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1時間前の過去と、1時間後の未来へ『タイムマシン』/タイムマシンで大騒ぎ③

藤子F先生を敬愛されているという上田誠先生率いるヨーロッパ企画の代表的演目に「サマータイムマシンブルース」というお話がある。実写映画化されたり、森見登美彦先生の「四畳半神話大系」とコラボした「四畳半タイムマシンブルース」という小説~アニメも作られるほどの人気作だ。

内容としては、「ドラえもん」型のタイムマシンで、たった一日前にタイムトラベルすることで繰り広げられるドタバタコメディである。ただし、全編テンションの高い騒ぎが続くものの、かなり緻密に計算された高等なSF劇である。

登場人物たちの猥雑なワイワイ感が印象深いのだが、その雰囲気とは裏腹に、作り手は一人静かに構想を巡らせないと書き上げられないお話である。

非常に藤子F的な作品であり、逆にここまで藤子先生以外の方がここまで藤子F的な物語を完成させられるのかという驚きも感じる。


本稿では「タイムマシンで大騒ぎ」シリーズ第三弾として、まさしくタイムマシンを使って大騒ぎするお話を紹介したい。この作品も、終始トタバタとしていくのだが、実際には伏線とその回収を気持ちよく畳みかける、計算し尽くされた出来栄えとなっている。

しかも、過去と未来の両方を舞台とする豪華版である。本作などを読むと、「タイムマシン」ものは、藤子先生の才能をもっとも感じられるジャンルかもしれないと思う。


「ウメ星デンカ」『タイムマシン』
「小学三年生」1968年12月号/大全集1巻

本作は、おかしな出来事が起こり、実はその裏側では1時間前の未来から来た自分たちの仕業だった・・、という展開のお話。前半戦で伏線を張り巡らし、中盤でその回収をしていくという流れ。そして後半戦では、さらにもう一周の伏線と回収を行っている。

「小学三年生」という雑誌に掲載された作品だが、時系列が複雑なタイムマシンものとしては、極めて分かりやすく、知的好奇心がそそられる仕上がりとなっている。ただ丁寧な分、全体のページ数は20ページに及ぶ大作となっている。


それではまず前半のおかしな出来事を羅列していこう。


太郎が勉強していると、頭だけのデンカが現れて追い回される。しかし後から現れたデンカは何のことかわからないという。


ママがオヤツを運んでくるのだが、途中で別の(?)太郎とデンカが現れて持って行ってしまう。太郎がまだ何も貰っていないと言うと、「うそをつくのは悪いこと」だと言ってほっぺたをつねられる。


外を歩いていると自分とそっくりの財布が落ちている。中身は同じく20円。自分の財布はあるので、落とし物ということで交番へ持っていくことに。


フグ田に出くわすと、急に「わかってるだろ」と言われて殴られる。


みよちゃんの家に行くと「また来た!図々しいわね」と言って怒られる。


変なことばかり起こると思う太郎とデンカ。彼らの前に、もう一組の自分たちが歩いている。相手は「しまった、見つかった」と言って逃げていく。そのまま塀の中へと消えていく


不思議なこともあるものだと家に戻るデンカと太郎。両親(王と王妃)に相談すると、「ひょっとしてタイムマシンかもしれんぞよ」などと言い出す。何とウメ星ではタイムマシンはずっと昔に開発されていて、今では古道具屋でしか売っていないという。

そして、一台持ってきたはずだと言って、不思議なツボの中からボロボロのタイムマシンを取り出す。それは見た目通りに既に壊れているようだ。

しかし、壊れて使えないとなると、太郎とデンカがもう一組いるなんてありえない。王様は色々といじってみるが、元々機械が得意ではなかったので直らない。しかしデンカが蹴飛ばすと、動き出す。


直ったとはいえ、タイムマシンはボロボロなので、どうやら1時間ほどしか動けないようだ。このタイムマシンは設置型で、機械の中に入るとトンネルとなっており、そこを抜けると1時間前の世界に通じる。

機械が本調子ではなかったらしく、デンカは首しかタイムトラベルできなかった。体はトンネルの中に残ってしまったと言うことで、太郎が取りに行くことに・・・。


さて、ここからは前半の不思議な出来事のネタバラシのコーナーである。


顔だけのデンカが一時間前の太郎の部屋に行って、太郎を脅かして追いかけ回す。


デンカの体を持ってきた太郎と合流。おやつを運んでいるママを見つけて、声をかけて横取りをしてしまう。後から声をかけた太郎のほっぺたをママがつねる。


タイムトラベルしてきた太郎たちは壁をすり抜けることができる。もう怖いものはない。外へ出るとフグ田が歩いており、太郎は「さっき殴った仕返し」ということで石を投げつける。太郎たちは壁の中に消えてしまうが、そこへ現れた一時間前の太郎をフグ田は殴りつける。

