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11月に観た映画(おらおらでひとりいぐも/ビューティフルドリーマー/タイトル、拒絶/泣く子はいねぇが)

おらおらでひとりいぐも

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沖田修一監督の新作。田中裕子の主演で夫に先立たれた老女の日常を淡々と描いた作品。ひたすら写実的に孤独な老人の日々の暮らしを描く中に、主人公・桃子さんの寂しさが人の姿をして登場することで、ファンタジックな映像表現に仕上がっている。"寂しさ"を演じるのが濱田岳、宮藤官九郎、青木崇高の3人だったり、とても賑やかな描かれ方をしているのが美しい。ステレオタイプな「孤独な老人」とか、社会問題として扱うのではなく、孤独は孤独としてちょっと楽しみながら生きられている、という。この視点がとても沖田監督らしい捉え方。桃子さんの逞しさが穏やかな中にも息づいている。

精神世界を具象化して描くとなればと、「ビューティフルマインド」での統合失調症の声や幻覚が実際に姿を持って出てくる描写であるとか、ホラー映画で恐怖を描いたりするのに使ったり、、どうしても過激な表現に行きがちなところをこういう少しファニーで優しいタッチで描くのも画期的だと思う。「モリの居る場所」とはまた違った老いへの眼差し。ささやかな楽しみが人を生かすって当たり前なことのように見えて意外と見逃されがちだから、これからもことあるごとに自分に言い聞かせていきたいと思える映画だった。きっと今後の人生、何度も思い返すシーンが沢山詰まっていた。


ビューティフルドリーマー

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本広克行監督作品。大学の映画研究会が偶然見つけた台本と作りかけの映画を、完成させるために奮闘するというあらすじ。で、何より重要なのがその作っている映画の内容。これが、押井守監督が1984年に公開した「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」そのままで。存在は知ってたけど、未見の作品だったので、ここまでうる星やつらの要素が強いのか、、と知識不足を反省するに至ったのだけど、後日ちゃんと「うる星やつら2」を観た。結果として、この作品が内包する切なさが増幅されたし、「うる星やつら2」が決めた"作劇の大技"ってかなりクレイジーで、影響の巨大さを思い知った。

夢のような楽しい時間、を描くうえで「うる星やつら2」の引用(さすがに多すぎるけど笑)は納得できるし、中盤のある仕掛けによって更にその夢っぷりが際立つことになる。完成させようとすると何かが起こり、永遠に完成させられないといういわくがついた、という部分で惹きつけて進んでいった先に待つ景色として説得力があった。主演の小川紗良はこれに近い構造を持った作品「聖なるもの」でもヒロインを務めていたし、映画愛を伝えるにはうってつけの役者なのかもしれない。本人も実際に映画監督だし。ひねくれた形、だけれども、娯楽って、カルチャーって、夢心地になれるものなのだ。


(上2本はポッドキャストでも感想喋りました。)


タイトル、拒絶

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劇団ロ字ック主宰の山田佳奈監督作。観終わったあと、だいぶ食らって今なおその衝撃度を言語化できていない。デリヘル嬢の待合室で繰り広げられる会話劇。人と人とが影響しあって生きねばならない社会の実態、そこに漂い続ける虚無感を主人公を演じる伊藤沙莉の視点を通して観察し続ける。殴り書きのようでいて物凄く緻密に運ばれる感情のうねり、生き辛さを抱えるしかない現代の闇、、とか理解した口調で説明しようとしても、“分かってたまるか”の塊をぶつけられてしまう。他人のこと、マジで分からない。分からないということだけが分かる映画。隣り合う世界の広がり、恐怖だし虚しい。

密閉空間で各々の正しさと共に暴れる群像、その中で一際凄まじかったのが恒松祐里演じる人気No.1嬢マヒル。彼女の圧迫感ある笑顔、そして執拗にテレビを観続けるシーン、彼女の背景が浮かび上がってきて以降その所作ごとにズンとならざるを得なかった。彼女が放った最後の台詞には、李相日監督「スクラップヘブン」(2005)のラストを思い出し、15年経てどこの空洞は埋まらないのだな、、と俯いてしまう。救いがあるとするならば、ずっと観察者として観客と同じ目線で物語を見つめてきた伊藤沙莉が一歩踏み出したシーンの存在だろう。分かりはしないけど、叫ぶことは出来るかもしれない。


泣く子はいねぇが

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是枝裕和が所属する分福の若手監督・佐藤快磨のメジャーデビュー作。秋田を舞台に、故郷から逃げ去った男の帰郷とそのイニシエーションを描く作品。主演は仲野太賀、もうこういう造型の役であれば恐らく右に出るものはいないレベル。彼が演じる主人公・たすくに漂う"どうしようもなさ"は目を覆いたくなるようなもの(それはどこかで自分の中に彼の面影を見ているからかもしれない、、、)であり、その部分をこれでもかと微細に描いていく作風。出てる役者が全員とんでもなく巧いので、ド派手なシーンなどなくとも染み入るように観れてしまう。くたびれた吉岡里帆、泣く山中崇、最高だ。

なまはげというのが大きな題材となっていて。全然知らない習慣だったのだけど、劇中でギバちゃんの口から語られる所を聴く限り、親と子の結びつきを強めるという側面もある通過儀礼のようなもので。それを踏まえて見ていくと、やはりラスト近辺の展開はかなりグサグサきた。物語の運び方はもしかしたら、、と予想付くかもしれないけれども見せ方が圧倒的すぎる。最後の最後なんて、ほとんど台詞なんてなくって、それでも全部伝わってくる。視線が、声が、全てを伝えてくる。こういう画を一発目で作れてしまう監督、今後に期待しかないでしょ!ハードで生々しいやつ、どんどん観たい。



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