もし過去に行かなければどうなったのだろう??『タイムマシンで犯人を』/タイムマシンで大騒ぎ①
藤子Fノートとして、これまで敢えて避けてきたテーマに、いよいよ向かい合うにする。そのテーマとは、藤子F作品の最大のモチーフである「タイムマシン」である。
なぜ記事にするのを避けてきたかと言えば、とにかく「タイムマシン」に関する作品数が膨大だということに尽きる。全体像が掴めないのである。
そもそもF先生最大の代表作である「ドラえもん」が、タイムマシンで未来の世界からやってきたという設定なので、ドラえもん全体にテーマが及ぶことになる。
また「T・Pぼん」のように、タイムマシンが主人公のような作品もある。SF短編集などでも「タイムマシン」を扱った作品もかなり数が残されている。「オバQ」「パーマン」といった、一見タイムマシンと関係無さそうな作品にも、タイムマシンが突如登場したりする。
これらを全網羅しながら記事を書いていくことは至難の業なのである。よって、記事化を躊躇していたというのが実態なのであった。
けれど、いつまでも取り組まないわけにはいかない。このままでは、藤子Fノートがいつまで経っても終わらない。正直、「タイムマシン」についての完全理解にはほぼ遠いのだが、まずは走り始めてみようと決意した次第である。
よって、何期かに分けつつ、主だった「タイムマシン」作品を取り上げていきたいと考えている。ざっと記事15本くらいになるのは見えているが、最終的にどうなるかは不明だ。
さらに、藤子F先生は「藤子・F・不二雄の異説クラブ」などでも「タイムマシン」について熱いコメントを残されているので、これもわかる範囲でご紹介していきたいと考えている。
長期シリーズになるかと思うが、何卒よろしくお願いしたい。
さて、本稿ではその一発目として、『タイムマシンで犯人を』という「ドラえもん」初期の代表的な「タイムマシン」作品を取り上げたい。
本作の直前にやはりタイムマシンを使ったドタバタコメディの『ドラえもんだらけ』という作品があるが、こちらは既に記事化しているので、まずは参照いただくのも良いかも知れない。
「ドラえもん」はタイムマシンで過去を改変するためにやってきた。藤子世界の大法典・航時法に完全に引っ掛かる行為である。
しかしその目的は達せられる。のび太の結婚相手を見事、ジャイ子からしずちゃんに変えたのだ。そしてその結果、ジャイ子も漫画家という道が開けることになる。あのままのび太と結婚していたら、そうはならかなったはずだ。
大きな時間流れの中では過去改変が行われたわけだが、一方で、もっとミクロな一日単位のような「タイムマシン」での時間移動では、過去を変えることはほとんどできないのが、ドラえもん世界の特徴でもある。
先述の『ドラえもんだらけ』などがそのパターンで、過去に介入したはずなのに、その介入込みで、運命は動かない。時間の流れは最初から決まっているというような考え方が見て取れるのだ。
本作でも、『ドラえもんだらけ』と同様に、とある出来事の真相を見に過去へ向かうのだが、その過去で自分が取った行動が、最初から組み込まれていたという事実がラストで判明する。
もし過去に行かなければ、逆に運命が変わった可能性がある。そんな矛盾<パラドックス>を含んだ作品となっている。
まずいきなり、のび太が事件に巻き込まれる。
「帰るまでに一度も先生に叱られなかった」と、満足そうに下校するのび太。「帰ったらママに褒めてもらおう」とか言いながら、校舎の脇を歩いていると、突然草むらから物音が聞こえてくる。
「誰?」と声を掛けるのび太。すると「うるさい!さっさとあっちへ行けっ」と唐突に、草陰から何者かに怒鳴られる。黒い影しか見えないので、声の主は不明である。
怖くなって逃げ出すのび太。すると、後方から「痛いじゃないか!」という声が聞こえ、さらにガチャンと何かが割れた音がする。自分の教室の方だと言って様子を見に行くと、教室の窓ガラスが割れている。
そこへスネ夫が「ああっ、やったな」と言って飛び込んでくる。さらに物音を聞いた先生も教室に入ってくる。スネ夫はすかさず「この辺にはのび太しかいなかった」と先生に告げ口する。
のび太は「僕じゃない」と一生懸命に否定するが、先生は「いたずらも嘘もいかん」と全く聞く耳を持ってくれない。完全にのび太のせいということになる。
「結局一日に一度は叱れらるのか」と落ち込むのび太。すると、教室の中にボールが落ちている。スネ夫がそれを見て、「ボールを探してたんだ」と言って回収する。
窓ガラスが割れ、ボールが落ちている。普通に考えれば、スネ夫のボールでガラスが割れたに違いない。しかし、弁達者なスネ夫にやり込められてしまうのび太。悔しくて仕方がないのび太は「必ず証拠を掴んでギュウと言わせてやるぞ」と叫び、スネ夫の顔色が変わるのであった。
と、ここまでが導入部。誰が窓ガラスを割ったのか、というミステリ仕立てとなっている。草むらでのび太にあっちに行けと言った人物の正体も謎。さすがのスネ夫も、自分が割っておいて嘘を付いているようにも見えない。
真相を明らかにするには、アレを使うしかない・・!
