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それにしてもジャイアンってやつは…。『ジャイアン反省・のび太はめいわく』/タイムマシンで大騒ぎ⑩

「ドラえもん」には「タイムマシン」を軸にしたお話が多いが、それは比較的初期作品に偏っている。タイムマシンで時間旅行をするお話は、後期の作品にも出てくるが、タイムマシンを使うことで時間軸がややこしいことになる・・・といった作品は、連載が進むと減っていく。

本稿で取り上げるのは、そんな中後期の「ドラえもん」では珍しい部類に入る作品で、時間軸のトリックが込められた「タイムマシンもの」となっている。しかも、本作は焦点をジャイアンに当てている。タイムマシンとジャイアンという組み合わせも、珍しいように思う。


「ドラえもん」『ジャイアン反省・のび太はめいわく』
(初出:ジャイアンのけんか相手は、タイムマシンでさがせ!!)

「小学五年生」1984年10月号/大全集13巻

本作の雑誌掲載時のタイトルは、『ジャイアンのけんか相手は、タイムマシンでさがせ!!』という長いもので、タイトルの段階から「タイムマシン」が登場するということを明示している。

本作は、タイムマシンを使うかどうかの話題は最後の最後で出てくるので、若干フライング気味なタイトルとなっており、見方によってはネタバレにもなっている。

単行本収録時に『ジャイアン反省・のび太はめいわく』と改題されたが、こうしたネタバレ事情があったのではないかと推察している。


さて、冒頭は何度か見たパターンの始まり方。のび太がジャイアンを怒らせて、空き地で追い回されているシーンから・・。

のび太は思わず土管の中に逃げ込むが、ジャイアンは逆方向から入ってのび太に迫る。のび太は慌てて土管から出ようとするのだが、ジャイアンに足を掴まれてしまい、「助けてえ!!」と絶叫する。

すると土管の中にいるジャイアンが妙なことを言い出す。

「お?誰だ、俺の足を引っ張るのは。お!お!何しやがるこのやろ!!くそっ、負けるか!!」

どうやら何者かがジャイアンの足を引っ張って、そのまま土管の中でその何者かとバトルを始めたようである。しかも、手こずっている感じから、かなりの強敵であるらしい。


のび太は状況が理解できないまま、とにかく空き地から逃げ出す。すると、一人の大柄の男性から声を掛けられる。郷田という家を探しているのだという。

のび太は一瞬、ゴーダと聞いてピンとこなかったが、すぐに郷田武=ジャイアンの家のことだと気がつき、道を教えてあげる。男性は、十年ぶりにこの町にやってきたので、様子が変わっていてよく分からなくなっていたようだ。


このやりとりを聞いていたスネ夫は、今の人は噂に聞いているジャイアンのおじさんではないかと推測する。ジャイアンから、おじさんは柔道十段という豪傑だという自慢話を何度も聞いていたらしい。

のび太は「あいつの一族には怖い人が多いよ」と感想を述べる。


さて、ジャイアンはおじさんと再会を果たす。ジャイアンは「おじさんのことずーっと尊敬してた」と嬉しそうだが、顔は誰かと喧嘩をしたような傷跡がたくさん。おじさんがどうしたのか尋ねると、ジャイアンは「暗い土管の中でいきなり襲われたんだ」と興奮して応える。

そしておじさんに、「もっと強くなりたいので柔道を教えてください」と頭を下げる。それを聞いたおじさんは、ジャイアンに諭すように「柔道はケンカのための技術じゃないよ」と伝える。そして、この後ジャイアンの心を動かす感動的な言葉を言う。

「君の考えている強さはケダモノの強さだ。本当に強い者はけっして威張らない。弱いものいじめなどとんでもない!人間らしい心を磨くのが柔道の真の目的なのだ!!」


ガツーンと一発食らったような衝撃を受けたジャイアンは、「おじさん!俺が間違っていたよ!」と大・大興奮。そのままのび太の家へとダッシュしていき、今の話をのび太とドラえもんに伝える。

ジャイアンは、おじさんの言葉に感銘を受け、「これからは弱いものを守ってやることにした」と決意を述べる。そして、この辺で一番弱い者といえばのび太だから、のび太を守ることにしたのだという。

のび太はそれを聞いて、ありがた迷惑に感じる。まさしく、本作のタイトルにある通りに、ジャイアンが反省し、のび太が迷惑するという構図となったようだ。


誰かに苛められれば、すぐに助けて見せるということで、無理やりにのび太を町へと引っ張っていく。ドラえもんは読者の思いを代弁するかのように、「おじさんのいうことがまるでわかってない」と呆れる。

ジャイアンはのび太から少し離れて付いていく。もしスネ夫などがいじめようなものなら、パッと飛びかかるつもりである。

ところが、ジャイアンの思惑とは異なり、誰ものび太にちょっかいを出さない。段々とイライラしてきて、なんとかしろとのび太に怒鳴る始末。やっぱりおじさんの言うことがまるで理解できていないようである。


そこへおあつらえ向きにスネ夫が歩いてくる。単独でのび太に絡むことはなく、普通にすれ違うのだが、ここでジャイアンが後ろからスネ夫に石をぶつけて、のび太のせいにしようとする。まるでマッチポンプなのである。

スネ夫は怒ってのび太に飛び掛かろうとするのだが、ここで、モノローグが入る。

この時、スネ夫は動物的な本能で危険を察知した。

この妙なカンの良さがスネ夫の特徴と言えるかも知れない。コウモリのような察知能力があるから、人の顔を見て、あることないこと出任せが言えたりするのである。


と言うことで、ジャイアンのイラつきヴォルテージは上がっていく。そして本来の目的を忘れて、手段と目的が入れ替わっていく。

「せっかく俺が守ってやると言ってんだぞ。それなのにお前は守られたくないらしい。俺はな人の好意を素直に受けられない奴は大嫌いだ!!」

勝手に守ってやると言い出して、それが叶わないと怒り出す。そもそものび太を普段からいじめているのは、当の本人なのである。論理が滅茶苦茶だ。


そんな時に、ドラえもんが何かを閃き、「凄いいじめっ子がいるよ」と言い出す。そいつは物凄く強いのだと告げると、ジャイアンも盛り上がる。

そして三人でタイムマシンに乗り込む。どうやらジャイアンの敵は別の時間帯にいるらしい。。

到着したのは土管のある空き地。そこは冒頭で描かれた、のび太がジャイアンに追い回されているシーンである。着いた瞬間、丁度のび太が土管の中に逃げ込み、ジャイアンが別の入り口から、のび太に迫ろうという場面となる。


ドラえもんの指図に従い、ジャイアンは土管の中へと潜っていく。そして、後ろから、過去のジャイアンを捕まえて喧嘩を始める。

なるほど、最初のシーンでジャイアンに掴みかかってのび太を救ったのは、他でもない未来のジャイアンだったのである。


まさしくタイムマシンで大騒ぎ。それにしても、ジャイアン同士が喧嘩を始めて、その結果はどうだったんだろうか。喧嘩の途中で自分と戦っているとは、気づかなかったのだろうか。。。

そんな投げっ放しジャーマンのような終わり方で、本作は終了となるのであった。


「ドラえもん」考察やっています。


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