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2019.11.03 ACIDMAN "創、再現"@福岡DRUM LOGOS

ACIDMANが2002年にリリースしたメジャー1stアルバム『創』、発表から17年を経ての再現ツアー。個人的には2週前にアジカン、エルレ、ストレイテナーのNANA-IRO ELECTRIC TOURを観ていたので、その延長戦かのようにして観てみたりした。やっぱゼロ年代ギターロックなんですよ、、、と言いつつ、ACIDMANに関してワンマンは初めてで、観たのも2013年のワイルドバンチ以来。気分としてはほぼ初見。でも、アルバムは全て聴いていたし、そのうえで『創』の完成されっぷり、初期からの世界観の徹底っぷりには打ちのめされていた。そんな僕にとってこのツアーは願ってもない機会だった。

入場SEは「8 to 1 completed」、オープニングは曲順通りに1stシングル「造花が笑う」。観客たちの待望感が高速の「おい!おい!」とキメのハンズアップに託されていて楽しい。後に明かされるのだが、この日のセットリストは17年前の『創』リリースワンマンツアーと全く同じ。故に、『創』以外の楽曲も初期曲ばかり。2曲目「Free White」は、インディーズ盤「酸化空」収録曲。僕もApple Musicが無ければ聴くことはなかったレア曲。このように新参者にとっては滅多に聴けない曲を急にいっぱい聴けちゃうし、古参の方々にとってはエモの洪水であることは間違いない。各方面にありがたい。

「シンプルストーリー」は、この曲を聴くためにここに来た!と言いたいほどに好きな曲で。3ピースのシンプルな演奏にして、これほどまで情感豊かに在れるのかという楽曲が連発される。全く静かではない「SILENCE」など、初期らしい荒削りで激しいアレンジの楽曲も多く、どちらかといえばパンクシーンに近い位置づけだったACIDMANの原風景を感じることもできた。しかしやはり不思議なのがその独自すぎる歌詞で。昨今は宇宙のイメージに集約されているが、当時はより掴みづらい。「バックグラウンド」とか、これどういう意味が込められた曲なんですかね?ずっと考え続けてる。

10周年ベストで再録された「to live」も披露。大木伸夫によるクールなカッティングはとてもカッコいいのだけど、意外とこの後の楽曲には導入されていないんだよなぁ。本人たちも、このツアーの披露曲を「古くならない」「色褪せないでしょう」と語っていてまさにその通りと思っていたけれど、この「to live」に関してはやっぱり若々しさがあって。今の大木だったら<儚い夢と共に死ね>という言葉選びはしないだろうけど、タイトル通りこれは「生きること」や「生きるため」を歌った曲だ。根底に流れるものは今と何も変わらない。その"決死に生き抜く"ことが性急な歌にも刻まれている。

中盤は、年齢に合わせてまったりとしたブロックも用意された。インスト曲「at」なんて、当時はどういう風に受け入れられてたんだろうか、と思う程に攻めた1曲。「spaced out」のまどろみ感は、今のバンドでいったらTempalayのようだし、ビートの跳ね方はKing Gnuみたい。いつまでも古くならないのは、常に自分たちの美学で動いてきたからで、どんなに前例がなくても信念を通してやってきたからなのだろう。若き日の思い悩みを書いた「酸化空」には等身大の姿が滲んで聴こえてきてグッときた。ただまぁなかなか自分を進化論に投影しないよなぁと大木節には唸らざるを得ない。

ドラムス浦山一悟によるMCでは、インディーズ期に1100kmの道のりを車で走ってきたことや、ベースのサトマが免許取りたてで危なかったこと、最近もまだ下手だったことなど、主に車の中で完結する話を沢山。そしてそこから終盤に。繊細なアプローチでこれ以降の楽曲にも通ずる「今、透明か」や、サトマのパワフルなベースプレイが映える「アレグロ」、今でもお馴染みのナンバーだけどこの流れで聴くとまた違う感傷が加わる「赤橙」など、一切手を緩めはしない。バックドロップの位置には六角形(ベンゼン環)を模した照明が備え付けられており、その点滅の回数も段々と増えていく。

後続していく長尺曲の走りとも言える「揺れる球体」で、2002年のライブ本編はシメ。「10-FEET方式でここからがアンコール」という触れ込みで、当時アンコールとして披露された当時の新曲であり、今やキラーチューンな「飛光」を爆発的な熱量でプレイ。その後もパンクナンバー「培養スマッシュパーティー」を投下し、フロアはだいぶおかしな状態に。ACIDMANは独自のファン層を築いてきたバンドだとは思うが出自はやはりライブハウスなのだろう。トドメの「Your Song」に至るまで、自分が体験できなかったような、衝動的なままのACIDMANを目撃できたようで堪らなく嬉しかった。

「17年前のツアーでは福岡に来れなかった。そういう地域に届けるためにも、当時と同じセットリストで回るのがいいと思った」というMCもあり、まさに17年の時空を超えて贈られるようなライブであった。それが懐古的なだけでなく、驚くほどの鮮度を持って届けられていたことが最も素晴らしいことで。「もっとお金が欲しい」「PayPayドームでできるくらいまで行きたい」と冗談めかして言っていたが、何よりも彼らが求めるのは「心が動くこと」なのだとも強く念を押していた。アンコールで披露された「灰色の街」の雄大でしなやかなメロディは、一見荒々しい『創』とは繋がりづらいが根底ではしっかりと結びついている。ACIDMANの宇宙は、この万物の始まりの『創』を起点とし、今もなお膨張を続けているだけなのだろう。

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