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過去を変えることの代償とは?『無事故でけがをした話』/タイムマシンで大騒ぎ⑫

久しぶりに「タイムマシンで大騒ぎ」シリーズ記事の新作。今回も「ドラえもん」から一本取り上げる。

そもそもドラえもんは、のび太の結婚相手を変え、過酷な運命を変え、子孫に多額の借金を残さないようにするという目的を持って現代へとやってきた。マクロの視点で見た場合に「ドラえもん」は未来の世界の人間が、過去を変えるためにやってきたお話となっている。

ところがミクロの視点で見た場合に、個々の短編においては、未来を変えてはいけないという約束事が課せられている。不用意に過去を変えてしまうのは犯罪行為だとされる話もあれば、変えてしまったことで酷い目に遭うこともある。

過去を変える目的のドラえもんが、過去を変えてはいけないとのび太に説教をするシーンが描かれたりするわけだが、考えて見ればそれも変な話ではある。


ドラえもんでは、タイムマシンをテーマとしたパラドックスものが数多く描かれている。これまでかなりの数を記事にしてきたので、ここでまとめておきたい。

この他にもあるが、とりあえず代表的なものはこんな感じ。


だが、これでは終わらない。「ドラえもん」には他にも「タイムマシンもの」と呼べるタイトルが目白押しである。

『無事故でけがをした話』(初出:タイム・マシン)
「小学五年生」1978年1月号/大全集6巻

雑誌掲載時は「タイム・マシン」とそのままのタイトルだった作品で、テーマもズバリ、タイムマシン。過去を見に行くことができるというタイムマシン最大の効用を生かして、のび太が探偵の真似事をしてしまうという、いかにも危ないお話である。

冒頭、しずちゃんが、机の上に黒インクをこぼしたのではないかとママから疑われている場面を目撃したのび太。

しずちゃんが懸命に濡れ衣だと否定しているので、「しずちゃんは嘘をつく人じゃない」とのび太が一念発起。タイムマシンで真犯人を突き止めて、無実の罪を晴らしてあげようと考える。ここでののび太は、まだ邪(よこしま)な気持ちは毛頭ない。


事件発覚の一時間前。のび太がしずちゃんの家を訪ね、窓の外から見てみるとインクはまだひっくり返ってない。しばらくすると、ドタドタとしずちゃんのパパが部屋に入ってくる。「大事な書類を忘れて、慌てて取りに来たのだ」と説明ゼリフを残しながら・・。

そして「急いで会社へ戻らなきゃ」と説明しながら部屋を飛び出していくのだが、この時にドンとテーブルにぶつかってしまい、インクが倒れてしまう。


現時刻のしずちゃんの家に戻ってくると、「素直に謝りなさい」とママのお説教が続き、「本当に知らないんだもの」としずちゃんは涙ながらに冤罪を訴えている。

そこへのび太が颯爽と登場し、会社のお父さんに電話してご覧とアドバイス。しずちゃんのパパは、一時的に帰ったことと何かにぶつかったかも、という証言を取りつけ、無実がようやく判明するのであった。


しずちゃんはこれには大喜び。すごい名探偵よと、スネ夫たちにのび太を褒める。のび太は「何かあったら、僕に頼むといいよ」とすっかり探偵気取りの得意顔になるのであった。

その様子を見ていたドラえもん。「タイムマシン」を使ったことを見破り、探偵ごっこに使っていると恐ろしいことになると忠告してくる。のび太は、「そんなの起こるわけない」と全く取り合わない。

この手のドラえもんの忠告や、嫌な予感はほぼ100%悪い方向に的中すると決まっている。本作では、のび太はどんな恐ろしい目に遭うのだろうか・・・?


さて次なる事件が舞い込む。ジャイアンのオヤジが車に跳ねられて、病院送りになったというのである。車はそのままひき逃げしてしまったとのことで、ジャイアンは憎い犯人を突き止めてくれと泣きながらに頼んでくる。

「ドラえもん」としては、いつになく深刻な事件と言えるだろう。のび太は「そんな悪者は許せない!」と、すぐにタイムマシンで事故現場へと向かう。

現場近くの屋根の上から、ジャイアンのオヤジがはねられる瞬間を写真に収めることに成功し、車のナンバーも確保。これを警察に届ければ、車の持ち主は明らかになることだろう。


ところが、この時のび太は思ってしまう。この事故は食い止めることができたんではないか、ということを。

これは、数多くの「タイムマシン」ものを読んだり見たりしてきた人なら、それはヤバいとすぐに思う考え方である。過去を安易に変えることで、未来に大きな影響を与えてしまうのが定番だからだ。

のび太は、そんなタイムマシンの危なさに思い至らず、再びタイムマシンに乗って事故発生三分前に遡る。すると、通りをジャイアンのパパが自分の運命も知らずに、何か袋を小脇に抱えて歩いてくる。

そこへ死角となっている方向から猛スピードで車がパパを目がけて突っ込んでくる。のび太は「来ちゃだめっ」と声を上げて、ジャイアンのパパをボンと突き飛ばす。パパはそのまま倒れ込み、車は何事もなく走り去っていく。事故を防ぐこと(過去を変えること)に成功したのである。


ところがこの話を聞いたドラえもんは「ええーっ、ついにやったか」と驚きの声を上げる。「えらいことをしてくれた」と震えだし、タイムマシンでの過去改変はご法度であると猛烈に注意してくる。

さらに過去改変をしてしまった場合には、どこかで埋め合わせがついちゃうとドラえもん。「例えば、代わりに君が事故に遭うとか」と脅してくる。


もちろん、ジャイアンのパパの事件が未然に防げたことは間違いない。のび太に依頼主だったジャイアンが近寄ってくる。のび太は「お礼なんかいいんだよ」と謙遜の姿勢を見せるが、ジャイアンは「何の恨みで親父を突き飛ばした」と怒り心頭のご様子。

のび太が事故がなかったことにしてしまったので、新しいタイムラインではのび太によってジャイアンのパパが突き飛ばされた事実だけが正史となっているのである。

そして、ジャイアンのオヤジが持っていた紙袋には、お土産のたい焼きが入っていたらしく、これがダメになったことが怒りの発火点となっているようである。

のび太は自分のお陰で自動車事故に遭わなかったと説明するが、当然そんな事実はわかりようがないのだから、全く聞く耳を持ってもらえない。挙句「わけのわからんこといってやがる」とボコボコにされてしまう。


探偵ごっこはも~止めた。ボコボコに殴られたのび太が騒ぎ立てる。ドラえもんは「その程度で済んで良かったよ」よ安堵の表情を浮かべるのであった。


終わってみればかなりシンプルな「タイムマシン」ものだったが、逆に言えば、これほどシンプルにタイムパラドックスを体感できる作品を生み出す藤子先生はマジですごいなと感心してしまう。

何かを救うと何か別の代償が待ち受ける。これはアニメ版の「時をかける少女」でもテーマとなっていた。タイムマシン(タイムリープ)によって、自分にとってだけ都合の良いタイムラインを作れるほど、甘くはないようである。



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