のび太、タイムマシンの禁じ手発動!『宝くじ大当たり』/タイムマシンで大騒ぎ⑤
タイムマシンは「欲しいドラえもんの道具は?」といったアンケートにおいて、年代・性別を問わず必ず上位に選ばれる。
タイムマシンを使う目的としては、「歴史上の事件を目撃したい」、「未来の世界を経験したい」といった壮大な理由がまず思い浮かぶ。
しかし、実際にタイムマシンが欲しいと言っている人たちは、もっと卑近な下世話な目的を考えているように思う。例えば、「試験の問題をあらかじめ知っておきたい」とか、「昨日の失敗を最初からなかったことにしたい」などなど・・。
「ドラえもん」の世界では、タイムマシンなどの便利な道具を大人の視点で使わないようにしている。ひみつ道具は悪用できるものばかりだが、犯罪には使わないというルールを、藤子先生は暗黙の内に決めている節がある。
そんな観点からすると、本稿で取り上げる作品は、タイムマシンを「悪用する」が、「犯罪には使わない」という境界線ギリギリの部分を描いている。その際どさを意識しつつ、いい塩梅で物語を展開する。そのバランス感覚を是非とも体感いただきたい。
本作のテーマは「タイムマシンと宝くじ」。過去に戻って大当たりの宝くじを買ってこようという、タイムマシンを持った人が真っ先に考えるような動機に基づくお話となる。
思えば、タイムトラベルものの大傑作「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でも、未来のスポーツ年鑑を手に入れたビフは、結果が分かっている競馬などのギャンブルで一山当てる。(このビフのモデルが若きトランプ)
タイムマシンとギャンブル(くじ)は密接な関係にあるのだ。
本作では宝くじを趣味としているパパが、当選番号が記載されている朝刊を手に入れて、この前買ったくじを探すシーンから始まる。
そこへママが大量の宝くじをパラパラと落とす。パパが探している今回のくじではなく、これまでパパが買ったものの全部外した約5万円分の空くじであった。
掲載当時の1971年の5万円というと、今の価値で10万円くらい。全国的な宝くじは1968年に初めて発売され、1971年時では、宝くじ人気が定着化して、ある種のブームが起こっていたようである。
この時代、くじは一枚100円だった。つまりパパがこれまでに買った5万円分の宝くじは、実に500枚分に及ぶことになる。一回に買うくじの枚数は野比家の懐事情からしてもたかが知れているはずなので、かなりの長期間ずっと外し続けていることがわかる。全くパパは懲りていないのだ。
だからこそママが厳しく注意する。
おそらく何度目かの念押しだったらしく、パパは「そうだった、そうだった」と言ってあたふたする。そして以前から約束していたことを踏まえて「今度は買わなかった、だからくじがないんだ」と苦しそうに言い訳するのであった。
ここでのポイントは、パパは宝くじを買ったと思っていたのに、手元にはくじがないという事実である。単にパパが宝くじ好きだということがわかるくらいのシーンなのだが、きちんとラストへの伏線が込められているので注目しておいて欲しい。
ドラえもんとのび太は、パパが買った何枚もの外れくじを目の前にして、「滅多に当たるものではない」などと会話をする。しかし、新聞で一等600万の番号【3組の778631】を目にしたのび太は、とてつもないアイディアを思いつく。
と、タイムマシンで金儲けという禁じ手をのび太は考え出してしまったのだ。
当然ドラえもんはこのアイディアを認めるわけにはいかない。取り乱すように、タイムマシンに乗ろうとするのび太を制止し、「法律でタイムマシンをお金儲けで使ってはいけないと決まっているのだ」と説明する。
するとのび太は、「儲けなければいいのでは」と簡単には諦めない。今まで使った5万円だけ当てようと言うのである。まるで法律の網の目を潜り抜けるような作戦だが、元を取り返すだけならお金を稼いでも良いという、弁護士顔負けのグレーな判断をすることに。
そういうことで二週間前の世界へ「タイムマシン」で向かう。さっそく宝くじ売り場に行き、お客さんが並んでいる様子を見たのび太がひと言、
と、全国の宝くじファンを敵に回しかねない問題発言。
いつの間にか切り抜いていた新聞の当たり番号を見て、当たりくじを探すのび太。しかし該当する番号のくじはなく、「この店、空くじばっかりだ」と難癖をつける。当然ムッとする店主。
ここでドラえもんが、たまたまチラリと売り場の棚を見ると、【3組の778631】の宝くじが目に入る。いきなり一等600万の大当たりくじを見つけて、震えあがるドラえもんとのび太。
のび太は一応「儲けすぎるんじゃないか」と釘を刺すのだが、法律がうんぬんと言っていたはずのドラえもんは、
といとも簡単にルビコン川を渡ってしまうのであった。
ところが、何と宝くじを買いに来たのに、お金を持ってこなかったことが判明。猛スピードで現代へと戻り、パパに100円を急かして出させる。そしてパパを突き飛ばすようにして、再び2週間前の世界へ。
しかしなんと、先ほどの番号の宝くじは、たった今売れてしまったという。なぜ取り置いてくれないのか、この店主! 二人はガーンと大ショックを受けて、現代へと戻っていく。
戻った後も、ドラえもんは「ちきしょう、誰が買ってたんだろう」と号泣する。「お金儲けはダメ」などと法の番人となっていた姿は、もうどこにもない。むしろ言い出しっぺののび太の方が、「これで良かったのかも」と気持ちを落ち着ける。
そしてのび太は「お金は働いて手に入れるもんだ」と、らしくない素晴らしいことを言い出す。ドラえもんものび太の発言に感銘を受け、「きっぱりと運がなかったんだと諦めよう」と追随する。
ところが、ドラえもんが「一足遅かったんだ」と付け加えたので、再びのび太はアイディアを閃く。逆に一足早ければいいということで、タイムマシンで誰かに買われる前の世界へ向かおうと言うのだ。
偉そうなことを言っていたが、やっぱりくじで儲けたいのび太なのである。
もう一度宝くじ売り場へ向かうと、のび太のパパがくじを物色しており、【3組の778631】のくじを選ぶ。何とも大胆な一点買い、しかもこれまでの5万円を余裕で取り戻す600万の当たりくじである。
二週間前のパパが買っていたことがわかり、大喜びののび太とドラえもん。ドラえもんはどら焼き100個買おう、のび太は自転車と望遠鏡とカメラ、そしてその話を聞いたママは真珠のネックレスをご所望する。
特にママは我を忘れて廊下を飛び跳ねる興奮っぷり。そのままパパの所へ行って、車を買って、海外旅行して・・と大いなる夢を語る。
興奮する3人を目の前にして、何の話はさっぱり分からず戸惑うパパ。そして宝くじのことだとわかった後、衝撃的な事実を述べる。
何と、宝くじを買ったものの、これ以上宝くじを買うなという約束を思い出して、友だちに売ってしまったのだという。買ったはずのに手元になかったのは、既に譲ってしまっていたからだったのだ。見事に冒頭の伏線が生かされている。
行き場のない怒りに震えるママとのび太とドラえもん。そして、約束守ったのに怒られることに納得のいかないパパなのであった。
やっぱり「ドラえもん」のタイムマシンでは、悪いことはできないのだ。
そして、まだまだ「タイムマシン」作品続きます!
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