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Qちゃん憧れのミドリお姉さん!「マドモアゼル」編/藤子恋愛物語③

藤子Fキャラクターたちは、実は恋愛体質の持ち主ばかり。
恋をしては、フラれたり、成就したり、片思いのままだったりと、悲喜こもごもが繰り返されている。
そこで、恋するFキャラクターの恋愛模様を考察していく大型企画「藤子恋愛物語」シリーズを始動!
第三弾は、恋の話題が豊富な「オバケのQ太郎」から、「マドモアゼル」掲載のQちゃんのほのかな恋心を描くシリーズを全話ご紹介。
「マドモアゼル」1966年1月号~11月号/大全集10巻

ご存じ「オバケのQ太郎」は、人間社会のことを全く知らないQ太郎が織りなす一直線のボケ倒しが、大いなる人気を呼んだ。ナンセンスコメディとして、出発した作品なのである。

ところが連載が進んで魅力的なオバケ仲間たちが出揃うと、みんな誰かに恋をするようになる。

例えばQ太郎はU子さんが好きだし、ドロンパはP子が気になって仕方がない。P子が居候するユカリさんは岩見君のことが好き。「新オバQ」でも正ちゃんの兄・伸一と伊奈子の進まぬ恋なども描かれるし、O次郎も恋に落ちる・・。


本稿では、小学館発刊の二十歳前後向けの女性誌「マドモアゼル」で連載された「オバケのQ太郎」を紹介していくが、こちらはズバリ「恋」をテーマに据えていた。

「マドモアゼル」では11ヶ月間連載され、毎回4ページの小品だが、その中でQ太郎は、年上のお姉さんに対して憧れのような淡い恋心を抱く。対等に付き合いたいというよりは、弟的に可愛がって欲しいという欲求に近い感じである。

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Qちゃんの恋のお相手は、隣の神成さんの家に下宿することになった女性・青山ミドリ。神成さんの家はドロンパが居候するはずだが、本シリーズにおいては一切登場しない。通常の「オバQ」からは独立したパラレルワールドとして、読み進めるのが妥当だと言えよう。

「藤子・F・不二雄大全集」くらいでしか読むことのできない貴重な作品ばかりなので、全11話を完全解説しておく。Q太郎はどんな恋をして、どんな騒動を起こすのか。ご注目のほど。


『初恋』「マドモアゼル」1966年1月号

タイトル通りにQちゃんの「初恋」が描かれる。

隣の神成さんに下宿することになった青山ミドリさんが、大原家に挨拶に来る。家族ではQ太郎しかいなかったが、まんじゅうを頬張っていたので、きちんと挨拶を返せない。

そこでまんじゅうを飲み込んだあと、神成家に出向いて、ミドリさんに挨拶をすると、

「まあおりこうさん、お友だちになってね」

と頭を撫でてもらう。「ヤッホー」と舞い上がるQちゃん。

その後大原家の面々が帰宅。Qちゃんがミドリさんの部屋を眺めているので、正ちゃんたちに好きだと見抜かれ、照れ隠しでミドリさんにアカンベーをしてしまう。

ほろ苦い初恋に涙をこぼすQ太郎であった。

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『片思い』「マドモアゼル」1966年2月号

切手を借りにくるミドリさん。Qちゃんは正ちゃんのコレクションの切手を渡そうとしたり、切手を舐めてあげようとしたり、早く投函してもらうためにポストを持ってきたりする。

そしてミドリさんに「誰に出したの。恋人?」と尋ねるが、「ウフフ、さあね」とはぐらかされる。

ああ、悲しき片思い。

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『お見合い』「マドモアゼル」1966年3月号

神成さんの家に向かったQ太郎。そこでは神成さんがミドリさんに「今度の日曜に見に行ってくれないか」と頼んでいる。

このことを正ちゃんに話すと、それはお見合いではないかと勘繰る。Qちゃんは「きれいだろうな」とミドリさんの花嫁姿を想像する。

翌日ミドリさんの後を姿を消して追っていくと、ミドリがある家に入っていく。ところがお見合いかと思いきや、この家の主人が飼っているコンクールで優勝したという立派な犬を見させられている。

見に行くとは、お見合いではなく、犬を見に行くことだったのである。

他愛のないお話だったが、見所はミドリさんの花嫁姿である。

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『恋がたき』「マドモアゼル」1966年4月号

ミドリさんに「ボーリングに誘われたのでQちゃんも一緒に来て欲しい」とお願いされる。

ついて行くと、スネ夫的な外見のキザオという男が待っている。Qちゃんは何となく嫌な印象を受ける。キザオはボーリングはうまく、ストライクを連発するが、Q太郎はそれを邪魔する。

ボーリングを終えて、キザオは自家用車でミドリを送ると言い出すが、Qちゃんは「いいよ自家用機があるから」と言って、ミドリを背中に乗せて飛んで行ってしまう。

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『恋はつらい』「マドモアゼル」1966年5月号

大原家ではママが出掛けてしまって、夕ご飯の支度を正太・伸一がすることに。砂糖と塩を間違えるなどの料理風景を見て、Qちゃんは一日だけの家出を試みる。

家を出るとミドリさんが声を掛けてくれたので、Qちゃんは

「お姉さん助けて! 今晩家にいると僕は変なものを無理やり食べさせられてコロされちゃう」

と人聞きの悪いことを言う。するとミドリさんは「今晩は私のご飯を食べるといいわ」と誘ってくれ、Qちゃんは「ポキョ!」と言って大喜び。

ところが家に戻ると、ママが食事の支度だけのために戻ってきていて、Qちゃんは調子に乗ってご飯30杯も食べてしまう。

そこでミドリさんのことを思い出し、家に行くのだが、満腹なので食が進まないのであった。まさしく花より団子のQ太郎・・。

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『変な旅行』「マドモアゼル」1966年6月号

ミドリさんとその友だちの誘いを受けて、Qちゃんは山の温泉旅行について行くことに。ところが着いた先で記念撮影をしようとすると、ミドリの友だちがカメラのフィルムを持ってくるのを忘れていた。

