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タイムマシンでパパの落とした給料を探せ!『月給騒動』/月給騒動②

今では考えられないが、給料が袋に入った現金で手渡されていた時代がある。毎月の給料日になると、全国の従業員が一ヶ月分の生活費を自分のカバンのしまい込んで会社から自宅に帰っていたのだ。

当然、大金を持って歩くということは、強盗に奪われたり、酔ってカバンをどこかへ置いてきてしまったり、どこかで落としてしまったりと、大きな経済的なリスクが付きまとう。

恐らくだが、毎月のようにどこかの家庭では給料紛失事件が起こっていただろうと想像される。


藤子作品では、そうした父親が持って帰る途中で、給料を無くしてしまうという事件をテーマにしたものがある。

当時の子供たちは、大人の懐事情は自らの生活に直結していることを知っていたし、給与が無くなるという事態はまるで他人事ではなかったわけだが、藤子先生はそうした子供たちの気持ちをきちんと取り込んでいたのである。


「月給騒動」と題して、前回の記事では「オバQ」から一作品取り上げて紹介した。ここでは三億円事件が、銀行振込の時代を作った?というような話題も書いているので、ご興味ある方はご一読のほどを。


「ドラえもん」『月給騒動』
「小学六年生」1973年10月号/大全集1巻

さて今回は「ドラえもん」から一本ご紹介。この作品は、「タイムマシンで大騒ぎ」のテーマで紹介しようかと思ったお話なのだが、迷った結果「月給騒動」という切り口にした。


前稿での大原家に続き、野比家でも給与の紛失問題が発生。パパとママは大慌てである。ママは常日頃お給料日にはまっすぐ帰るようお願いしていたが、パパは課長に誘われて断れなかったという。その結果、酔っ払ってどこかへ給与ぶくろを落としたようなのだ。

一ヶ月分の生活費を手持ちにして酒を飲みに行くのは、今の感覚ではかなり怖いこと。せめて銀行に預けていきたいところだが、当時はATMなんてものもなく、持っておくしかなかったのだ。


のび太とドラえもんは、この話を聞いて「今月どうやって暮らすの」と騒ぎ立てる。子供なりにお金がないことは不安なのだ。「子供が余計な心配するな」と言い返すパパだったが、ここで急に昨晩のことを思い出す。それは何と、給与ぶくろをのび太とドラえもんに預けたというのだ。

「変なこと言わないでよ」とのび太たち。「子供のせいにするのは卑怯だ」とママ。肝心のパパの記憶は、酔ったことで曖昧になっており、ガード下のおでん屋で飲んだところまでしか思い出せないという。

パパはとりあえず交番に届けてくると言って出掛けていく。のび太とドラえもんは、「タイムマシン」で夕べに戻ってパパの行動を探ってみることにする。


ここからは、のび太のパパの行動を見ていく。

8時半頃ガード下のおでん屋に、課長とパパが姿を現わす。課長が一杯だけと誘っていて、パパは断っているのだが、「一杯だけですよ」と渋々付き合うことになる。

今では上司が無理やりに一杯だけと言って連れ回すのも問題になる時代になっていることを考えると、こういった描写も今後のアニメでは描かれないのかも知れない。


案の定、一杯だけの割にかなりの時間が経過する。そう、大人の世界で一杯だけが一杯だけで終わることなどあり得ないのだ。しまいには陽気に歌を歌いだすほどにパパと課長は盛り上がる。

10月の夜ということで、外でただ待っているのび太たちの体は冷えていく。体を動かして温かくしようと動き回ると、ドラえもんがノラ犬の尻尾を思い切り踏んずけてしまい、追い回される羽目になる。


何とか犬から逃げきって戻ってくるとおでん屋には二人はいない。このまま家に帰ったのだろうか。すると遠くでさっきの犬が誰かを追い回している。さらにその後を警官らしき男が追いかけて、「落とし物だよ」と声を出している。この部分、さらりと描かれているが、当然重要な伏線シーンである。

ブラブラ行くと、焼き鳥屋の前にパパと課長がいる。だいぶ酔いが回っているのは、パパの方で、今度は課長に対して「あと一杯だけ!」とせっついている。誘われた方が逆に盛り上がってしまうという、酒席あるあるである。


結果的に課長もパパも完全にでき上がり、グデングデンの泥酔状態に。こうなったら夜明けまで飲み明かそうなどと盛り上がっており、これにはのび太たちもウンザリ。

そこでドラえもんがママが怒っている様子を生配信して、パパをビビらせる。すると、急に「ただいま帰りますっ」と課長を跳ねのけて、全速力で帰路につく。

のび太たちは後を追い、途中で給料ぶくろを落としていないことを確認する。そして家に戻って、パパのカバンを見てみると・・・ふくろがない! ということは、のび太たちが監視していなかったおでん屋から焼き鳥屋の間の行程で無くしたのでだろうか・・。


そこでのび太たちは、もう一回タイムマシンで昨晩に戻ることにする。もう張り込みはこりごりなので、パパから月給を預かってしまおうという計画である。

戻ってきたのは、時系列で言うと一回目ののび太たちが犬に追い回されているタイミング。既に酔いが回っているおでん屋のパパに話しかけて、給料ぶくろを預かる。

「安心して飲める」と喜んだのもつかの間、パパは「こんな夜中に何をしてる!」と我に返る。慌てて逃げ出すのび太とドラえもん。すると今度は、のび太が前回追い回された犬の尻尾を踏んでしまい、またもや二人は追いかけられることに。

慌てて逃げ出した時に給料ぶくろを落としてしまうドラえもん。その様子を見ている警察官・・・。


ここで一回目のタイムマシンで戻った二人の足跡を思い出してみよう。

のび太とドラえもんは、犬に追い回された後におでん屋に戻ってくるも、パパをそこで一度見失っていた。この時、少し離れた場所で犬に誰かが追い回され、警官が落とし物だと声をかけながらその後を追っていた。

この追い回されている人物こそ、二回目にタイムマシンで戻ってきたのび太たちだったのだ。まさしく「タイムマシンで大騒ぎ」である。


タイムマシンで今日に戻ってきたドラえもんとのび太。そこでドラえもんが、月給を落としてきたことが発覚する。パパから預かってそれを落とすとは、何しに過去へ戻ったのか・・・!

パパが交番から帰ってくる。手にはドラえもんが落とした給料ぶくろ。パパは交番から聞いた話から、「落としたのはのび太とドラえもんみたいなんだけど・・・」と首をひねる。

「また子供のせいにして」と怒るママ。今回は事情を全て知っているのび太たちは、「月給が無事返ったからよかったじゃない」と、ママをなだめすかすのであった。


月給を落としたと聞いて、どうやって暮らすのだと心配したり、タイムマシンで探しに行ったりするのび太たち。子供ながらに、生活が心配なのである。

本作は、そんな子供の心配心をきっかけにしつつ、タイムマシンで二度同じ場所に行くことによるドタバタを描く、良くできたタイムリープものである。

かなりの名作だと思うのだが、正規の「てんとう虫コミックス」では読むことのできない作品なのは何故なのだろうか。



「ドラえもん」をさまざまな切り口で紹介中。


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