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夏ののび太は冬を目指し、冬ののび太は夏に向かう『タイムマシン』/タイムマシンで大騒ぎ④

「タイムマシンで大騒ぎ」というシリーズで、藤子先生の大テーマであるタイムマシンに関する作品の記事化に取り組んでいる。

なぜ「大騒ぎ」と付けたかと言えば、本来、淀みなく流れていく「時の流れ」に、「タイムマシン」という流れに掉さす機械が介入することで、時間の流れが乱れて、結果大混乱が引き起こされるからだ。

それは時として「タイムパラドックス」という不可思議な現象を引き起こしたり、運命を先取りしてしまう特別な体験を強いられたりする。

時間が一定のスピードで同一方向に進んでいるからこそ、安定した世界を私たちは暮らしていけるのだが、そのペースが乱れたり、時を超える人々が現れたりすると、世界はぐちゃぐちゃとなる。

タイムマシンによって引き起こさっる世界の混乱を、「大騒ぎ」という端的な表現に込めたのである。


これまでの記事では、以下の3作を紹介した。

・「ドラえもん」の初期の代表作であり、過去へ戻って真犯人を突き止めようとするミステリ仕立ての傑作『タイムマシンで犯人を』

・異色SF短編の一遍で、タイムマシンが存在できるのかを議論していく中で衝撃的なラストを迎える『T・Mは絶対に』

・近い過去と近い未来にそれぞれタイムトラベルし、大混乱を引きおこす「ウメ星デンカ」の『タイムマシン』

記事は下記。

「タイムマシン」を題材とする作品を、①ドラえもん ②SF短編 ③その他と3つに分類し、①②③から一本ずつ代表的な作品を選んできた。

本稿からはその2週目として、またも「ドラえもん」初期のタイムマシン作品を取り上げてみたいと思う。


「ドラえもん」『タイムマシン』
「小学三年生」1972年8月号/大全集3巻

『タイムマシンで犯人を』はてんとう虫コミックスにもきちんと収録されている、比較的認知度の高い作品だったが、本稿ではカラーコミックス版と大全集でしか読めないマイナーな一本をご紹介。

タイトルは、ずばり『タイムマシン』である。

今回は夏から冬、冬から夏へと時間移動するのび太と、それによる野比家の大混乱を描くお話となる。


季節は夏。夏と言えば海水浴。野比家も江の島に海水浴に行くことになり、のび太は「うれちいな、うれちいな」と小躍りして喜んでいる。

ところがスネ夫やジャイアン、しずちゃんの三家族も、偶然、江の島の海水浴に行くことが判明。のび太は急にテンションが下がり、「海水浴は明日だった」と訂正する。


家に入るとパパ、ママ、ドラえもんが海水浴の準備を終えて玄関に出てくる。のび太は「明日にしよう」と言い出し、急な予定変更を強いられたパパとママは「連れて行けというから無理して予定を立てたのに」とプリプリする。のび太は、自分だけ泳げない姿を見せて恥をかきたくなかったのだ。

海水浴に行かないとなると、急に「夏は暑い、早く冬にならないかな」などと言い出す。「冬は涼しいしスキーが滑れる」と冬派に鞍替えしたのび太に、ドラえもんはひと言「滑れないくせに」と呟く。


すると一階の廊下でのび太が汗だくで歩いてきて、

「おー、素晴らしいこの暑さ。夏はいいなあ」

とはしゃいでいる。

またも急な夏派への路線変更に対して、呆気にとられるドラえもん。そのままのび太は、スイカを見つけて「だから夏は好きだ」と言ってかぶりつき、「海へ連れってよ」と両親にお願いする。

「良く気が変わる奴だ」と渋々、海水浴の準備を始めるママとパパ。すると、のび太が「僕の分のスイカは」と騒ぎ出す。「今食べたろ」とドラえもん。さらに海水浴の準備が整った両親に向かって「明日にしようといったでしょ」と大声を出す。

何度も気が変わるのび太に、パパとママは憤慨し、大口論となる。ドラえもんは「暑さでみんなおかしくなったのかな」と首をひねる。


両親との言い争いを終え、のび太は冬を恋しがる。「あの一面の銀世界・・・」とやはり冬派に逆戻りのようだ。そして何か妙案を思いつく。「タイムマシンで半年後の世界へ行こう」と言うのである。

「夏休み中、来年の冬に行こう」と、さっそく行動を開始するのび太に、ドラえもんは「それはまずいと思う」とたしなめる。それはそうで、半年後の世界にものび太が暮らしているのだ。二人ののび太が一緒にいられるわけがない。

しかし深く考えることの苦手なのび太は、「かまわないでしょ」と意に介せずタイムマシンに乗り込む。「同じ自分同士だもの」ということだが、そういう問題ではないような・・・。


季節は冬。涼しいと言いながらタイムマシンから出てくるのび太。雪が降っているのを見て「なーつかしい」と喜ぶ。テーブルにあるお餅を見て「大好き」と飛びつき、「スキーに連れっててよ」とパパとママにお願いする。

「えっ」と驚く両親。「よく気の変わる奴だ」と渋々スキーの準備を始める。先ほど全く同じような光景を見たような・・・。

ドラえもんは「君、去年の夏ののび太君だな」と見破り、「冬ののび太は、入れ違いで夏に行っている」と告げる。それを聞いて「ばかだなあ」とのび太。なぜ冬を嫌がって暑い夏に行かなくてはならないのか・・・、とそんな風な感想である。


そこに「暑い、夏って思ったほど良くないや」と夏の世界に行っていたのび太がタイムマシンで戻ってくる。そして、お餅を食べているドラえもんとのび太に「僕の分は!?」と文句をつける。

そこにスキーの準備を完了した両親が「行くぞ」と声を掛けてくる。冬ののび太は「明日にしようと言ったのに」と騒ぎ立てる。このセリフもさっき聞いたような・・・。

外では骨川家がスキーへ向かっている。冬の世界では、みんなと同じ日にスキーに行くことなったので、滑れない姿を見せるのを恥ずかしがって、一日ずらそうと両親に相談していたのだ・・・。


一応状況を整理すると、

夏ののび太
海水浴 → 泳げないのが恥ずかしい → 夏は暑くて嫌 → 冬へ行く
*夏の世界では、冬ののび太がスイカを食べてしまう

冬ののび太
スキー → 滑れないのが恥ずかしい → 冬は寒くて嫌 → 夏へ行く
*冬の世界では、夏ののび太がおもちを食べてしまう

季節をまたがって、見事な対称形となっている。夏になれば冬を恋しがり、冬になれば夏に憧れる。常に隣の芝生が青く見えるようだ。さすがののび太も、「同じことを懲りもしないで繰り返すんだね」と自分に呆れるのであった。


本作では「タイムマシン」を使って、夏ののび太が冬に向かい、冬ののび太が夏に向かう。夏ののび太は海水浴に行きたくないと言い、冬ののび太は海水浴に行こうと言い出す。

その結果、のび太の気がコロコロ変わるように見えるパパとママは、海水浴やスキーの準備をしたり、片付けたりと散々振り回される。両親から見て、まさしく「タイムマシンで大騒ぎ」のシリーズ名にピッタリの作品なのである。



「タイムマシン」のお話はまだまだ続きます・・!


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