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12月のいだてん

第45回「火の鳥」
田畑政治(阿部サダヲ)がオリンピック組織委員会を去ったけれど、裏組織委員会として田畑家が解放され、めちゃ楽しい集会場ができた。クドカン作品には色んな"溜まり場"が出てくるけど、意外と主人公の自宅っていうのは珍しいパターンね。皆川猿時、角田晃広、前野健太が出入りする場、ずるい。

金栗四三が日本で走破した場所を記した地図から聖火ランナーの走路を導き出す流れは春頃の放送を思い出してたまらない気持ちになる。こちらも長い時間をかけて見てきたことをずっしりと実感。そして何より凄まじかったのは中村勘九郎の72歳の芝居である。本当にその齢にしか見えなかったから。

ここまでスーパーサブ的な立ち回りだった岩ちん(松坂桃李)が完全に主役級の立場に躍り出たことも面白い展開。最後の主人公は君だったのか、感。鬼の大松と東洋の魔女に関するエピソードで女子スポーツの発展を描き、そして最後は"自分"へと帰結させるあまりにも真っ直ぐな脚本。感服しかない。

第46回「炎のランナー」
1964東京オリンピック、開催半年前に迫った春。川島(浅野忠信)が作り出した混沌の荒野・五輪担当大臣の座に田畑とも旧知の河野一郎(桐谷健太)が着任し、田畑も東都知事(松重豊)と静かに仲直りし、何やかんやで再び組織委員会にも顔を出すように。角ちゃんのコンゴ国歌を採譜するシーン、爆笑。

平沢和重(星野源)が見事な手さばきで成功させた沖縄での聖火。「世界はひとつになれない」と1stアルバムの1曲目で歌った男が、平和の祭典の重要人物を演じるカタルシスは凄まじく、意義深い。田畑の妻を演じる麻生久美子が星野源のファンであるという事実を活かした演出もとても良かった。

そして悲願だった選手村の完成。コンゴからの参加は陸上選手が2人という金栗・三島を彷彿とさせる状況も美しい。きっとここからコンゴでスポーツが広まり、「いだてん」的な物語が始まり、現在も進行中なのかもしれないのだから。89歳のドッヂボール仙人・可児徳(古館寛治)の再登場も嬉しい!

第47回「時間よ止まれ」
1964年東京オリンピック開会式当日を描く最終回。ロス五輪の水泳チーム(斎藤工、林遣都、三浦貴大、大東駿介)、野口くん(永山絢斗)に可児さんも揃う開会式のシーンはそれだけで1年間を見てきた価値があるシーン。中でも金栗四三が、緊張で押しつぶされそうな聖火最終ランナー坂井義則(井之脇海)を冷水と「なーんも考えんと走れば良か!」のエールは第1話からの全てがリレーされて繋がったように思えて涙が出た。

古今亭志ん生が1964年オリンピック開会式当日にテレビ寄席で「富久」を掛けたという史実(!)から逆算されて作られていたという、ここまでの落語パートの収束も小粋で見事。五りん(神木隆之介)の人生のリレーは、名もなき人々のモノだ。その世界もまた静かに優しく描ききったのが美しい。

「俺のオリンピックがみんなのオリンピックになった!」と叫んだ田畑政治(阿部サダヲ)が、嘉納治五郎(役所広司)を想って涙を浮かべるシーンは圧巻であった。執着がそっと昇華する瞬間、その感情の横溢。五輪の最前線から一度は退くも、誰もが放っておかなかった愛すべきまーちゃんの全てだ。

そしてやはりこのドラマのサゲにあたる部分が圧倒的だった。金栗四三が途中棄権した1912年ストックホルムオリンピックの開催55年式典に招待され、54年8か月6日5時間32分20秒3という長きに渡るレースのゴールテープを切るシーン。これが史実であり、その映像が残っているという衝撃。そこから喚起される感動。これはもしかしたら"歴史ドラマ"の在り方を予感させる重要な作劇なのではなかろうか。この未知なる余韻、誰もが人生を悔いなく完走する意味を優しく教えてくれているようで。クドカンのいだてんは絶品!!

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