ここでは太郎とフグ田が互いに殴ったり石を投げつけたりしているので、どっちが悪かったのかはよくわからないことになっている。


みよちゃんが怒っていた理由を探りに、みよちゃんの部屋に潜入する太郎たち。机の上にみよちゃんの日記が開いてあり、それを読んで楽しんでいるとみよちゃんが現れて、当然激怒。逃げ出した後、一時間前の太郎たちがやってきたので、怒って追い返す。


気がつくと財布を落としたようだ。交番に相談に行くと、さっき届けた子じゃないかと驚かれる。それは僕のですと答えたので、「からなうなっ」とお回りさんに怒られてしまう。


過去のデンカたちと遭遇するシーンは描かれず、伏線の回収シーンが行われなかった。未来のデンカたちは「だいぶややこしくなってきた」ということで、未来へと戻ることにする。


元の世界に戻ってきた太郎とデンカ。ここで話が終われば良かったのだが、ここからが後半戦の始まりである。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で過去から戻ってきて、続けて「PARTⅡ」で今度は未来に行くような展開になっていく。


宿題に苦労する太郎。捗らないので、一時間後の世界に「タイムマシン」で向かい、一時間後の自分に宿題を教えてもらおうと考える。デンカの姿がないので、太郎一人で未来へと向かう。

さっきは過去の世界に向かったので、既に起きたことの真実を知っていくという展開だった。ここからは未来に向かうので、将来の太郎が経験することを先取りして見ていくことになる。


1時間後に到着し、さっそく太郎の元へ。宿題を教えてもらいたいのに、「君が怠けていたから苦労するんだ」と逆に嫌味を言われる。そして一緒にやろうと提案されるが、楽するために未来に来たのだからと言って、逃げ出す。

この世界では二人の太郎がいることになるので、宿題が終わるまで押し入れに隠れることにするのだが、そのまま眠ってしまう。

寝すぎたようで電気が付いている。すると別の部屋で何やら騒ぎが起きている。すると未来の太郎がびしゃびしゃになって気絶している。王様は「早く霊きゅう車を呼ばんといかんぞよ」と騒いでいる。

慌てているママに、太郎が「僕はどうなったの?」と尋ねると、「あなたが溺れたのよ」と答える。・・・ここで、二人の太郎を見たママは大混乱。太郎は急ぎタイムトンネルとくぐって過去へと戻る。


太郎が見てきた未来は、これから経験する事実である。太郎は一瞬慌てるのだが、海や川に行かなければ溺れないだろうと考える。風呂にも入らないしようと思いつつ、宿題に再度取り掛かる。

そこへ1時間前の太郎がやってくる。現在の太郎としては、単なる宿題の邪魔ということで、先ほど見たやりとりが繰り広げられる。そしてどこかへ行ってしまう1時間前の太郎。


現在の太郎は相変わらず宿題に苦戦。1時間前の自分と力を合わせる必要があると考える。押し入れで寝ていることは、さっき経験しているので知っている。無理やりにでも起こそうということで、押し入れのある部屋へと向かう。

すると、部屋に転がっていたボールに足を取られ、タンスにぶつかり、上から金魚鉢が落ちてくる。それが、太郎の頭に丁度良くズボとハマり、そのまま溺れてしまう・・・。

「なるほど、こういうわけか」と納得する水浸しの太郎なのであった。


物語前半では過去へ。後半では未来へ。前半パートでは不可思議なことが次々と起こり、過去に行くことでその裏側の事実が見えていく。後半パートでは未来の自分の運命を垣間見て、その後それを実際に経験する。

「タイムマシン」は未来と過去に行ける機械だが、その両方をいっぺんにやってしまっているのが、本作なのである。

かなり凝った作りで、20ページにも及ぶお話なのだが、小学三年生(8~9歳)の子供たちがワクワクするような分かりやすい展開に落とし込んでいる。

「タイムマシン」作品は数多くあれど、本作はその導入篇として完璧な作品なのではないかと思う次第である。



「タイムマシン」特集はまだまだ続く。


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