そこでQちゃんが飛んでフィルムを探しに行くのだが、そのまま家に戻ってしまい、ついでにご飯を食べて、流れで寝てしまう。

Qちゃんは結局温泉宿には戻らず、自宅で一泊したというオチ。


『身がわり見合い』「マドモアゼル」1966年7月号

ミドリさんが本当のお見合いをすることに。Qちゃんはミドリさんが嫌がっていると判断し、やってきた相手の男性の前に女装して現れる。お見合いを知らないQちゃんは「見合って見合って・・」と言って相撲を取ってしまう

結局ミドリさんが姿を見せて、正式なお見合いが始まる。相手の男性はミドリさんを気に入ってしまい、二人きりの散歩に誘ってくる。この男のセリフがなかなか凄い。

「今までに九十九回お見合いしたけどあなたが最高よ。きっと二人はお互いのために生まれてきたのねえ」

二人を後ろから追ってきたQちゃんはこれを聞いて「歯が浮く。僕には歯がないけど」と、しかめっ面。

そこへチンピラが二人絡んできて、お見合い相手の男を失神させてしまう。姿を消したQ太郎がチンピラたちを倒すのだが、目を覚ました男はミドリが倒したものと勘違い。「先が思いやられる」と言って、ミドリから逃げ去っていくのであった。

しかしミドリさんはキザオといい、この見合い相手といい、変な男に好かれやすい。

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『恋と歌』「マドモアゼル」1966年8月号

フォークソングが流行中。ミドリさんも大好きだと言って、レコードを聞いている。Qちゃんは伸一のギターを取り出して、自分もフォークソングを歌うことにする。

ところが、Qちゃんの歌声はまるで騒音のよう。歌を聞いたママは「日本脳炎になるわ」と激怒し、空き地で練習すると猫たちが猛抗議してくる。

ラジオで「フォークソングはしみじみと人の心に語りかけるものです」というアドバイスを聞いて、ミドリさんに歌いかけると大変に受けがいい。

ミドリへの思いが優って音痴が直るという、とても良いお話である。

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『愛と悲しみ』「マドモアゼル」1966年9月号

ミドリさんの元に男性が訪ねてくる。留守番していたQ太郎が弟だと言って対応すると、男性はミドリの顔をQちゃんから想像して、去って行ってしまう。この男性は映画会社の新人スカウトだったのだ。

神成さんはそんなQちゃんに「ミドリさんの女優へのチャンスを潰したのだ」と言って怒り、「ミドリに対して馴れ馴れしくしすぎで、彼女は迷惑をしている」と説教する。

オバケの弟なんて迷惑か、とQちゃんは家出を決意。しかし行く宛もなく路上で寝ていると、ミドリさんが探しにやってくる。

「気にしなくていいのよ。スターになるよりQちゃんみたいな優しい弟がいてくれた方が嬉しいわ」

とQちゃん感激のお言葉。

本作において、Qちゃんはミドリの弟になりたかったのだということが明らかとなる。


『プレゼント』「マドモアゼル」1966年10月号

ミドリさんの誕生日だと聞いたQちゃんは、ママに何をプレゼントしたらいいか尋ねる。それなら本人にそれとなく聞いたらいいとアドバイスする。

ミドリさんはお隣の赤ちゃんをあやしていて、「こんな赤ちゃん欲しいわ」と呟いている。

Qちゃんは道行く人から赤ん坊を貰おうとしたり、デパートで買おうとするが、当然入手できない。

最後の手段とばかりに、Qちゃんは赤ちゃんのコスプレをして、自分自身をミドリさんにプレゼントする。よく食べる赤ちゃんなのであった。

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『車教習』「マドモアゼル」1966年11月号

車の教習所に通い出すミドリさん。Qちゃんも一緒に習おうとするが、「オバケは駄目」と拒否される。「人種差別するな」と怒るQちゃん。

教習所の教官はミドリさんに馴れ馴れしく、何かとタッチしてくる。姿を消して教習車に乗り込んだQちゃんは、教官がミドリさんを触ろうとするたびに、叩いて止める。

ミドリはかなり下手な運転だが、教習所に通い続けることになる。Qちゃんも教官のお触りを制止するべく、毎日通うことになるのだった。

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と、ここまでで「マドモアゼル」でのオバQは終了。やや唐突感のある最終回だったが、オバQ自体が基本的に1966年内で連載を全て終了することになったので、仕方のないところではある。

冒頭でも書いたが、本作は通常シリーズとは異なるパラレルワールドのような世界観となっている。理想的なお姉さんのミドリに憧れるQ太郎の、淡い恋模様が描かれる、とってもカワイイ作品である。

ほとんどの方が知らない作品だとは思うが、気になる方は是非大全集にて読んでみて下さい!!


「オバQ」の考察もたっぷりやっています。


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