さて、初期のドラえもんは、連載が進んでからのように単純な道徳者ではない。初期作品ではかなり粗暴な性格が露わとなっていた。本作でも、のび太の話を受けて、荒々しい反応を見せる。
無実の罪の濡れ衣を着せられたと聞いたドラえもん。そこでまず一言、
と勢いよく出掛けようとするので、のび太は止める。そして、犯人はスネ夫だと思うと告げると、
とさらに興奮するのであった。
この頃のドラえもんは思い込みが激しい一面が強調されており、時に過激は言動が目立つ。初期ドラの最大の魅力と言っても良いかも知れない。
のび太は「スネ夫が犯人だという証拠を掴みたい」とドラえもんに告げる。そこでアレの出番である。そう、「タイムマシン」である。事件勃発の前に戻って、誰がガラスを割ったのか見て来ようというのである。
そう考えると、タイムマシンが発明されれば、犯罪はだいぶ減るように思える。たとえ事件を起こした後で取り繕っても、事件自体をタイムマシンで確認されてしまうので、証拠を隠しきれないからだ。
次稿では、そうしたタイムマシンと犯罪というテーマの作品を取り上げるので、こちらもどうぞお楽しみに。
タイムマシンで一時間戻り、タケコプターで学校へ向かうドラえもんとのび太。まだ授業が終わっておらず、校内はとても静かだ。教室を除くと、のび太がぐっすりと居眠りをしている。
のび太たちは窓越しに「起きろよ」と声を掛けるのだが、そこへ校内を見回っていた校長先生が現れる。のび太を見つけ、「授業中に抜け出しちゃいかんのう」とお説教を始める校長。
のび太は「弁解するようですが、けっしてサボってはいません」と慌てて答える。そして「ちゃんと教室にいます」と言って、窓越しに教室で座っているのび太を指さす。さっきまで寝ていたが、ちょうど目を覚ました様子。
校長は「ならば差し支えないのう」と言って去っていくのだが、ホッとしたのもつかの間、何歩か歩いたところで校長先生は飛び上がる。のび太が二人いたことに時間差で気付いたようだ。逃げ出すのび太たち。
しばらくして終業のチャイムが鳴る。多くの児童が帰宅し、スネ夫とジャイアンたちは野球道具を持ってグラウンドへ。この頃はまだ「ジャイアンズ」は結成前である。
しばらく経っても、のび太は教室から出て来ない。様子を見に行くと、のんびりと帰ったら何をして遊ぼうかと考えを巡らせている。呆れるドラえもん。
そこで、のび太は校舎脇の茂みに誰かが隠れていたことを思い出す。だったら隠れて誰が来るか待ち伏せしようということで、二人は茂みの中に身を隠す。
・・・大体この辺でその後の展開が見えてくる。
そこへ、作品冒頭と同じように、「帰ったらママに褒めてもらおう」などと独り言ちながら、のび太が歩いてくる。そして草むらにいる自分たちにのび太が「誰?」と声を掛けてくる。
茂みの中ののび太は、これでは犯人に見つかると危機感を募らせ、「うるさい!さっさとあっちへ行けっ」と、過去ののび太を怒鳴りつける。どこかで聞いたセリフだが・・・。
そこにグラウンドから野球のボールが飛んでくる。スネ夫が追ってくるが、追いつけず、ボールは茂みの中ののび太の頭を直撃。のび太は「痛いじゃないかっ」とボールを茂みの外へと投げるのだが、何とこのボールが教室の窓ガラスを割ってしまう。
そう。ガラス窓をボールで割ったのは、未来ののび太であったのだ。過去ののび太は、未来ののび太の浅はかな行為によって、叱られてしまったのである。つまりは自業自得。
なお、本作のように犯人を探してみたものの実は自分が犯人だったというパターンは、有力な藤子あるあるの一つである。
夜になって、スネ夫が昼間のことを気に病む。今になって野球ボールがガラスを割ったのではないかと思うようになる。「のび太はともかく、ドラえもんを怒らせると怖い」とスネ夫。謝っておこうと、トボトボとのび太の家に向かう。
しかし真実を知ってしまったのび太は、そんなスネ夫に対して伏目がちに
と丁寧に対応する。昼間の勢いがないのび太に対して、スネ夫は「男らしい!」と驚くのであった。
さて、本作のポイントをフラッシュバック
・過去に遡って行った行為は、既にタイムラインに組み込まれている
・犯人を捜すと、犯人は自分
・タイムマシンがあると、犯罪は減るのでは・・?
・過去に行かなかったら、現実は変わったのだろうか・・?
かなり優秀な「タイムマシン」作品である。
本稿はこれにて終わり。次稿へ続く!
「ドラえもん」考察、細かくやっています。
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