに行ってしまう。これにイライラを隠せないのが伸一だ。八つ当たりをして、正ちゃんに「ヤキモチなんでみっともないぜ」などとたしなめられる始末。

そこへQちゃんが帰って来る。そして第一声が、

「いやあ、愉快だったなあ」

とかなりのご満悦の様子である。すっかり話が弾んで、今度はO次郎も一緒においでと誘いを受けたらしい。

伸一はQちゃんがどんな会話で伊奈子と盛り上がったのか、気になって仕方がない。Qちゃんに尋ねると、伸一には信じがたいことだが、Qちゃんの一言一言に喜んでくれるのだという。

伸一は嫉妬に燃えるところを何とか抑え込んで、具体的にどんな会話をしていたが聞いてみる。当然のごとく伸一の話題は一切出ず、もっぱら音楽や美術の話に限られていたという。

その中身とは・・・

伊奈子「二十世紀で最も偉大な音楽家は?」
Qちゃん「(すかさず)ドリフターズ
伊奈子「自分の描いたスイカの静物画を批評して欲しい」
Qちゃん「この程度のスイカなら切らずにまるごと食べてみせる

伸一はその程度の話かと逆に驚く。


ここでわかるのは、伊奈子はQちゃんの会話の内容に感心しているのではなく、自分の予測を超えるような面白いことをポンポンしゃべるQちゃん自身を気に入ったということだ。

まるで大喜利を聞いているような・・・そんな芸人のような面白さをQちゃんに感じたのではないだろうか。


この後、伊奈子さんから電話が掛かってきて、これからQちゃんに会いに来たいという。さっき会ったばかりだし、QちゃんはU子さんとの約束があるので、少しの時間しかないと言っても、それで問題ないという。

伸一はなぜQちゃんがモテるのか不明だが、何か魅力があるに違いないと考える。そこでQちゃんに姿を消してもらって、自分の吹き替えをして欲しいとお願いする。

QちゃんはU子さんの所へ行きたいと拒否するが、伸一はプライドをかなぐり捨てて、「僕はQちゃんの魅力を身につけたいんだ」と手をついてお願いする。Qちゃんは渋々了解・・。


そこへ伊奈子がQちゃんに会いにくる。ここから吹き替え作業開始。Qちゃんは相変わらず品のないことをしゃべるのだが、伸一のセリフと受け止める伊奈子は、腹を立ててしまう。

同じことをしゃべっても、受けれ入れられる人とそうでない人がいるが、そんな残酷な現実が表現されている。

伊奈子は手荷物を持ってきたのだが、風呂敷を広げるとそれはスイカ。彼女の訪問の目的はQちゃんがスイカを丸ごと食べる様子を見たかったからであった。やはり伊奈子は、Qちゃんのことを大道芸人のように思っていたらしい。


姿を消しているQちゃんは「そんなの二つ並べても一口だい」などと答えて、伊奈子は「伸ちゃんが?」と驚く。Qちゃんはそのまま部屋から出ていってしまい、伊奈子は伸一に「食べて見せて!さあ!!」と迫る。

おどおどする伸一に、さらに詰め寄る伊奈子。好奇心に溢れる女子なのか、サディスティックな性格なのか。。、l、

「一度言ったことを取り消すなんて男らしくないわよ」

とかなりの厳しさである。そして・・結果的にあごを外してしまう伸一なのであった。


さて、思いの外長くなってきてしまったので、本稿はここまで。

2本のエピソードを検討したが、みんなにモテモテの河伊伊奈子は、分別なく男子たちとデートを繰り返しているようだが、中身のない発言をするQちゃんのことを一番気に入ってしまう。

伊奈子はQちゃんのことを男性とみているわけではなく、面白いオバケ、大喜利やスイカ丸飲みの芸をしてくれる大道芸人のような目で見ていることがわかる。

伊奈子にはまだ恋愛うんぬんの関心はなく、デートばかりしているのは、自分を笑わせてくれる面白い人を探しているだけのようだ。


さて、次回以降も伸一の苦労はさらに続く!!


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